最終話:優勝者
これにて3rdシナリオは終了になります。
あと十センチ。
たったそれだけの距離をクロウの剣が通過するだけでぼくは負ける。
時間が何百倍にも引き伸ばされて感じられる。
事故に遭いそうになったときのあれと同じだ。
スキル絶対回避はぼくがどんな方向にもどんな体勢でも動ける場合にしか発動できない。
スキル???から改良されたときにその条件が追加されたのだ。
流石にすべての攻撃を避けることが可能、というのはムシが良すぎる。それに面白くない。
刃はもう目の前まで来ている。
迫る刃を前にして、ぼくは微動だにできない。
目を瞑る暇すらない。
ぼくは負けを確信する。
そして。
突如クロウのコンバート状態が解けた。
「は?」
「え?」
クロウのHPは0になっていた。
☆☆☆
あと少しでウイロウに攻撃が当たり、そして俺の優勝だ!
そう確信し、右腕に力を込める。
そして全力で振りきる!
勝った!
そう思った。
しかし、ウイロウに腕が当たるか当たらないかのギリギリのところで、急にシステムアシストが切れる。
刃とウイロウとの距離は紙が挟めるか挟めないか、というまさに紙一重。
一瞬何が起きたかが理解できない。
HPバーを見る。
俺の残りHP0。ウイロウの残りHP72。
いつの間にか、HPが0になっていた。
だからシステムアシストが消えたのか。
でも、なんで?
「ああ、夾竹桃の毒か」
爪先と腕の先から鎧が剥がれていき、俺の意識はブラックアウト。
☆☆☆
1位:ウイロウ HP72/10000 『Only yours Online』代表
脱落:シュガー HP0/10000 『Only Fameil Online』代表
脱落:リュウ HP0/10000 『Only Fameil Online』代表
脱落:聖夜 HP0/10000 『Treasure online』代表
脱落:デンゲン HP0/10000 『Only yours Online』代表
脱落:ベリオン HP0/10000 『Natural online』代表
脱落:ゲンキ HP0/10000 『G-FIRE online』代表
脱落:モモ HP0/10000 『G-FIRE online』代表
脱落:星砕✝鏡 HP0/10000 『Natural online』代表
脱落:クロウ HP0/10000 『Treasure online』代表
1位『Only yours Online』黄チーム1名
脱落『Only Fameil Online』0名
脱落『G-FIRE online』0名
脱落『Natural online』0名
脱落『Treasure online』0名
☆☆☆
きっかり30分後、俺は自室で目を醒ました。
そしてまるで計っていたかのように放送が入る。
『五分後に閉会式を行います。エキシビジョンイベント参加者は、コンバートインしてから特設会場にお集まりください』
☆☆☆
「なあ、なんでわざわざコンバートインするんだ?」
「個人情報の秘匿のためだろう。こうしておけば実際の顔はわからないからな」
結局最後まで役に立たなかった聖夜が言う。
コイツ何しに来たんだよマジで。
柔禅氏が壇上に上がる。
「諸君、三日間に及ぶイベントへの参加、ご苦労であった! 一位になったチームにも、最初に散ったチームにも、こう言っておこう。ナイスファイト!」
それから賞金授賞式。
え?
賞金出るの?
聞いてないんだけど!
「優勝チームには、五十万円送られます。が」
そこで柔禅氏は声を切る。
「最後まで生き残ったのはウイロウさんですので、ウイロウさんがデンゲンさんとの分け前を決定してください!」
ウイロウが壇上に上がる。
今は飛竜のクロウはいないようだ。
「じゃあぼくが42万円でいいです。あとの8万円は玄詩……あ、いや、デンゲンさんにあげてください」
「わかりました、これが小切手です」
その後『R-convert gear』の発売日発表が有り、その後やっと閉会式が終了した。
荷物をまとめ、聖夜と一緒に電車に揺られること数十分。
二日ぶりに我が家に帰ってきた。
聖夜――――成也とは駅で別れた。
家の玄関を開ける。
「おかえりなさい、ですの」
「お帰りお兄ちゃん!」
「おう、ただいうわっ!」
玄関を開けるなりユーキと沙羅に抱きつかれた。
「もしかして、駅から電話した時からずっと待っててくれたのか?」
「そうだよっ!」
「いつ帰ってくるのかとドキドキして待っておりましたのよ」
「そうか、ありがとう」
とりあえずユーキと沙羅をおろし、荷物を自室に置く。
そしてリビングへ。
「ただいま、姉ちゃん」
「あら、黒くん。おかえりなさい」
姉ちゃんは料理中だった。
昼食を作っているのだろう。
そう言えば腹ペコだ。
「お昼ご飯できたから、ちゃんと椅子に座ってね、ユーキちゃん、沙羅ちゃん」
言われて二人は俺の膝から降り、椅子に座る。
そして姉ちゃんが俺の膝に――――
「って姉ちゃん!?」
「あら? なんでお姉ちゃんが座っちゃダメなの?」
「紅葉さん! 卑怯ですの! 私も黒羽様の膝に座りたいんですの」
結局俺が三人に食べさせる事に落ち着いた。
なんでさ。
俺、全身筋肉痛で今すぐにでも寝たいんだけど。
誰か、助けてください。
そうは思うものの、今鏡で自分の顔を見れば頬が緩んでいただろう。
久しぶりに、家に帰ってきたのだ。寝ることくらいいつでもできる。
☆☆☆
「ただいまー」
「たダイまー」
三時くらいに、母さんが帰ってきた。
玄関へ行く。
「って父さん!?」
「オォ、大きクナッタナ、黒バ。何年ぶりだ? 六年ぶリクライか?」
どうせずっと外国にいたのだろう、日本語のイントネーションが所々おかしい。
まあ、帰国したときはいつものようにこんな調子なので別に困らない。
よく聞いたら日本語だし。
「あー、ァー、う゛、うん。オッケ。日本語思い出した」
父さんはわりと天才だったりする。
「いやあ、悪いな、丁寧語だったら外国でも使うことがあるからわかるんだけど、スラングが交じるとこれだ」
豪快に笑い飛ばす。
「ん? あれ? 誰? 黒羽の彼女?」
父さんがユーキに聞く。
「お初にお目にかかります、ユーキ=リックディッシュ=ミリアーナですの。よろしくお願いします、お義父さま」
お父様、か。
父さんに様付けは似合わねーな。
「別に彼女とかじゃねーよ」
「なんだよ、照れることないだろー?」
……父さんって、わりと……天才だった……気がするんだけどな……。
俺とユーキのどこを見て付き合ってると勘違いしたんだか。
「そんなことより、今日の夕食は外食に行きましょう、家族水入らずで」
一度リビングに戻った母さんが帰ってきた。
ちなみに俺たちはまだ玄関。
父さんに至っては靴まで履いてる。
「それなら、私は家でお留守番でもしてますの」
「いいえ、私は家族水入らずで、と言いましたよ? あなたは他人なのですか? ユーキ?」
「その、私は……」
「違うでしょう。ユーキは将来うちの黒羽と……、あぁ、いえ、なんでもありません。ユーキはもうとっくにうちの家族です。何を今更遠慮することがあるというのですか」
「そうだぜ、ユーキ。俺はお前のことをとっくに家族だと思ってる。一緒に行こうぜ、食いに」
ユーキは笑顔をこぼしながら頷いた。
やっぱりこういう笑顔をさせればどんな女の子よりも可愛いな、ユーキは。
あの、罵られた時のなんというかその、エロい笑顔とは違う。
「それにしても、母さんが外食を提案するなんて珍しいな」
「ええ、ちょっとした臨時収入がありましたので、ですよね、玄詩」
「おう、ちょっと臨時収入がな」
「では、玄詩が払ってくれますね?」
「いや、俺の8万円さっき全部使っちまったよ」
「何をやってんですか、全く」
「いいじゃんかよー、8万円は俺にくれただろ? さっき“アレ”買ったときに全部使っちまったよ」
「そういえばそうでしたね。なら、私が出しましょう」
「ねえ、母さん、臨時収入って何円入ったの?」
「え? お母さんのですか? 42万円です」
臨時収入ってなんの収入なんだろう。
「それは秘密ですよ」
それからしばらく。
父さんの嘘にしか聞こえない実際にあった武勇伝を聞いたり、ユーキと沙羅が俺の膝の上でポジション争いを繰り広げた末、半分ずつで落ち着いたのに姉ちゃんが乱入して結局無茶苦茶になったりして、四時間が経った。
ユーキと沙羅、姉ちゃん、母さんは着替えて出てきた。
「さて、中華料理店にでも行きましょうか」
「それで中華服か」
「これがさっき言ってた“アレ”だ。ナイスプレーだろ?」
「サイズもぴったりです。お母さんの目に狂いはありません」
母さんはさすがに着てないけど、姉ちゃんと沙羅、ユーキはチャイナドレスを着ていた。
沙羅はノースリーブで背中が開いたデザインの青い中華服。
姉ちゃんは二の腕くらいまでの長さの袖と、三叉に分かれた赤の中華服。中国人の血が流れているからか、とても似合って見える。
そしてユーキ。
沙羅と同じデザインで、色は白。
白磁のような肌と同じような色が合わさって、清純さが際立っている。
そして三人ともシニョンで髪をまとめている。
「おいおい、黒羽を出血多量で殺す気か?」
「死なねーよ!」
「強がりは鼻血を吹いてから言うんだな!」
おとなしくティッシュで血を止める。
「どうですか、黒羽様」
ユーキが恥らいながら聞いてくる。
その仕草ベリーグッド!
「ああ、すごくいいと思うよ。とっても可愛い。……ほら、鼻血が出るくらいに」
いやまじで。
俺ユーキ見てから鼻血出たし、って誰に言い訳してるんだろう。
とまあ、そんなことがあって、今は近所の中華料理店へ向かっている。
鼻血? 出っぱなし。
なんでだろう、全く止まらない。
チャイナドレスといってもそんなたいした露出があるわけじゃないのだ。
なのに、鼻血が止まらない。
徒歩で十分ほどなので歩いて店へ向かう途中、ユーキが俺に話しかけてくる。
わざとなのかたまたまなのか、丁度家族には俺たちの会話が聞こえないような距離。
「黒羽様。私、貴方に伝えたいことがあるんですの」
「おう、何?」
そこでモジモジと、頬を朱に染めうつむいてしまうユーキ。
「どうしたんだ?」
「……あの、私、私は! あな! 貴方が」
そこでユーキは言葉を切り、大きく息を吸うと、顔を上げた。
頬は上気していてすごく色っぽい。
「私は、貴方を、明野黒羽のことを、愛しています。一人の異性として、好き、です!」
顔よし。スタイル良し。性格よし。性癖……俺的には大好物。
そんな常日頃から可愛いなー、とは思っていたが手の届くはずがない女の子から告白されて。
「俺は、俺も、ユーキのことが――――――」
「黒羽様!? ちょっと、黒羽様!?」
俺は、非常に情けないことに、出血多量による貧血で失神した。
これにて3rdシナリオは終了になります。
表向きでは受験勉強のためここの、キリのいいところでストップします。
が、夏休みの間にスキマ時間を見つけて書き溜めて、4thシナリオも終了まで書ききることができれば投稿します。
いつ投稿できるかわからないので、次話投稿はおそらく最長で八ヶ月後になります。
私とこのお話を見捨てないで、待っていてください。
必ずこの続きは書きます。
感想、お待ちしております!




