閑話:お姫様の追憶。
えーと、別にあまりにもユーキが不憫に思えたから、とかではありません。
元から決まっていた設定です。
ほ、本当ですよ?
ユーキ=リックディッシュ=ミリアーナは、某国の現王である、ウィリアム=リックディッシュ=リッキーの娘であり、時期国王である。
彼女は、幼少の頃より王としての英才教育を受け、王としての素養を身につけ、王になることだけに人生を費やした。
十二歳くらいの頃まではそれに何の疑問も抱かなかったし、自分が王であることを当たり前のように思っていた。
王として、大学までの教育を全て終えた年の次の年、数え年で十三歳の時。
ユーキは、中学校に入学する事になった。
ユーキはながらく王宮にいたせいで、自分と両親と身の回りの世話をする使用人と、あとはたまにうちに来てはよくしてくれるどこかの国の偉い人しか、人間を知らなかった。
中学校に入学したら、話に聞いていた「ともだち」と言うものが自分にも出来るかもしれない。
そう、思っていた。
最初の内こそ友達のようなクラスメートもいたのだが、彼らの親に自分が王族の人間だとばれると、みな、自分から離れていく。
ごめんなさい、ユーキ様。僕達はあなたが王族の人間だと知らなかったんです、と。
ユーキに、本当の意味での友達はいなくなった。
別に、仲間はずれにされたわけではない。そんな事をしたら不敬罪で罰されるから。
別に、いじめられていたわけでもない。そんな事をしたら全国民から干されてしまうから。
友達はいなくなって、かわりにクラスメートがいた。
ただの、クラスメート。
同じクラスになっただけの人間。
決して、ぞんざいに扱われた、とか、そんなわけではない。
むしろ逆、まるでガラス細工でも扱うかのように、とても、とても、とてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとても丁重に、大事に扱われた。
ユーキは、それがたまらなく嫌だった。
でも、自分は学校が楽しくて仕方がない、というさまを、王宮では演じ続けた。
自分がわがままを言っていかせて貰っている中学校で、友達が一人もいない、などと弱音を吐くのは恥ずかしかった。
そして、結局一人も友達が出来ないまま中学校での三年間は終わり、なんの思い出も持たずに中学校を卒業。
高等学校にはすすまない。
三年間で、学校というものは憧れの場所から、思い出したくも無い呪われし場所にさえなっていた。
王族だから、と差別を受け続ける事も慣れっこになってしまっていた。
……学校なんて、行かなければよかった……。
そんな折、一番両親以外で仲がよく、まるで姉妹のように接していたメイドが貸してくれたゲームがあった。
日本の企業が発売したVRMMOゲームである。
ためしにプレイしてみたところ、そこは王族だからと差別される事もなく、皆が平等にゲームを楽しむ、まるで夢のような場所だった。
もっと本格的にこのVRMMOなるモノで遊んでみたい!
当時齢15(数えで16)にして、10ヶ国語をマスターしていたユーキにとって、日本語を勉強する事は別に苦でもなんでもなかった。
そして日本語検定で一級をとったとき、丁度、日本で新しいVRMMOがもうすぐ発売されるらしい、と言う情報をまるで姉妹のようなメイド、キリに聞いた。
使用人にとりよせてもらい、早速ログインしたVRMMO『Treasure online』。
前回は言葉の壁があり本来の楽しさを味わえなかったけど、もう大丈夫ですの。
彼女の日本語は優秀なる側近のメイド、キリに仕込まれた。
これは、キリの趣―――いや、偏見によるものである。ナイスプレイ。
もとから覚えが早かったユーキは、すぐにゲームが得意になった。
勝てないプレイヤーはいなくなるほどに。
しかし、やはり壁にぶち当たってしまった。
クロウ、と言う名の一人の男性プレイヤー(と言うより童顔の中学生にしか見えないプレイヤー)に。
正直、あの頃の自分は調子に乗っていたんですの。
速攻でPKされてしまった。
ちょっと一般のプレイヤーより強くなったくらいで天狗になるくらいに、ユーキは箱入りのお嬢様だった。
悔しかった。
自分の大好きなゲームで負けてしまったことが、こんなに悔しかった。
ゲームオーバー後一度ログアウトして、王家の権力を使ってクロウが一体誰であるかを調べさせて、つれてこさせた。
ユーキは、リアル割れなどという言葉は知らない。
さて。
つれてこられたプレイヤーは、自分と同い年の少年で、一瞬中学校でのトラウマがよみがえったものの彼は違った。
彼は、自分が王家の人間だとカミングアウトしても、全く態度を変えなかった。
それが、少し嬉しかったのだが、やっぱりPKしてくれたのは腹が立つ。
対戦をふっかけてみた。
彼は、快く承知してくれた(ユーキの脳内補正)。
しかし、戦っている時だ。
彼に、罵倒された。
初めて他の人間に罵倒された。
ユーキはお姫様である。
周りの人間が、もし彼女に同じことをしたらどうなるかなど、目に見えたことだ。
しかし、彼は、自分を罵倒した。
不思議と腹は立たなかった。
むしろ、快感さえ覚えた。
彼の罵倒は、気持ちよかった。
知らない間にもっと、もっと、と求めている自分がいて、内心ではビックリした。
お姫様に、いけない性癖が生まれた瞬間であった。
彼が国に帰った後、ずっと彼のことを考えている自分がいて二度ビックリした事も覚えている。
これは、一体何の気持ちなんでしょう?
ユーキには、この気持ちがなんなのか、わからなかった。
すぐそばのキリに聞いていたら、必ずこうかえってきただろう。
それは、恋慕というものですよ、と。
えーっと、ちょっとでもユーキの認識が変わってくれたら幸いです。




