side 雪
ああ、これは現実かい?
いや、現実なんだろうね。
なんせ、昨日もらったばかりの大将の包丁がカバンに入っている。
昔のお古らしいが、俺にはかけがえのない宝物だ。
電波も届かない。
いや、電波なんてないのかもしれない。
淡い希望は、倍になって返ってくる。
そう知っているからこそ、楽観的な期待はしないでおこう。
唯一の救いは天馬がいることだろう。
なんだかんだ昔からの幼馴染で、気を使わなくて済む相手というのはとても貴重だ。
それに、あいつはなんとなく落ち着ける雰囲気を持っている。
よく人から雪の側は安らぐと言われるが、俺からしたら天馬の側の方が安らげる。
さて少し落ち着いてきたことだし、深呼吸でもして現状を把握しよう。
母方の実家が田舎にあるが、あそこと同じ様な空気だ。
なんていうか、澄み切った味がする。
ただ、なんとなく不純物でない不純物が混ざっている。
そんな感じがするのはなんでだろう?
まあいい。
とりあえず体を動かして見るが、特に違和感はない。
むしろ好調な気さえする。
学校や親、大将にはなんて言おう。
まあ、何よりも無事に帰ることを最優先にしないとな。
どう考えても、昨日の帰り道で天馬に纏わりついたあの煙が妖しい。
妖しいだけでは何の手掛かりにもならないが、何かのヒントにでもなればいいか。
そろそろ天馬を起こすかな。
この状況でよく眠っていられる。
いや、気絶しているのか。
どちらでもいいや。
こいつのことだから、きっと盛大に混乱するだろう。
いつも以上に笑顔を絶やさず、いつもを装ってやればいい。
どちらかがパニックになれば、それは伝染する。
訳がわからないまま無暗に行動すると、恐ろしいほどの体力を消耗する。
助かるものも助からなくなる。
それだけは避けないとな。
おいおい、聞き間違えか?
今、マモノって言わなかったか?
ここに来てから、随分と耳が良くなった。
視力も今なら2,0を超えてるんじゃないか?
幸い天馬は話に夢中で気づいてないらしい。
現実を見たくはないが、人と接触しないと何も始まらない。
なあに、いつも通り、面と向かって、受け止めよう。
いつもやっていることじゃないか。
綺麗なブロンド
青みがかった髪色
彼らが持っているのは、見たこともない果実