第四話:男子高校生なんか誘拐してどうするのさ
暗いのは眼を閉じているからだ。
だから多分このバルバルバルバルという音と山寺がクラスのアイドルだった門崎さんと色々あって結婚したのは気のせいだ。
バルバルいう音は多分寝起きだからで、山寺結婚の変は夢だ。
そう夢だ。
ということは俺は寝てて眼が醒めたわけだ。
さて現実逃避はこれくらいにして、と。
俺、誘拐されてるっぽい。
またか。
☆☆☆
さて。
なにげに誘拐され慣れてるおかげで思考は冷静に機能している。
あまりに誘拐されるから聞いたら、俺の父さんは、世界的に凄い科学者らしい。
ユーキのときは久しぶりだったから混乱しまくってたけど、今回はそれほどではない。
手と足は……問題無く動く。縛られていないようだ。
それどころか猿轡も目隠しも、手枷足枷首枷etc、およそ人間を拘束するための道具が見つからない。
視界を巡らせる。
暗い。夜目はそれなりに効くが、それでもなにも見えないのは、一筋の光も射していないからだろう。
手を――のばせない。足は20cm程度しか動かない。左右への移動は不可能。
そのことから類推するに、恐らく俺は棺桶のような箱状のものに閉じ込められているようだ。
この箱――一筋の光も差し込まず、全方向にスライドしても、さらに壁を押してもびくともしない。
しかし天井を上に押すとうっすら光が射すことから、桶状の入れ物に蓋を被せたものであるだろうと当たりをつける。
更に微かに金属の擦れる音――鎖がジャラ、と鳴る音から、上から鎖で抑えられている模様。
さて俺にできることはあとは持ち物チェック。
ポケットには携帯。圏外。
あと服装はパジャマがわりの上下スウェット。
昨日ユーキたちが帰ってきて、10時から12時くらいまで一緒にVRMMOじゃなく、普通のゲームをしてたから、つい最近聖夜――誠也のうちがモニター用にユーキ、姉ちゃん、沙羅にもくれた『R―convert giar』が右手に装着されている。
確か部屋の中でスカッシュしてた。障害物ありまくりで、正直かなり難しい。最後のほうあまりに難しいんでそれまで交替交替にやってたけどユーキや姉ちゃん、沙羅も四人全員でプレイ開始。 それからやっと何回かつながりだして、そのまま疲れるまで遊んでそのまま寝たんだった。そういや外してなかったな、ギア。
他にもなにか持っていないか確認するも、どうやら装備はそれだけのようだ。
☆☆☆
「気分はどうだ?」
「ぇあっ?」
気づいたら寝てたようだ。
油断しすぎだろ。
「よく寝るものだな」
「え? どれくらい寝てた?」
何聞いてんの俺。
気緩みすぎじゃね?
「暢気なものだ。お前がここに運ばれてから3時間程は大いびきをかいていたよ」
あ、ちなみに会話は英語ね。
さっきから話してる男は赤髪にほりの深い外人顔、そうだな、丁度Sギイルに似て――あぁ、そういうことか。
ユーキと同じパターンだわ、これ。
「うん? なに? 誰?」
「私としたことが自己紹介が遅れてすまなかった。私は『太平洋社会主義同盟』大統領、サディギイル=ベリオラ=ゼ=マリオだ」
『太平洋社会主義同盟』は確か、最近独立運動が高まって国として認められるのも近い、ってニュースでやってたあの国か。
そんでSギイルのSはサディのSか。
で、マリオさんと。
外人の名前はイマイチどれが苗字でどれが名前かよくわからない。
愛称もあるんだろうけど、まあマリオでいいか。
「キノコは好きか?」
「は? どういう意味だ」
いやほら、大きくなるかな、と。
「じゃあスターは? 炎の花は?」
「あぁ、そういう意味か。こんな名前だが弟はいないぞ」
あり? 話が通じてる?
最近じゃあすっかりすたれた過去の遺物だというのに。
「もしかしてもしかして、壬天堂ファン?」
「おお!? お前も壬天堂好きか!?」
それから5時間。壬天堂について語り合った俺達は――なんか意気投合しました。
☆☆☆
「今日は誘拐なんかしてすまなかった!」
「いいっていいって。壬天堂ファンの同志ができたんだからな」
今日が流石に日曜日といえどあまり長く家を空けると家族が心配する。
「でも――」
「それとこれとは別だ」
マリオは俺にPKされた。
俺はマリオに拉致された。
いや、文字にすれば俺のほうが酷いことされてね?
なんか腹立ってきた。
「というわけで――」
「勝負!」
☆☆☆




