第三話:中身を伴った虚勢
「ぅおわっ!?」
急に眼前に現れる鋭利な鎌。ちょうど背後から喉を掻き切る形で突き出された感じだ。柄は首の右側から伸びている。
鎌の切っ先から根元にかけてギラ、と凶悪な光が走る。
明確に人を殺すことを目的に突き付けられたそれ。
いいだろう。この俺に武器を向けたことを後悔させてくれる。
「何が欲しい? 金か? 伝説級宝か?」
少し鎌の角度が変わる。
俺に敵意を向けたことで自律したゾンビの霊魂が微妙に抵抗しているのだ。
まあ、微々たるものだが。
額に霊魂を集中、顔前面に兜のような形にする。
霊剣を作るのの応用だ。
もちろん鎌を持っているプレイヤーにバレるようなヘマはしない。
だからこそ前面だけの展開だ。
後ろに引く動作は無し、その場からの勢いだけでの――。
――頭突き!
鎌の横っ面に額をぶち当てる。鎌が弾かれて避けられればいいかなー、と思っていたのだが、鎌の刃先が折れた。
額の当たったところから綺麗な一文字の縦線が入り、ぽっきりと。
嬉しい誤算だ。
「な!?」
鎌の持ち主であろうプレイヤーが驚いたような声をあげるが、無視。
そして前方に跳躍、空中で反転して相手の正面を向けて着地。
ストロベリーブロンドの長髪、どこかの外人のようにほりの深い顔、そして長身と。
周りを漂うのは俺よりかなり少ないがゾンビの霊魂か。
「貴様は死霊使いか」
口調はわざと。あと低めの最高に渋いと思われる声を出す。
「いかにも。そういうお前こそ死霊使いのようだが?」
あ、くそ、喋り方かぶる。
「俺は違う。お前らと一緒にするな。俺は――死霊術師だ」
右手を地面につき、ゾンビ1000体を地面から這い出させる。ちなみに、この演出に意味はない。
やりたかったからやった。それだけだ。
男――プレイヤーネーム「Sギイル」――を睨む。
もちろん意味はない。どれぐらい意味が無いかというと、サバゲーに山寺を呼ぶくらいくらい意味が無い。彼にエアガンを持たせたところで戦力にならないどころか足手まといなのだ。
「私に逆らう気か……?」
「え? なんで」
むしろ先に鎌突き出してきたのそっちじゃん。
俺悪いことしてなくね?
「く……! 憑依系能力『武器憑き』!」
破損した武器は通常、職が『鍛冶師』、『修理師』もしくはNPCの武器屋あたりに持っていかないと修理できない。
だからこそ、Sギイルが持つ鎌の刃の部分が伸びるのは異常だ――一般プレイヤーにとっては。
「肩がぶつかっただけだから、謝れば許してやろうかとも思ったが、お前はもう許さん」
「お前の憑依はその程度か?」
自分憑き、炎龍。
力の象徴にして龍の証、紅蓮の片翼が生える。
「な、なんだそれは!?」
教えない。
それと背後の注意が緩慢だぜ?
「俺が顕現させたゾンビは1000体。しかしお前の前に何体いる?」
男は死の鎌を握ったまま答えない。
否、身動きが出来ない。
なぜなら、俺のゾンビが体中を、締め付けているから。
一気に片をつけることはせず、徐々に拘束の力を強めていく。
「お前が犯した間違いは2つだ。1つ。鎌を突き付けるのではなく完全に不意打ちで喉を掻き切らなかったこと」
もし不意打ちで喉を掻き切られてたら多分弱点判定で一撃死してた。
危なぇ、と内心胸を撫で下ろす。
そういえば、胸を撫で下ろすで思い出したが、中学三年生の時に山寺たち仲の良かった男友達と放送禁止用語しりとりをしていたときに、なんだったか阿部というやつに「む」がまわり、胸を撫で下ろす、はエロいのか否かで議論が勃発したことがあったっけ。
勉強だけはできた山寺が胸を撫で下ろすの本当の意味を教えてくれたが、当時のクラスのアイドルだった門崎さんが実際にその自慢の(男子生徒主観)巨乳を撫で下ろすところを想像してみたらエロかったので、OKになったはず。
それで負けた山寺に門崎さんに実際に胸を撫で下ろしてもらうようという命令がくだされたワケだ。
その時門崎さんに殴られて帰ってきた山寺みたいな表情を、Sギイルは浮かべる。
「2つ。ケンカを売った相手が俺だったこと」
Sギイルは言葉どころかもはや呼気を漏らすこともかなわない。
首が締め上げられているからだ。
Sギイルは体どころか指一本動かすことすらできない。
俺のゾンビが体中を蝕んでいるからだ。
1000体無駄に出したゾンビのうち、995体は消した。
こいつを殺すのなら5体で足りる。
パチンッ
指を鳴らし、Sギイルに拳銃の形にした指の先端を向ける。
「お前はゾンビにする価値すらない。死ね」
爆発!
ちなみにプレイヤーゾンビは多いことにメリットが無いので、無理に増やす必要が無い。だからSギイルはわざわざゾンビにする必用はない、そう言う意味なのだが、わざわざいう必要は無いだろう。
Sギイルの四肢、そして首は粉々に弾けとんだ。
残された胴体と、胴体から切り離された頭も、地面に落ちると同時に消える。
ふう。もう現実時間で2時間は潜ってたし、今日は落ちるか。
ユーキたちも帰ってくるころだろうし。
☆☆☆
霊剣については、このお話に出てきます。
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