リッケルの森珍道中。ザヴァー!!
すいません、ちょっと所用で予定より遅れました。
約束の時間になったので、湖から上がる。
どうせ誰もおらんだろー、と。
ポセイドンよろしく「ざばー」とか言いながら徐々に顔を上げる。
……リラと目が合った……。
「ざばー」
再潜行する俺。
……だって目が合ったし!
もう一度、ポセイドンを試みた。
「ザヴァー」
ちょっと巻き舌気味で。
大剣が振り下ろされたので再々潜行。
少し距離を取り、
「ザヴァー」
今度は大剣を避けつつ、陸に上がる。
「俺だよ、俺、俺!」
「モンスターが喋りました!?」
「なんだ、クロウじゃないか。どうしたんだ、その格好」
え? と、リラが俺を見つめてくる。
じーっと。
……やめて恥ずかしい。
俺みたいなゲームばっかやってる日陰者にはたとえゲーム内といえど見つめられるのは恥ずかしいのである。
「確かに、クロウさんですね? えぁっと、多分」
「すっげー自信なさげなことにより信憑性がゼロにー」
「でも、エラとかありますし、ウロコもついてますから……」
あー。そういえば主様を憑依させっぱなしだったことを忘れていた。
能力解除、と。
俺の体から霊魂が抜け出……てこない。
「あれ? 霊魂が出てこない」
「でも、エラやウロコはなくなりましたよ?」
触って確認してみると、確かに消えている。
と、確認する為に挙げた左手の、水に入っていたため濡れているローブが光っている事に気付いた。
正確には、左腕が淡く青い燐光を放っていた。
ローブをまくってみる。
「おお、綺麗なもんだな」
「確かに、綺麗な青ですね。なんですか、これ?」
「なんだろう。……ウロコ?」
左腕に、小さな青いウロコが少量(五ミリ位のウロコが二十枚程度)生えていた。
手をかけてみるも、はがれない。
「ナンダコレ」
「まあ、綺麗だからいいんじゃないでしょうか。邪魔にもならなさそうですし」
それもそうか、と気にしないことにするが、聞いてもいないのに黙っていた聖夜が急にベラベラと喋りだした。
「恐らく、主様は中ボスであるため、通常のゾンビとは違い、クロウの一部としてプログラミングされたんじゃないだろうか。クロウ、パラメータ画面開いてみろ」
開く。
「特殊スキル 泳ぐ がそのままになっているみたいだ」
「ためしに泳いでみろ」
湖の中に入る。
と、俺の体にエラやうろこが生えたのが感覚で分かった。
「あれ、能力は発動していないはずなのになんで? しかもMP減ってない」
「一回上がってみろ」
上がる。するとエラやウロコが消える。
「自分の意思で魚人状態になる事はできるか?」
眼を瞑り集中。来い、ナイロックの主!
左腕の燐光が一瞬強くなり、エラやウロコ再降臨。
しかし今度はMPが減っている。
「ふむ、なるほど。中ボス以上のモンスターを憑依させると特定の条件下になったときに勝手に発動するみたいだな。本当に死霊使いらしくなくなってきたな、クロウ。昨日から思ってたが」
「昨日からって、最初っからじゃん!」
「いや、前衛気味と言うか前衛そのものの一応魔法職の死霊使いってどうよ、って思うんだが」
「私も、そう思いましたが、ゾンビ作る為に仕方がないのかな、と勝手に納得してました」
「ゾンビ一回しか出してないし。むしろネクロマンサーではなく霊媒なんじゃないか?」
まったくその通り過ぎて何もいえません、ハイ。
でも。
☆☆☆
ナイロック湖の、最初俺達が通ってきた方とは違う方の森に入る。
装備などは、皆考える事は同じようで、いちいち集落による必要はなかった。
そして、この『リッケルの森』は、鬱蒼と樹が生い茂る、密林のようなエリアで、こちらをどく状態にしてくるパラサイトニードル(キノコっぽいのが生えてるデカイ青虫。キモイ!)や、再登場のキラービーに、こいつには中々出会わないらしいが、サータイガー(雌のライオンみたいな獣)の三種類のモンスターが出現する(聖夜談)
そして、速攻パラサイトニードルに出会った。
こいつら、デカイ。とにかくデカイ。サイズで言うと子犬と同じくらいの大きさだが、通常の青虫と比べると無茶苦茶でかい為、とにかく気持ち悪い。
気持ち悪い上に、ざっと見渡しただけで20体は確認できる異常なポップ率。
これはもはや嫌がらせなんじゃないか、と聖夜を素手で殴っておいた。
……親の不始末は息子の不始末だ。死ね。
リラなんかは、森に入ったきり一言も喋らない。きゅっと瞑った目に涙さえ浮かべている。
ここは俺がどうにかするしかないのだろうが、俺もあれを物理攻撃で倒すのは嫌だ。
それに、リラがずうっと俺に抱きつくというかもはや抱きしめているので、肉弾戦は不可能。
……早速アレのお披露目と行きますか!
パラサイトニードル HP32 MP12 At12 De2 Sp2
スキル 毒針|《相手にダメージを与えると同時に90%の確立で毒状態にする》
「闇魔法・黒の斜線」
視認できるパラサイトニードル全部に、俺の指から伸びた黒い光条が伸び、貫通する。
この黒い糸はそのまま消えず、消費者のMPがつきるまで貫通したまま残る。
そして。
この魔法の真髄はそこじゃない。
この闇でできた糸。魔力を注げば注ぐほど太くなるのだ。
MP消費量半端ないけど。終始MPポーション飲み続け。
そこから。
内部からの膨張に耐え切れなくなったパラサイトニードルが内側から破裂する。
……気持ち悪っっ!
「ああ、向こうにお花畑が見えます。あ、お婆ちゃんだ。お~い、おばーちゃ「リラ!? そのお花畑には行っちゃ駄目だ!!」
リラがトリップしてた。
俺も、精神が離脱しそう。
だって気持ち悪いんだもん。
破裂する時にやたらとリアルでグロかったんだもん!
リラが帰って来る気配がないので、とりあえず俺の首に腕を回させ、膝の下に手を入れ持ち上げる。
……ネカマの可能性? このゲームじゃ性別の偽造できないから有り得ない。(聖夜に確認した)お姫様抱っこ? リアルじゃ出来ないから俺たちはヴァーチャルに夢を求めているのさ。
思考がどんどんネガティブの坂を転げ落ちると言うかもはや自由落下していたので、無理やりに軌道修正。
というか、だまってても聖夜気付いてるだろうけど、一応。
「ほら、これを見てくれ」
「なんだ、これは。……中途半端なメリケンサック…?」
リラを落とさないように聖夜に左手を掲げてみせる。
その人差し指と中指には、繋がった指輪がはめてある。
「もちろん違う。これは、魔道書だ。ここの、ホラ、黒い宝石みたいなのがあるだろ?これにはな、『死霊使いに送る絶対に知っておきたい魔法大全』とか言うやたらと近代的な題名の魔道書が一冊丸々入ってるんだけどもっと格好いい名前の魔道書とか考えられなかったんですかね!」
聖夜に八つ当たりする。
『死霊使いに送る絶対に知っておきたい魔法大全』って、一体いつの時代の魔道書だよ!?
……魔道書っていうのはなあ、もっとこう、『堕落の書』とか、『無題』とか、『深淵の魔道書』とか、格好いい名前がついて然るべきなんだよ!!
コホン。
「しかし、本の形じゃない魔道書とは、面白いものだな。…そうか、魔道書を装備していたからメイスをアイテムボックスにしまっていたのか」
ここで一つ説明が入ります。
アイテムボックスとは、唯一トレジャーハンター全員が使える魔法『ボックス』を使った時に出てくる、物を入れる箱のことです。皆さん分かりましたかー?
ちなみに、このアイテムボックスには色々種類があるらしいが、まだ俺は初期状態のものしか持っていない。
このアイテムボックスは町で買えたり、(俺はまだ行っていないが)ダンジョンにある宝箱の中から出てくるらしい。
そして、この手に入れたアイテムボックスを、更に魔法『ボックス』で出し入れする事ができる、という寸法だ。
しかも、MPが減らないので出し入れ自由!
でも、このアイテムボックス一つ一つが無茶苦茶高い。
今俺が使えるアイテムボックスは、アイテムを二十個収納できる、ゲームを始めた時に全員が持っているものだ。(定価18万D)
この世界で家を買おうと思えば大体一番安い所で36万Dなので、アイテムボックス×2=家の数式が成り立つ。
要するに何が言いたいかと言えば。
アイテムボックス高えええぇぇぇぇえ!
以上説明終わり。
『死霊使いに送る絶対に知っておきたい魔法大全』《無名の魔道師が記したとされる魔法大全。記したのが無名とはいえ、失われた古代魔法が多数記されているため、素人が手を出すと大変危険》闇魔法系スキル・古代系能力、使用可能
うん、名前はともかくとして。
中身はかなり強い感じだったので複雑な気分。
まあそれはいい。
進もう。
また青虫が集まってくる前に。
……倒した青虫? もちろん全部ゾンビ化させたさ。
もう霊魂数えんの面倒くさい。50超えたし。
パラメータに反映されんし。
なんか50位いるってことで。
密林の途中に川があった。
橋は無い様なので、しばらく川沿いに歩く事にする。
泳げる俺はともかく、スキル 泳ぐ が無いリラは渡れない為である。
聖夜? 聖夜は知らん。でも、水の上を歩くくらいは簡単にやってのけていたから大丈夫なんじゃないの?
と、俺が右に歩き出そうと、足を踏み出した時だ。
聖夜が、言い出した。
「ここを渡らないか? 右に行くにしても左に行くにしてもこのフィールドに橋はなさそうだぞ?」
聖夜が言っているから恐らく事実。ここを通るのは初めてではないだろうし。
しかし。
「リラはどうするんだ? 渡れないぞ?」
「ああ、そういえばいたっけ。なに? まだどっか行ってんの?」
「お前本当に女性に興味ないやつな。あれか、幼女しか気にかけんのか?」
「いや、だから自分はロリコンではないと言っておろうに!」
聖夜の言い分はもちろん無視。
で、お姫様抱っこ状態だったリラをおろし、肩をゆする
「はぇ?」
良かった気がついた。というか、正気に戻った。
リラの顔を覗き込むようにして聞く。
「大丈夫? 歩ける?」
「うにゃ……え!? あ、はい、大丈夫です!」
大丈夫そうなので、渡ることにしよう。
「で、リラをどうすんの?」
「お前が持て、クロウ」
「いや、俺泳ぐから無理なんだけど?」
「ここを渡れば人間界の破滅! 渡らなければ我が悲惨! 進もう! 神々の待つところへ! 我々を侮辱した敵の待つところへ! 賽は投げられた!」
聖夜がリラを運ぶ、という考えにはいたらなかったようで、言うなり聖夜は川の水面を歩いていってしまった。
ちなみに、さっき聖夜が言った言葉は、カエサルがルビコン川を渡った時に言ったとされる台詞だが、よくもまあ、一言一句違えず覚えていたものである。
「で、どうやって渡ろうか?」
「さあ、どうしましょう。クロウさんは先に行ってください。ここでパーティは解散にしませんか?」
「いや、俺が背負っていくからいいよ。ちょっと濡れるけど」
「それに、足手まといになるのは御……え?」
「だからさ、俺がリラを載せて泳げば良い訳だろ? 違う?」
「いや、はい、そうですね、お願いします」
「ん。じゃ、はい」
背中を向け、リラにおぶさるように促す。
おずおず、といった感じでリラが体を預けてきたので、水に入る。
魚人モードに移行。
重さは全く感じない。
……絵とかリアルすぎて忘れそうになるけど、ゲームすげー。
次話も頑張りますので、見捨てないで下さい。