第二話:八咫烏
「おい、どうにかしろよ避雷針――じゃなかった聖夜!」
「お前、いま避雷針っていいやがったな! おらっ」
行って聖夜は、手にした円錐――騎乗槍をフルスイングして、こちらにカラスをはじき飛ばしてきた。
俺はそれをメイスで打ち抜き、逆に聖夜に打ち返す。
「さっさと倒してしまえ! カラスだってモンスターなのだろう?」
「いやまあ、多分そうだけど、さ!」
その時だ。言葉少なだったゆーきが叫んだのは。
「クロウ様っ! カラスが一箇所に集まってますの!」
三十匹はいたカラスが、一つに集まった。そして――。
「おい、溶けてるぞ」
「見ればわかる」
「が、合体してますのよ!?」
そして、一匹の大きなカラスに姿を変える。
烏の濡れ羽色――なんてのが比喩じゃなく、本当の意味で闇色の翼。瞳は赤く光りを放ち、なにより、大きかった。背丈は俺と同じくらいある。
「足が三本ありますのよ……?」
ゆーきがつぶやいたことで足に目が行き、なるほど、確かに足が三本あると納得する。
「八咫烏って言うんだ」
え? もちろんかっこいいから調べましたが何か?
「クロウ様は物知りですのね」
そう持ち上げるなよぅ、と返事してから、世界樹のメイスを構える。
憑依は、なくても別に倒せるのではなかろうか。まだダンジョンに入りもしていないのに、どうしてMPを消費する必要がある。
「おい、もう帰ってもいいか? 霧香といるほうがはるかに有意義なのでな」
霧香というのは聖夜――成也の妹だ。いろいろ複雑な事情があるが、今は関係ないので割愛する。
それと、聖夜は霧香に対してベタ甘だ。シスコンなんて言葉では追いつかなくなるくらいに、霧香のことを愛していた。二人の事情を鑑みれば仕方がないものかとも思うが、休日は霧香とデートなのでな、とか言って自慢しようとしてくるのはどうにかならんのか。
カラスの融解が終わり、そして完全に一つになった。
本当に地獄のそこから響くような低い音で、喉を鳴らした。というか八咫烏は太陽の化身なのに、こんな禍々しい登場の仕方で構わないのだろうか。あとでSギイルに聞いてみることにしよう。
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八咫烏 HP10000 MP30000 At68000 De0 Sp980
スキル 太陽の化身《太陽光を操ることができる》
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ああ、今更だがこのパラメータ画面は、死霊使いや死霊術師、テイマーなどの、モンスターを仲間にするタイプの職業のプレイヤーだけにはデフォルトで見えるようになっているらしい。聖夜も見えているようだが、何がしかのアイテムを使うせいで経済的にきついのだとか。
死霊術師がはたしてモンスターを仲間にする職業なのかは気にしないこととする。
「攻撃力が異常だな……っ!」
聖夜が唸る。
ゲーム内で一番攻撃力が高いとされる幸運司リシ神龍でも攻撃力は50000ちょっとだ。
幸運司リシ神龍と比べると、八咫烏の攻撃力がいかに異常かがよくわかる。ただ、そのかわり幸運司リシ神龍はDe、Spもまんべんなく高かったと記憶している。
八咫烏は、攻撃力だけに特化させて、ほかのパラメータは大したことはない。
「要するに、攻撃を喰らわなければいんですの……!」
ゆーきは、巫女の最上位職である「龍神の巫女」だ。おもな能力は、水を操る事で、それが水ならば個体でも気体でも関係なく操ることができる魔法を使う。
最初は俺も使う気はなかったが、このパラメータで憑依なしはさすがにキツいので、俺はナイロック湖の主――主様を自分に憑依させる。
「使役系能力『自分憑き』!」
これで、俺も自由に水を生み出すことができる。
水を自由に生み出すことができる俺と、水を自由に操ることができるゆーきで、最強の自給自足……!
八咫烏は、一際大きく吠えると、その翼を広げて飛翔した。
空中で翼を羽ばたかせて、同じ高さにとどまる。そして、濁った鳴き声を上げた。ゲーム内にも設定されている太陽光が捻じ曲がり、世界が闇に包まれた。暗闇の中で光るのは八咫烏だけだった。
聖夜が叫んだ。
「おい、まずいぞ! あれはきっとスキル《太陽の化身》だ! こんな大規模な魔法だと、辺り一帯が消滅する!」
とのことなので、さっそく憑依したのに悪いが、主様には憑依解除で消えてもらう。かわりに幻影龍を憑依し直した。
両足に宝石と黄色の装甲がまとわりつき、グリーブの形になる。
「発射秒読みですのよ――!?」
そう慌てるでない、ゆーきよ。
幻影《敵に幻影を見せ、撹乱する》と現実化《自分が生み出した幻影を実体化させる》を併用して、地面から巨大な鏡を生やす。
性質上、幻影で生み出せるのはどうしても鉱石もしくは鉱物になってしまうので、現れたのは銀の鏡だ。
それが二枚。
俺とゆーき、あとついでに聖夜もカバーできる縦七メートル、横五メートルくらいの大鏡だ。
――キュウゥゥっ
太陽光が一気に八咫烏のくちばし付近に収束し、光の玉を作った。
あまりの高熱に、空気が歪んで見える。
それが、空気をじゅうじゅうと焼きながら発射される――。
ダンジョンに入れない(*'ω'*)




