魔王城大決戦(下)
一応上中下編の下になります。
魔龍煌を倒し、しっかりゾンビ化させてからアイテムボックスを開く。
エルフの秘薬《失われた命を再生する魔法の薬だが、今はもう作れる人間はいない。この容量だとあと三回使える》
を取り出す。
このアイテム、ようはHPが0になったときにエルフの秘薬を使えば回復、蘇生することができる。
まず、このゲームでは死んだら強制的に『始まりの間』に戻され、ゲームオーバーから十分後にそこで復活する。
さて、このアイテムを使った時の効果範囲は自分がいるフロア全部。
一滴自分がいるフロアにたらすと、そのフロアでゲームオーバーになってまだ『始まりの間』で復活していないプレイヤーすべてが蘇生する。
なぜ俺がここでこのアイテムを使ったのかって言うとまあ、アイテム全破損は可愛そうだと思ったからだが、埋め合わせはまあ、今度昼飯でも奢らせよう。
消しゴムほどの大きさのエルフの秘薬が入ったビンの蓋を開けて、全部落とさないように慎重に一滴だけ地面にたらす。
これで残り使用回数は二回だ。
―――――――――――――ピチョン――――――――――
床に、秘薬が一滴落ちた。
そして、パァァァァアアアアァ、と床から光の珠が出てきて、そして収束、人形を作っていく。
光の収束が終わり、そこには聖夜が立っていた。
「よう聖夜。俺が蘇生してやったんだ。今度昼飯でも奢れ」
「…? ああ、エルフの秘薬か…? すまない」
「おう、ちゃんと昼飯おごれ……よ?」
最後のほうが疑問系みたいになったのは、聖夜の後ろに見たことないプレイヤーがいたからだ。
ただ単にプレイヤーがいただけなら別に驚かないだろう。
それはエルフの秘薬で俺が蘇生してしまったプレイヤーなのだから。
しかし、その復活したプレイヤーは似ていた。
現実世界での沙羅に、瓜二つだった。
「……沙羅…か?」
「お兄ちゃん、よんだー?」
声は後ろの方から聞こえたので、沙羅――サーラ――ではない、と。
そこで聖夜が振り返った。
「何を見て……………。………! 霧香! き、霧香か!?」
すいません、意味がわからなくなりました。俺の脳みその容量超えた。
そしてその女性プレイヤーはこちら―――聖夜の方を見ると、駆け寄ってきて抱きついた――――
――――――聖夜に。
「お兄ちゃん!」
ごめんなさい、完全に脳の容量超えました。パニック過ぎてついていけません。
頭上に『?』が浮かんでいること必至だ。『Treasure online』ならこれくらい可能かもしれない、と頭上に手をかざしたけど何もなかった。当たり前か。
「霧香! 霧香だな!? 会いたかった! いままで、心配してたんだぞ!」
「お兄ちゃん? どうして泣いてるですか?」
「そ、それは…霧香、よく聞けよ、お前はな、テストプレイでゲームオーバーしてから六年間目を覚ましていないんだ」
「えーっと? どういういみです? 霧香にはよくわからないです」
「つまりな、テストプレイで魔龍煌の『八岐大蛇』を喰らってゲームオーバーになってしまっただろ?」
「はいです」
「そこにな、バグがあったんだ……ってあれ? そういえば自分も八岐大蛇を喰らって…」
「…?」
「ああ、そうか、蘇生アイテムだ! 蘇生されたから復活することができたのか!」
なんかあれ? 俺なんかすごいことしたの?
昼飯だけじゃなくて朝昼夕飯くらいもしかしたらタカれる?
「それでどうしたですか?」
「ああ、話を戻そうか。それでな、そのバグのせいでな、霧香、お前はログアウトできなくなって、その上で六年の月日が流れたんだ。そして、今そこの男がいるだろう? そいつが、霧香を助けてくれたんだ」
「えっと、そこのお兄さんですか?」
「そうだ」
えっと、俺? のことだよな?
とりあえず近くまで行ってみることにする。
「ありがとうございますです! お兄さんは霧香の命の恩人です!」
「いや、命の恩人だなんてそんな」
「でも、命を助けたみたいなものだろう。それは事実だ。今度何か改めてお礼させてもらおう」
よし、朝昼夕朝昼夕の六食ぐらいタカろう。
「でも、このアバター、うちの沙羅とまるで一緒じゃないか。瓜二つだ。偶然か?」
「いや、テストプレイ時は現実での姿形と同じアバターになるからこれは霧香の現実の姿だ」
それにしても、その烏の濡れ羽色の艶やかな黒髪といい、黒目がちな大きな瞳といい、体の小柄なところといい、そっくりだ。まるで同じ見た目。
「じゃあ、どうしてこんなにも沙羅とこんなにも似てるんだ?」
「さあ? それは自分も不思議に思っていたんだ。偶然にしてはありえないほど似ている。まるで、そう、まるで―――――」
「「姉妹みたいだ」」
「では、今からログアウトして母に聞いてみよう。今日は自分はもうパスだ。ではまたな」
言うと、聖夜と、サーラにそっくりなプレイヤー―――霧香はログアウトしていった。
俺は、遠巻きに俺たちを見ていたカミーユたちの元へ行き、合流。
「いったい、どうしたというのだ?」
「なにがあったんですの!?」
「なにがあったのだ!?」
「ねー、お兄ちゃん、サーラにそっくりなひとがいたよね? だれなの?」
「アサクラはちょっと脳の容量がたりなくなったからよくわかんないー」
口々に聞いてくるガール’s。
そういえば、このメンバーのなかで聖夜が抜けたら男は俺だけか。
それがどうしたって話だけども。
いい加減慣れたね。最近周りが女だらけだし。
今さっき俺が見聞きしたことを洗いざらいみんなに話す。
―――――――――――――事情説明中―――――――――――――
「ふむ、なるほどな」
「そんなことがあったんですの!?」
「じゃあこれで一件落着だな!」
年長組の反応はこんな感じ。
俺の説明でよくわかったな。
俺もよくわかってないのに。
もちろん年少組も頭上に『?』マークを浮かべている。
なんだ、『?』マーク出せるんじゃん。
「では、今日は魔王も倒したことだし、お開きにしようか。また何かあれば連絡してくれ」
言うと、カミーユはログアウトした。
「ふむ、では我もログアウトしよう。さらばだ、皆の衆!」
ゴンドーもログアウトしていった。
「じゃーアサクラも。きょうはたのしかったよー。またねー!」
アサクラもログアウトしていった。
残るのは俺とゆーきとサーラ。
「じゃあ俺たちも今日は帰るか」
「さすがに今日は疲れましたの」
「うん、かえろうか、お兄ちゃん」
壁と天井がなくなって全方位が見渡せるようになった魔王の間からふと外を見ると、『大いなる海』を覆っていた暗雲はいつの間にか薄れ、太陽が顔を覗かせていた。
☆☆☆
そして紅葉は医務室の扉に手をかけると――――
――――ゆっくりと、押し開けるようにして、開いた。
病院と同じように真っ白な部屋の中央に、霧香はいた。
最後に見たのは紅葉が五才の時、霧香が生後一週間のときであったから、もちろん成長した霧香を見たことがない。
しかし、ひと目でわかる。
沙羅によく似ている。
さすがは姉妹だ。
血の繋がった姉妹だ。
そう考えると、また涙がこぼれた。
そして両頬を流れる涙をぬぐい目を開きもう一度霧香を見ると、目があった。
霧香と、目があった。
「「霧香っ!」」
☆☆☆
「あれ? 姉ちゃんは?」
「ん、ちょっとね。外にいるわ」
「ああ、そう。何か用事?」
「ええ、そんな感じよ」
なんか母さんがよそよそしいな。
何かあったのか?
喧嘩したとか?
でもまあ、いいたくないのなら聞かないでおく。
姉ちゃんに聞けばいいし。
☆☆☆
「母さん。少し、聞きたいことがある」
医務室の扉を開けて聖夜――――成也が入ってきた。
紅葉がいることに一瞬驚き、霧香が目を覚ましていることを確認して安堵の表情を浮かべる。
「紅葉さんと霧香は待っていてくれ。…………母さん、ちょっとこっちへ」
成也は、母を連れ医務室の外へ出た。
そして隣の部屋、モニタリングルームに入る。
ここは医務室兼病室である部屋と隣接してあるため防音だ。
ちょっとやそっとの会話は漏れない。
「母さん、嘘を吐かないで答えてくれ。………霧香と、明野さん家の沙羅ちゃんは、どういう関係だ?」
「……あのね。よく聞いてね。霧香はね。養子なのよ。産みの親は明野さん夫妻」
「どうして?」
「ちょっと複雑な事情があるのよ。成也は、法律は苦手だったでしょう?」
成也は、およそ知らなくても生きていけるような知識をたくさん持っているが、法律の方面には明るくない。純粋に相性の問題だ。法律は成也には合わないのだ。
「だからね、あなたと霧香は血が繋がっていないわ。霧香ちゃんと血が繋がっているのは明野さん夫妻と黒羽くん、沙羅ちゃんだけよ」
「その言い方だと、紅葉さんには血のつながりがないように聞こえるんだが?」
「あのね、紅葉ちゃんも、養子なの。明乃さんのお父さんが海外を放浪している時に中国の山奥で拾ってきたらしいわ」
「そう、なのか。ありがとう」
☆☆☆
ピーンポーン
家のチャイムが鳴った。
母さんが出て、何事か話したあと戻ってきた。
姉ちゃんと、成也と一緒に。
「なんで成也が!?」
「ああ、いくら近いとは言え夜道は危ないからな」
なるほど、一理あるな。
「それでね、黒くん、沙羅ちゃん、よく聞いてね? お姉ちゃんはね、黒君たちのお姉ちゃんじゃないの。血が繋がってないの」
まさかのカミングアウトだった。
まあ。
そんなことは知っていたわけだけども。
「姉ちゃん、よく聞いて欲しい。俺たち―――俺と沙羅はな、そんなことはもう知ってるんだ」
二、三年ほど前だ。
ある日急に母さんに言われた。
あの時はびっくりしたものさ。
でももう今は整理がついた。
「……………………」
「血が繋がってないから? だからどうした。家族っていうのは血の繋がりで決まるもんじゃないだろ? 絆の繋がりがあれば、もし血のつながりなんか無くとも家族だろ? 少なくとも俺はそう思ってるし、そうじゃなかったら姉ちゃんのことをここまで大切に思いはしない」
「でも、それって私が哀れな道化だったっていうことだよね? 家族の中で知らなかったのは私だけなんだよね!?」
「ホラ。いま姉ちゃんなんて言った? 家族の中で、って言ったろ? その通りだよ。俺たちは家族だよ」
なおも何かを言おうとする姉ちゃんに、成也がなにごとか耳打ちした。
「…………血のつながり…無いなら……結婚………できる……。………自分も…霧香と…」
後半は全く聞こえなかったが、ところどころ聞こえた前半のセリフに、俺の頬が引きつったのはまあ、言うまでもなく。
何を思ったか姉ちゃんが抱きついてきて、よろけた俺が後ろに倒れて。
頭がダイニングの机の角にぶち当たり。俺の意識はフェードアウトした。
☆☆☆
姉ちゃんが、俺の義姉であったことを知ってから三日後。
ベッドから降りて伸びをしていると、頭に鋭い痛みが。
そういえばまだタンコブがあったっけ。
あのあと、目を覚ました俺は姉ちゃんに平謝りに謝られた。
悪いのはだれでもないので、快く許したのだが、さすがにそれでは自分の気が収まらない、と両目をつむって顔を上に向けたので、逃げた。
うん、いくら血の繋がりがなくても自分の姉に手を出すのは論外だろ。
さて、朝食でも作りますか。
ピーンポーン
ドアノブに手をかけて部屋から出ようとした時に来訪者が。
急いで階段を下り、ドアをあけた。
宅配便だったので受け取りのサインをして荷物をもらう。
宛先は俺だったのでダンボールのガムテープを開けて、中身を取り出す。
出てきたのは、腕輪型の機械。
説明書も同梱されていたので読む。
説明書によると、この機械は次世代型、いや、次世代のゲーム機で、名を『R-convert gear
(リアル-コンバートギア)』という、のだそうだ。
この前ケインさんが言ってた次世代ゲーム機のお披露目会で使うって言ってたやつか。
早速手首から肘の関節が曲がるのを邪魔しないように覆う大きさの腕輪型のそれを装着。
右手に装着しなければならないようだ。
そんで、何?
説明書を開くと、一ページ目に「お披露目会までこのゲーム機は起動しないでください」と書いてあったので渋々ゲーム機を外した。
早くお披露目会が来ないかなー!
説明書によると、お披露目会は九月十四(土曜日)、十五(日曜日)、十六(敬老の日振替休日)日の三日間。
場所は、東京都西部の二分の一した南部全部を占める、中津自然公園だ。
なんでも、ゲームクリエイト中津がどっかの大富豪から買い取った土地のようで、レジャーパークとして子供連れの家族にも人気のスポットなのだそうだ。
そして次世代機のお披露目会とあって、TV局も来て全国ネットで放送するのだそうだ。
TVで放送するなら、無様な真似は晒さないようにしなければいけないな、と俺は思った。
次はやっと本編なのですが、その前に一度登場人物紹介、というか、登場人物の整理をしておきたいと思います。
明日には投稿できるかな? と思うんですがどうなることやら……。




