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声が聞こえる-1-

 ----------最初に聞いたのは、無機質に、そして規則的になる音。 次に聞いたのが、俺を呼ぶ誰かの声。 この声は……。

「かあ……さん?」

 そう思い、ゆっくりと目を開ける。 すると、だんだん視界が真っ白に眩しく光ってきた。 同時にさっきの無機質な音がより鮮明に聞こえてくる。 ピッピッピ……となるその音は、よく病院のドラマとかで使うあれだ。 名前は忘れた。

「……や、直也っ」

 俺を呼ぶ声も鮮明に聞こえ始めた頃、眩しく光っていた光も徐々に薄くなり、見えたのは白い天井と、心配そうに俺を見つめる母さんの姿だった。

「直也っ! 母さんよ、わかる!?」

 俺が母さんに気付いたのが分かったのか、母さんはさっきよりも大きな声で俺に話しかける。

「……そんなに大声出さなくてもわかる……」

 たった一言そう伝えると、母さんは安堵の表情を浮かべた。

「待ってね、今先生呼んでくるから!」

 母さんは俺の頭上についているナースコールのボタンを押した。 ああそうか、ここは病院なのか。

 しばらくしてやってきた医師から全てを聞いた。 俺はあの事故で見事に意識不明の重体になり、1か月半眠りっぱなしだったらしい。 あの状態で目を覚ませたのは奇跡だとかなんとか……。 

 医師が言った通り、俺の頭……というか体のほとんどのところに包帯が巻かれていて、それはかなり重症だったことを俺に教えてくれた。

 医師も、母さんも、クラスの奴らも、見舞いに来るたび「生きててよかったな」と言う。 けど、俺は正直言って嬉しくない。


「また……つまらない日々が始まるのか」


 退院してから一週間、まだけがは完治していないものの、俺は復学することになった。 今日は丁度1学期の始業式らしい。 久しぶりに見る通学路は、今までの俺の人生の気だるさを思わせる。

『君は愛を知るまで死ねないよ』

 目覚める前、あの自称神に言われた言葉。 あの時はどう気が変わったのか、あの話を引き受けた。 今考えてみれば、どうやって愛を知ればいいのだろうか。

 ……女と付き合う、とかか? それとも……。 いや、さすがにソレはないだろう。 自称でも神ならそれは強要させないはずだ。 させたら地獄行きになろうがなんだろうがあいつを殺す。

 そうこうしているうちに、学校についてしまった。

「直也!? 戻ったのか!?」

 背後からやけに馬鹿でかい声が聞こえた。 うん、この声でわかる。 無駄に明るくて低いとも高いとも言えないような声。

「……大生か」

 高橋大生たかはしだいき。 こいつは見た目ヤンキーっぽいけど、本当は誰よりも心優しい奴。 そして、俺が唯一信用できる親友。

「直也あああああ! 会いたかったよおおおおお!!」

「馬鹿、声がでかい」

「だって直也が戻ってきたんだぞ!? もう喜びの他に何があるんだよ!」

「わかったから早く教室行くぞ、うるさいからここで叫ぶな」

 呆れながら、教室に行こうとした時だった。

「あのっ、大生君! 話があるんだけど……」

 俺たちの前に現れたのは、茶髪でカールがかかったロングヘアーの女だった。 頬を真っ赤にしていることから、俺はなんとなく次に起こることを察した。

「わかった。 直也、先行ってて」

「おう」

 大生と女はどっかに行ってしまった。


「直也!?」

「直也君戻ってきたの!?」

「けが大丈夫なの?」

 教室に入った瞬間、クラスメイトに詰め寄られた。 なんだか女子が多かったのは気のせいだろうか。

「復学早々モテモテだね、直也」

 俺が席に着いたとき、話しかけてきたこいつは中上拓哉なかがみたくや。 少しポチャっとした体系で、なんだか愛らしい奴……と、この間女子たちが話していたのを小耳にはさんだ。

「モテモテって……俺そんな奴だったのかよ」

「自覚なしかよ。 そういえば、大生は一緒じゃなかったのか? さっき散歩してくるって外行っちゃったけど……」

「彼奴はさっき女に告られにいった」

「うわっ、さすが『ダブル高橋』なだけありますな」

「その呼び方すんなよ、気持ち悪りいな」

 『ダブル高橋』 それは俺と大生のこと……らしい。 この2人は学校で断トツでモテていて、どっちも高橋だからそういうコンビ名?がつけられた(と、拓哉が言っていた)。 大生はそれを聞いたとき陰でこっそり喜んでいたけど、俺は嫌いだ。 そもそも俺がモテているなんて思わねえし。

「直也が帰ってきてから教室騒がしいな」

 大生が教室に戻ってきた。

「大生、さっきのやつは?」

「悪いけど振った。 俺には好きな奴がいるからさ」

「そうか」

 そういうと、大生は自分の席に戻っていった。

 大生に好きな奴か……初耳だな。 あいつは結構チャラチャラしてるから、告白されただけで即オッケー出して付き合いそうだけど。  ……ちょっと親友として気になるな。

「------というわけで、直也君、いいですか?」

「は?」

 学級委員長の穂原ほはらに名前を呼ばれ、俺は我に返った。

「は? じゃなくて、図書委員の男子は直也君に決まりましたからね」

 穂原が指差した黒板には、こう書かれてあった。

『図書委員 高橋直也

      中島奈々』

「おい、これ決定かよ」

「今まで話し合いに参加してなかった奴に拒否権はないですよ。 では委員会は今日からありますので各集合場所に------」

 そうして、俺は強制的に図書委員になった。


 放課後、委員会の集会も終わり、今は図書室の前にいる。 俺は早速図書室当番を任せられた。 いくら人手不足だからって初日からはないだろ……。 なんて考えていたら

「直也君……?」

 と、後ろから声がしたから振り返った。 同じ図書委員になった中島だった。 こいつは今日当番じゃないはずだけど……。

「何」

「あのさ、話があるから来てほしいんだけど……」

「悪い、俺図書当番だから、下校時刻あたりでもいいかな」

「……うん、じゃあ私がここに来るね」

 女はそう告げると、走り去っていった。

 中島……顔赤かったな。 このパターンは、やっぱりあれか。 それにしても、どうして俺なのだろうか。 もっと他にも男子はいるはずだ。 俺は誰も好かないとわかっているのなら、告白なんてしても無意味なんじゃないのか。

『それでも……母さんは信じたいのよ』

 あの時の母さんの言葉がよみがえってくる。 母さん……馬鹿な母さん。 誰も好かないとわかっていて、愛し続けたらああなった。 

「……って、何考えてるんだよ俺」

 もう忘れようと、決めたんだ。 今更何考えたって遅い。 俺は図書室のドアを開けた。

「……あ」

 穏やかな夕日の日差しが丁度差し込んで、ほんのり紅く染まる図書室。 ずらりと本棚にきれいに並べられた本。 そして、真ん中にぽつんとあるカウンター。

 


そこに……彼女はいた。

 

 


 

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