第十四話:山における最強とはなにか
第十四話です。
デンゲンの攻撃を避けることができない。
全く認識できないのだ。
視認はもちろん音も認識不可。
俺は文字通りタコ殴りにされていた。
「どうしたんですか? さっきの威勢はどこへ行ったんですか? あ、やっぱりヤマブドウいります?」
声は聞こえる。
しかしどの方向から聞こえているのかがわからない。
適当に腕を振り回す。
左腕を突き上げるようにしてアッパーを放ちそのままの勢いで飛翔。
どれだけ攻撃しても全く当たらない。
「うーん、流石に空にいると届きませんねぇ」
上空からデンゲンを探す。
どこだ、どこにいる。
「…………ガフッ」
突然、背中にトラックが突っ込んだような衝撃。
地面に叩きつけられる。
「まあ、森というフィールドにおいては、私に敵うものはいませんけどねぇ。いくら上空といえど森は森です」
叩きつけられた衝撃で息ができない。
というか普通に落下したら死ぬ高さから落ちたのに、怪我はなさそうだ。
体だけは動かないが頭は冷静にまわる。
「その程度ですか?」
デンゲンを舐めていた。
俺では、やつに勝てない。
いや、諦めるな。
脳内で二つの声がせめぎ合う。
「では、もう止めをさしますよ? いいですよね。拒否権はありません」
近づいてくる気配はないがなんとなく近づいてきているんだということはわかる。
ああ、こんなところで脱落か。
酸欠でどこかぼんやりした脳内でそれだけを思った。
というか酸欠!
呼吸するのを忘れていた。
スー、ハー、スー、ハー、スー、ハー。
少し湿った腐葉土に両手をつき、体を起こす。
「おやぁ? まだ戦るつもりですか? 無理ですよ、あなたでは私に勝てない」
と言ったデンゲンの足音が急に聞こえるようになった。
「これはなんですかねぇ。あなたの味方の仕業ですか? 聖夜とかいう」
そう言うデンゲンがやっと視認することができるようになった。
なぜだかわからないが、彼は顎のあたりまで凍りついている。
「いやー、ピンチですね。身動きが取れない。こんなピンチ、蜂に追われてた時にうっかり山棟蛇を踏みつけて更に運の悪いことに足が滑り、寝ていたクマに倒れこんだ時以来ですねぇ」
よく生きてるな、この人。
しかも五体満足っぽいし。なに? やっぱこの人が最強なんじゃねの、とか思いつつ、メーフィを憑依、更に炎龍の属性を火から炎に強化。
「炎龍の咆哮!」
たまに忘れる時があるけど、やっぱり属性強化は大きい。
弱点属性に放たない限り威力は単純に二倍なのだから。
しかも今、デンゲンは氷に包まれている。弱点属性強化で四倍。
デンゲンの攻撃を受け続けて、わかったこともある。
多分コイツはあまりパラメータが高くない。
まあ、一般のプレイヤーに比べたら格段に高いだろうが。
しかしエキシビジョンイベントに参加する俺たちに比べるとかなり低いだろう。
まあ、攻撃力のパラメータだけなら一番低いのは俺だろうけど。いいよ、魔法でカバーするから。
さて。デンゲンから攻撃を受け続けたが、一撃一撃の威力はかなり低い。大体二百程度だ。
おそらく防御力も低い、と俺は踏んでいる。というかそうであってくれ。
きっとデンゲンは隠密に長け敵の攻撃を受けず、かつ、自分の攻撃を必ず当て続ける戦闘スタイルだ。
デンゲンに迫る大質量の炎が氷ごとデンゲンを吹き飛ばした!
読みが当たった!
やった!
デンゲン、脱落!
誰もいないのをいいことに、全力でガッツポーズをする。
嬉しかったからしゃーない。
そして何事もなかったかのように空に飛び上がる。
かなり高速で。
「おいおい、オレ様がいることがわかってたのかよ」
声の主は、背中から氷の翼をはやして追いついてきた。
「なんだよ、わかってんなら逃げるなよ。そして死ね」
「ちょっと残りHPが心もとないんでね」
本当に心もとない。
残りがまた3000くらいにまで減ってしまっている。
せっかく回復したのにな。
「んでよぉ、アレはなんだ?」
そういってベリオンは一瞬前まで俺がいたところ、正確には凍りつく俺を指差していった。
「身代わりの術」
聖夜を呼び出すのは無理であることが判明したので急遽プレイヤーゾンビを一人犠牲にしたのだ。
まあ、ゾンビだし死なないけどな。
「そうかいそうかい。じゃあまあ、俺におとなしく殺されてくれるよな、もちろん」
「誰が死ぬか。……さっきは助けてくれる形みたいになったけど、礼は言わねーぞ。弱った俺を狩るついでにかなりの強敵であるデンゲンを倒させようとしたんだろ?」
「そりゃあまあ、お前とデンゲンならお前の方が弱いからな」
当たり前だ。
蜂と山棟蛇と熊を敵に回して無事でいられる人間より強いなんていう自惚れはない。
「助けてやったんだから、死ぬよな?」
言うと同時に俺の両翼が凍りついた。
地面に落下する。
しかし地面に落ちまいと、一度メーフィの憑依を解く。
機械竜と炎龍を憑依させた状態で。
「…………くぁぁっ!」
体が膨張し無限に広がっていくような感覚を得たあと、衝撃波が辺りを揺らす。
メーフィがいなければ自力で二体以上自分に憑依させられないのだ。
それで、収まりきらなくなった炎龍と機械竜が俺の体から押し出され衝撃波を撒き散らす、というわけである。
でも、やるとかなりしんどく辛いので、できればやりたくない技だ。
「やってくれるじゃねえか、お?」
俺とベリオンは翼を畳み地面に降り立つと、睨み合った。
俺、残りHP2790。ベリオン、残りHP6990。
超ピンチ。
さて、第十五話も、今日中に投稿できたらいいなー、とか思いつつ、頑張っていきます。
まあ、ぼちぼちと。




