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死んだはずなのに死なせてもらえませんでした

「直也君、話があるんだけど、いいかな?」

 ある日の放課後、1人の女子が俺に話しかけてきた。 確か……三品桃香みしなももかって言ったっけ。 確か結構もてるんだったよな。

 こいつの話は大体見当がついている。 クラス内でも噂されているから。 1ヶ月前も放課後に呼び出されて、告白された。 振ったけど。 正直言って、もうしつこいとか思い始めてきた。

「……何、話って。 何話す気なの?」

「えっ、えっと……ここじゃ話しづらいから、人気がないところにいこう?」

 ……ほら、多分そうだ。 俺の中の予想が、確信に変わる。

「だから、話をまとめてくれる?」

「っ……」

 少し声を低くして、彼女に俺は問いかける。

「告白……しに来ました」

「誰に?」

「……」

 ほら……ここで黙る。 所詮そんなもんなんだよ、恋とか、愛とか。

「……ごめんなさい」

 俺は一言言って、その場を後にした。

 高橋直也たかはしなおや、高校2年生。 それが俺のプロフィール。 人生は、充実しているとは言えない。 

 いっその事、こんな人生なんて終えてしまいたい。 そう思いながら歩道橋を歩いているときだった。

「ひったくりだー!!」

 下のほうから、そんな叫び声が聞こえてくる。 気になってのぞいてみると、黒いバイクに乗った黒いライダースーツを着た男が女性もののバックを持って歩道橋に向かって走ってきている。 

 ……え?歩道橋に向かって走ってきている?

「まさか……」

 俺が上ってきたほうを見ると、そのまさかは的中していた。 なんとひったくり犯が逃亡のために歩道橋に乗り上げてきたのだ。

 そいつは歩行者なんてお構いなしにスピードも緩めずにこちらに向かってきている。 あまりに突然の出来事に、理解が追い付かない。 脳は「逃げろ」と警告音を鳴らしているが、足がすくんで動けない。

「危ないッ!!」

 誰かがそう言った時には、もう遅かった。 バイクにはねられた俺の体は歩道橋の壁に激突し、そのまま身を乗り出すような形になり、そして……


--------ドンッ!!


2月13日、俺の17年間はあっけない結末で終わった。


--------------------

 『真っ白』それが最初の印象だった。 目を覚ました俺は、どこだかわからない場所に倒れていた。 あれだけ派手に、しかもバイクとトラックの両方にはねられたはずなのに傷一つついていないし、痛みさえ感じない。 そうか、俺死んだのか。

「残念ながらまだ死ねないんだなー♪」

「……は?」

 いつの間にいたのだろう。 今の声に驚いて後ろを振り向いてみたら、真っ白いワンピースを着た金髪ショートヘアの女が立っていた。 女と言うより……幼女か?

「なっ! 幼女じゃないぞ! これでも私は君より何千年も生きているよ!?」

「どっからどう見てもその背丈は確実に幼いやつだろ」

「ふざけんな! 私はチビではないっ!」

 ようじ……女は顔を真っ赤にしながら怒っていた。

「それに君っ! 礼儀ってものはないの!? 私は神なのだぞ!」

 ……は? 今なんと? 神様? 全然そうには見えませんが。

「失礼な、私はれっきとした神だ」

「なんで俺の本心読んじゃってるんだよ」

「神だからね、なんでもありだ」

 自称神様の女は、得意げに話した。

「それより……まだ死ねないってどういうことだよ」

 俺は一番気になっていたことを自称神に聞いてみた。

「あーそれね。 要は、君は愛を知るまで何回も生き返り続けるんだよ」

 ……自称神が言ってることの半分も理解できなかった。 いや、何を言いたいかは分かったんだけど、意味が分からない。

「なんだよそれ、俺はさっきトラックに轢かれて死んだんじゃねえのかよ」

「そうなんだけどさー、どれだけいいことをしても愛を知らないまま死ぬのは悲しいじゃん? だから、今度から天国に行く条件に『愛を知っていること』を足そうと思ってね。 でもいきなり実行するとあの世とこの世を彷徨い続ける浮遊霊が続出しちゃってこっちも困るわけ。 で、最初に実験してからにしようと思ったんだけど、その時に丁度死んだのが君だったんだよ」

 俺はこの時思った、俺の人生がつまらなかったのもこいつがすごく適当なせいじゃないか、と。 丁度死んだから実験に使うとか、どういう思考回路があればそうなるんだとツッコミを入れたかったが、もう面倒くさい。

「つまり……愛を知るまで生き地獄、か」

「呑み込みが早いね、ちょっと違うけどまあそういうことさ」

「断る」

「決定も早いよ!? 別に死んだんだからさ、協力してくれたっていいじゃん!」

「嫌だ、俺は地獄だろうが天国だろうがあの世とこの世の境だろうがさっさと死にてえんだよ」

「だめ、これ決定事項、神様命令、取り消せない」

「なんでカタコトなんだよ」

「成り行き!」

 だめだこいつ、キャラが定まらないタイプだ。 俺の一番苦手とする奴だよ。

「それよりさあ、なんでそんなに死にたいの?」

「えっ」

「あと、なぜ愛を知ることを拒む」

 自称神の口調が変わり、声も少し低くして俺に問いかける。 少し驚いてしまったが、俺は自分なりの冷静な口調でこう答えた。

「死にたいのは、俺の人生がつまらなすぎたから。 愛を知ることを拒むのは、愛なんてくだらないから」

「なぜ愛はくだらないと断言する?」 

「俺は愛があったとしても、それがずっと続いたところを見たことがない。 愛と称して暴力をふるうやつらだっている。 だったら、悪と同じくらいくだらないものなんじゃないのか?」

 ずっとそうだ、赤ん坊のころも、幼稚園の時も、小学生、中学生の時も。 それは高校生になったって変わらなかった。 そして、それはこれからも続いていく。 ずっと、そう思っている。

「なるほどね……君は愛をくだらないものと悟っているようだ。 けど、実際は愛の1/3も知らないみたいだね。 君はわからない単語があったらどうする?」

「は? まあ、辞書とかでで調べるな」

「でしょ? それと同じ。 君は今辞書を開こうとさえしていないんだよ、目の前にあるのに」

 自称神はさっきのうざいくらいの明るい口調に戻っていた。

「それってさ、もったいなくない? 折角愛を知るための辞書が目の前にあるんだよ? 調べる前から分からないって諦めていたら、わかるものも一生わからないよ?」

「……」

 何も言い返せなかった。 そいつの言っていることが正論すぎたから。 たかだか17年間で愛を悟るなんて到底無理な話なのだろう。 ようやく分かった。

「わかった、その話を引き受ける」

「マジで!? やったああああああああ!!」

 自称神は飛び跳ねて喜んだ。 その姿を見て、やっぱり幼いなと思った。

「落ち着けって……。 で、俺はどうすればいいんだ?」

「えっと、準備ができたらあっちの光をくぐるだけ! そしたら現実に戻るから!」

 自称神が指差した先には、人が1人入れるくらいの真っ黒な光の穴があった。 例えるなら、ブラックホールのミニチュアと言ったところだろうか。

「じゃあ健闘を祈るよ!」

「ああ」

 俺はゆっくりと黒い穴に向かって歩き出した。 いや、吸い寄せられたというほうが正しいのかもしれない。 その穴に引き寄せられるように歩かされたようだ。

 穴の入り口に足を踏み入れると、徐々に俺の体を光が包む。 すべて包み込まれたとき、俺は意識を手放した。

 


 

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