第一話:避雷針は必要である
長らくお待たせいたしました。
これより5thシナリオ――ダンジョン攻略編スタートです!
世の中には、男はなんかとりあえず高いところに登れて一人前みたいな風潮が存在する。
中学生一年生、あれは、まだ入学式が終わって間もないころだ。俺の通っていたのは公立の中学校で、自慢は裏庭にある古墳と、その傍らに生える二〇メートル程のポプラだった。
もちろんそんな高い木があったら登らないわけにはいかず、俺がいたクラスの男子十数人で、放課後にこの木を登ることになった。
今思えばなんでそんなことをしたのかわからない位どうでもいいことだったが、当時の俺たちは真剣だったわけだ。
まず一番手として、眼鏡が登ることになった。
本当に登れるのか、安全面的に大丈夫なのかどうかを調べるために、民主主義的な多数決をもっての人選だった。そこに作為はなかったことをここに明言しておく。
ポプラの枝は短く、幹に垂直に生えているために、実際目の前にした俺たち全員がアイ・コンタクトで意思疎通した結果だったのだ。
そのメガネ――、彼は、後に『大韓独立万歳』の名を馳せる男、山寺だった。
彼は普通に、なんの山も谷もなくポプラの上の方、十七、八メートルくらいのところまで登りきった。
喜びの雄叫びを上げた山寺だったが、実はそれどころではなかった。
遠くに怒ると怖いことで有名な、「雷オヤジ」とのあだ名が赴任一週間でつけられた校長先生が歩いてきたのを見つけてしまったからだ。
俺たちはたかが中学一年生であり、怖い先生は「怖い」ものだった。
だから、まだ敵に補足されないうちに速やかに、それでいて静かに散開した。
山寺はポプラの上におり、俺たちが逃走を図ったことにまだ気づいていないのか、雄叫びを上げ続けている。というか今思えば、彼は気が触れていたのではないかと思える全力の咆哮だった。
案の定、校舎の中に隠れて山寺の様子を伺っていた俺たちの前に素敵な校長先生がいらっしゃって、山寺に怒鳴りつけた。
ただ、この話には後日譚がある。
次の日に山寺がやたらとニコニコと嬉しそうに俺たちに語った話だ。
曰く、あのポプラの木は校長先生がこの中学校に在籍していた時にもあったもので、われらが雷オヤジこと校長先生も、あの木には登ったのだという。
あのあと校長室に任意同行された山寺であったが、どうも校長先生の思い出話に付き合っているとすっかり意気投合し、来客用に用意してあったケーキまでご馳走になったらしい。
それ以来、山寺は「雷オヤジ」の避雷針になった。
つまり、俺たちが何かやらかしたとき、校長先生に何か用があるときに、みんなの前に立って意義申し建てをする係に、非常に名誉なことに任命されたのである。
それをまとめてつまり何が言いたいのかというと、いつだって物事の矢面に立ち、押し寄せる危難に自分の身代わりになってくれる人間は必要だ、ということであり、俺が長々とこんなことを聖夜に語っていたのはつまり――。
「というわけだから、この扉を開けてくれ」
「断る」
俺がSギイルというプレイヤーに譲渡したダンジョンの種によって、ナイロック湖のほとりに建造された新しいダンジョンのドアに書かれていた注意書きが、
「――ドア開閉注意って書いてあるだろう? というか名指しで指名されてるようなものなのだから、お前が開けろ」
「断る」
明らかに怪しいのだった。
ダンジョンの外観は枯れ落ちた大木のようになっていて、地上に出ている部分を見るに恐らく地下に続くタイプなのだろう。
大木の周りだけ下草が枯れていて、空気が澱んでいる。枝には大量のカラスが止まっているあたり、かなり凝っていると言える。だから、余計にドアに書かれた「開閉注意」の文字が気になるのであった。
と、
「なら、私があけますのよ?」
「いや、ユーキはいいよ。なにがあるかわからんし」
今は、ユーキ――ゆーきと成也――聖夜の三人でいる。
本当はゆーきと二人で来るつもりだったのだが、全く未知のダンジョンで、最大で六百層になるダンジョンを攻略するのだ。避雷針は必要だった。そこで白羽の矢が立ったのが聖夜だったわけだ。
「さあ、ほら、聖夜、早く」
「おい、この差はなんだ一体」
知らん。さっさと開けろ。
そう、目線で訴える。
聖夜は、まるで外国人がするようにやれやれ、と肩をすくめてみせた。思わずメイスで殴りかけたが、自制する。今は避雷針が必要なのだ。我慢しろ自分。そうだ、ゆーきが隣の部屋で寝ているのに、毎日我慢できているじゃないか……!
「夜這いかけてくださっても構いませんのよ?」
「んぇ!? 口に出してた!?」
「ええ、はっきり口に出てましたの」
でもまあ、OKが出たので大丈夫なのだろう。え? ゆーきは外国の王家の跡継ぎ、姫だろうって? えやあ、まあ、その。
「それじゃあ、開けるぞ。ほら、こっちの世界に帰ってこいお前ら」
諦観を滲ませて聖夜がいい、そしてドアに手をかけた――瞬間。
――ア゛ー、ァー、アー、
と、濁った鳴き声を上げたカラスたちが、一気に俺たちに向かって飛びかかってきた。
ぶつかる。
それと、只今拙作「友達はいないけどゾンビなら大勢いる」強化月間中でして、しばらくはそちらばかり投稿すると思います。
「ともゾン」はこの小説のリメイク版ですが、なんか行き先が行方不明になった上、シリアス全開ですので、そういうのが嫌いな方には合わないかもしれません。
では、また次回。
……こっちのは書くのが楽なので、もしかしたらすぐにお目見えできるかも?




