第七話:立体型TV電話(仮)
P.M.11:04 あてがわれた自室にて
初日が終わり、自室でいると聖夜―――成也が部屋にやってきた。
俺同様、暇を持て余していたらしい。
残りHPのことや、誰が一番強敵かなどを話していると、電話がかかってきた。
ユーキからだ。
「TV電話だ」
「ん? テレビ電話か? ちょうど良かった。なら、これを充電プラグ差し込み口にさしてみろ」
といって成也が取り出したのはCDデッキみたいな筒状の物体。大きさは普通のステレオ(スピーカーは含めない)と同じくらい。
とりあえず言われたとおりにその筐体から伸びるプラグを差し込む。
ピッ
「もしもし?」
そこで受話ボタンを押す。
あんまり待たせるのも悪いしな。
ボォウッ
さっき成也に言われるままにさした筐体からユーキが浮かび上がる。
しかも全体像だ。
「うわっ!?」
『なんですの? 今の時代、TV電話なんてそんなに珍しいものではないでしょう?』
「いや、ちょっと成也が面白いモノを貸してくれてな」
『? なんですの?』
「今、ユーキの全体像が立体映像としてこっちに送られてきてる」
『ひゃわ!? こんな格好ですのに…! 着替えてかけ直しますの!』
プツッ―――ツーツーツー―――
ユーキがどんな格好をしていたかはひとまず置いておいて。
「なあ、成也。これは何だ?」
これ、とはもちろん立体映像投映機のことである。
「ああ、これはな、立体型TV電話(仮)といってな、相手の立体映像を空中に投映して遠く離れていても身振り手振りを交えて会話ができるというものだ。ちなみに、立体映像は正面からしか見ることができない。ここはまあ、改良するべきかそれともプライバシーを守るために電話がかかってきた人にしか見えないようにするべきか…」
「成也……そういえば、天才っていう設定があったっけ」
「設定じゃないぞ。自他共に認める天才だ」
「で、こんなの見たことないんだけど?」
「当たり前だ。自分が家の設備を好き勝手使って勝手に発明したものだからな。まだ全然試作段階だが、とりあえず立体映像を投映することはできるようになったので持ってきたんだ」
「なんでわざわざここに?」
「せっかく作ったのだからお前に自慢しようと思ってな」
「ちなみに、本音は?」
「これがあれば霧香と離れていても会える!」
これはどうも変態発言ありがとう。
霧香、たしか成也の義妹で俺と血の繋がった実の妹。
いろいろややこしい事情があって中津家の養女になった女の子だ。
「お前のことはロリコンだと思っていたけど、実はシスコンだったんだな……」
「ああ、もうそれでいい。何しろ霧香が目を覚ましたのだからな!」
さいですか。
Prrrrr――Prrrrrr――
そこでまた電話がかかってきた。
「もしもし」
『着替えてきましたの』
「そういやさっきはなんで裸Yシャツだったの?」
『日本では寝るときはこれが普通だからとキリから送られてきましたの…』
多分キリっていうのはあの侍女だろう。
グッジョブ!
「結婚していない16~18才の女性は日本ではみんなそうだ」
『そうなんですの? やっぱりそうなんですのね』
くそぅ、早く家に帰りたい……!
『ところで黒羽様? お調子はいかがですの?』
「いやー、いきなり最下位スタートでさ」
『冗談がお上手ですの。………本当ですの?』
「本当です……」
『何があったんですの?』
ユーキに今日のことを話して聞かせる。
『何をやってるんですの、黒羽様は…』
苦笑いしか浮かべられねぇ……。
「そういや、ユーキは最近調子どうなんだ?」
強引な話題転換を試みる。
『黒羽様が踏んでくれないからちょっと調子が悪いんですの』
話題転換という点から見たら概ね成功したと言える。
しかし、成也がいる状況でのこの発言はからかいのネタを提供しただけである。
その後しばらくユーキと他愛のない雑談をして、電話を切った。
「さて、俺も寝ようかな。おやすみ、」
「ちょっと待て」
「ああ、ダメだ、眠た過ぎて瞼が上がらないよ」
「さっきのユーキ王女の発言について聞かせてもらおうか」
「ごめん成也、ちょっと脳内に靄がかかってきた」
「なあ、毎日踏んでるっていうのはどういう意味なんだ?」
「Zzz……」
「ゼットゼットゼットと実際に発音する人間がどこにいる」
「………すぅ………すぅ………すぅ」
「おい、座ったまま寝てるぞ」
「あ、成也ダメだ! そのままいったら…あ! クソ! どうしてこうなった! 成也ー!」
「お前の夢の中でどうやら自分は死んだらしいな。おい、起きろ」
チッ!
コイツから逃げることは適わないか…!
「あー、もう、わかったよ、話すから」
「わかったんならいい。早く話せ」
「あのな、ユーキってあんな感じだけど王家のなんか書類仕事とかやってて体が凝ってるんだと。だから踏まれると気持ちがいいらしくてな」
「それだけじゃないだろう?」
「まさか。これだけだ」
「じゃあなんで目をそらすんだ?」
「いや、男と見つめ合う趣味は無いし」
「ふむ、一理あるな。誰も黒羽と見つめ合っても得をする人間は……まあ、いるかもしれないが自分はそうではないな」
納得してくれたようで何よりだ。
「それじゃあ、本当に眠くなってきたからまた明日な」
「ああ、おやすみ」
言うと筐体(立体型TV電話)を持って成也は部屋を出ていった。
俺は言えなかった。
言えるはずがなかった。
ユーキがマゾであることを。
毎晩俺に踏んでくれと(もしくはなにかしらM的な要求:罵ってくれ、強めに肩たたき、etcetc…)やって来て、M的な悦びを得て自室に帰っていくことを……。
俺がこのことを他人に言えるわけがなかった…。
さて。
次話投稿は来週の日曜日になるんじゃないかと思います。




