悪魔との契約。指切りげんまん!?
『ねーねー、クロウ。ボクと契約しない? そしたら飛べるようになるよ?』
幻影龍を倒してすぐ。
階段を登ろうとしている時に、後ろから声をかけられた。
「誰だっ!?」
『あ、ボク? とくに名前はないんだけどね、みんなはボクのことを「メフィストフェレス」って呼ぶね。聞いたことない?』
振り向くと、そこには愛らしい小柄な体躯を、奇怪な服装で包む少女がいた。
右手の袖は手を上げると折れるくらい長い薄桃色の袖。反対に左はノースリーブ。丈はおへその少し上くらい。
右側は七分丈くらい、対照的に左側はかなりきわどい角度のハイレグ。
靴は履いておらず、ナイトキャップのような帽子をかぶっている。
そして、髪は絹糸のような美しい白。否、銀。
特徴的なのは目。
目は、文字通り、瞳だけではなく白目の部分も全て一色で、光り輝いていた。
でも、その一色は赤かと思えば青、青かと思えば黄色、というようにめまぐるしく変化し続け一度も同じ色で止まらない。
かなりでたらめなマスコットキャラみたいなのが、空中に浮いていた。
『ねー。聞いてるー?』
「ああ、何の話だったっけ。契約?どう言う意味だ?」
『あ、ちゃんと聞いてたんだねー。ちょっと安心』
「前置きはいいから早くしてくれ」
『えーっとね、クロウさ、自分の能力に疑問を持ったことはない? これ、死霊使いの能力じゃないよな……、とか』
「前に思ったことがある」
『つまりね、君の職業はぶっちゃけネクロマンサーじゃないんだよ。降霊術師なんだよ。あんだすたん?』
「I can’t understand」
『ほえ? どういう意味?」
「理解できません。あんだすたん? って聞いたじゃねえか」
『あ、まあいいや。よくわかんないし。じゃ、話がそれちゃったけど本題に入るね』
「おう、早くしてくれ」
「なんか私が置いてけぼりで話が進んでますの? …ハッ!? これがこの前キリがくれた保健体育の教科書とかいうのにのってた放置プレイというやつですの!?」
「あ、コイツのことは放っておいてくれ」
『……クロウも、なんとなく大変なんだね』
「同情はいいから早くしてくれないか」
『うん。あのね、クロウさ、二人目のファウストにならない?』
ファウスト。本名はゲオルク・ファウスト。まあ、ものすごい噛み砕いて言えば悪魔「メフィストフィレス」と契約した人だ。
「俺さ、死んだら魂持ってかれる?」
『そこにいっぱいあるじゃん。モンスターの魂。クロウの魂は取らないであげるから、死んだら魂全部ちょうーだい?』
つまり、俺がこのゲームで死んだら(ゲームオーバーしたら)、今まで集めたモンスターゾンビを全部失うってことだな?
「メリットは?」
『うーん? ボクの属性はエーテルなんだけどね、まあ、エーテルがなんなのかはさておいて、ボクの力を使えば、属性を合成したり強化したりできる』
いまいちピンとこない。
えーっと、お前の能力を使えば、炎龍の火属性を炎属性にしたり、炎龍と機械竜を同時に憑依させることが可能、ってことか?
『うん、そのとーりだよ。どう? メリットだらけじゃない? クロウが簡単に死ぬとは思えないし』
デスペナルティが酷いことになるが、それは死ななければいいだけの話だ。
受けて損は――無いことはないけど、メリットが大きい。
いままでは属性を単一でしか使えなかったけど、契約したら組み合わせることができるのか。水+風で氷とか?
『うん、そーだね。や、全く便利な能力だと思うよ?』
「よし、契約しようじゃないか」
『じゃあこの条件を満たしてね。待ってるから早めでお願い』
クエスト:二代目ファウスとなる為に
発生条件:火、水、風、土を司る四龍を死霊使いが倒す
成功報酬:職『死霊使い』から、上級職『死霊術師』に昇格
成功方法:四龍を全て憑依させる。ただし、個別にでも可
その後、メフィストフィレスに話しかける
なんだ、簡単じゃないか。
早速今倒したところの幻影龍を憑依。
左腕に黄色のウロコが浮かぶ。
そして、足が大きく変化する。
黄色がベースの足を覆う防具、レガースが顕現、そして虹色の宝石でできた美しい装飾が施される。
更に。
脚力があがったのか、足がものすごく軽い。
「おい、えーっと」
『あ、ボクのことはメフィストでもフェレスでもメーフィでもなんでもいいよ。オススメはメーフィだけどね?』
「あ、じゃあ、メーフィ。ほら、全部に憑依したぞ」
『うん、そのようだね。じゃ、契約しよう。契約は簡単さ。小指出して?』
言われるまま、小指を突き出す。
『ゆーび切ーりげーんまー』
「ちょちょちょい。なに? 悪魔との契約こんな感じなの?」
『あーそういえば、忘れてたよ。えっとね、クロウは、ボクと契約して、ボクが力を君に与えるかわりに、死んだら全部の魂をボクに譲る。この内容でゆーびきーり―――』
「忘れてたのは約束の部分ですの?」
『げーんまーんうーそつーいたら、地獄名所巡り一泊九十八万六千二百四十日の旅を贈呈しーます。ゆーびきった!』
長い!
地獄名所巡り超長い!
しかも一泊しかできない!
絡み合っていた小指が離れる。
『さて、これで契約は完了だね』
「何も変わった感じはしないのだが」
『うーん? じゃあ、そうだね、炎龍と機械竜を同時に憑依させてみて?』
……この前に失敗してるからちょっとしたトラウマがあるんだけど……。
『ホラ、早く』
「……わかったよ」
機械竜、炎竜同時憑依!
左腕の緑と赤のウロコが輝く。
左腕は、いつもと同じ。緑の竜の腕を模した篭手に機械の部品が融合した姿。
左翼は生物的な翼のフォルムをした機械と緑竜の翼。
右腕も、いつもと同じ。鋭く尖る鋭利な炎龍の腕のを模した篭手。
右翼は、強く雄々しい赤い龍の翼。
決して相容れない二つが、同時に顕現する。
ん?
頭に違和感を覚え、手をやる。
頭の上に何色とも取れず何色とも言える翼を模した冠が現れている。
「おい、メーフィ。今までこんなのなかったぞ? ……あれ? メーフィ?」
『ボクはここだよー』
声は、頭上から聞こえた。
つまり、翼の冠から。
『これがボクの防具展開状態だね。あ、防具展開ってのは、クロウの両腕の篭手がそうだね』
「へえ、そんな名前があるのか。でも、主様は防具って感じじゃなかったぞ?」
『ああ、あれはね、普通の展開状態。もとのモンスターそのままの状態で展開すること。たいして強くはない、まあ、コスプレみたいなものかな。武器展開もできるよ、一応』
「炎龍は杖、機械竜は短剣、水は杯、幻影龍は円盤だろ?」
『そうだよ。よくわかったね』
「ってことは、メーフィは蓮の杖か」
『多分そうなるね』
「あんまり強そうな武器がないんですの……」
『特性としては、武器展開は物理的な攻撃力、防具展開は魔術的な攻撃力が上がるみたいだね。渓谷の守護竜の機械化した腕とかは例外みたいだけどね?』
武器展開はできるだけしないで、防具展開だけで戦うことになりそうだ。俺の場合。
『まあ、前置きはいいから、早速飛んでみなよ』
「お、おう」
翼を広げる、のはこんな感じか?
『違うよ。こう、肩甲骨を動かす感じにすると飛びやすいらしいよ』
なるほど。
肩甲骨をこう――――
「ひゃっ!」
凄まじい風が巻き起こり、ゆーきのスカートがまくれ上がる。
見えた!
黒のレース!
じゃなくて。
今のでだいぶ浮き上がっている。
そのまま、少し落下。
もう一度羽ばたき、上昇。
うん、こんなかんじか。
着陸。
「よし、ゆーき、飛んで上がるぞ」
「え、ええ。でも、私はどうやってのぼれば……?」
「えーっと、こう、かな?」
ゆーきの肩甲骨の後ろと、膝のしたに手をいれる。
これがかねてより耳驚かしたるお姫様だっこというやつか……っ!!
そして、翼で羽ばたき、上昇。
一気に地上へ!
「……おろして欲しいような……このままでいて欲しいような……えっと、クロウ様、しばらくこの―――」
「―――ん? 何? おろす? わかった」
「あ……!」
ゆーきが残念そうな声を上げたきがする。
何か不手際があっただろうか。
何分、お姫様抱っこなんて友達のいとこの友達の友達のお姉さんの友達の隣の家の人から聞いたっていう友達の轟木(俺の友達)から聞いた情報しかないのだから、完璧を求められても無理というものだ。
「さて、次はどうしようか。ゆーき」
ゆーきは荒涼の砂漠を俺の十歩ほど前に行くと、顔だけこちらを振り向いて、少しすねたような表情で言った。
「知りませんのよ…!」
少し、ドキッとした。
なにか、怒らせることをしただろうか。
頭上の冠から、ゆーきも大変だね、というメーフィの声が聞こえた気がした。
どういう意味なのだろう。
俺にはわからなかった。
うちのメフィストフェレスは可愛らしい感じです。
あと、クロウが武器展開状態をそらで言えたのは、まあ、クロウの残念な知識欲(中二病方面)がネットで調べたりしたからです。
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