誘拐は犯罪です。良い子はまねしないでね!!
主人公、八月に入ってから始めて家を出ました。
バルバルバルバルバル
朝、謎の音で目を覚ました。
バルバルバルバルバル
聞きなれない音に首を捻る。
「?」
バルバルバルバルバル
えーっと。
寝ぼけた頭を振り、眠気を飛ばした所でフリーズ。
どこここ。
バルバルバルバルバル
もう、さっきからうるさい! 静かに運転しろよ!
……何を?
バルバルバルバルバル
俺さ、多分これ、ヘリコプターに乗ってない?
私、明野黒羽は、貴重な高校一年生の夏休みに、「誘拐される」というレアな体験をしました。
☆☆☆
目隠しをされたまま、どこかに連れて行かれる。
要所要所で気をつかわれるところを見るに、金銭目的の誘拐だろーか、と、事実を客観的に確認して、そして、ふと我にかえる。
………あ、寝てた。
炎龍を倒してから寝ようと気張っていたら、結局寝たのは午前三時になったのだ。
「今何時?」
「正午でございます」
「ッ!」
独り言に答えが返ってきて、びっくりした。(※俺目隠ししてる)
そのおかげで、少し眠気が覚めた。
そして、目的地に着いたのか、椅子に座らされ、目隠しをとられる。
王の間が、あった。
真っ赤な絨毯。そしてきらびやかな壁に天井。大きさは学校の体育館くらい。
そして、中央にあるのは玉座と、その大きすぎる玉座に座る、少女と女性の中間くらいの年頃の女の子だった。
何故かムスーッとしているその娘に聞く。
「どういうことか、説明はしてくれるよな、ちゃんと」
「貴様ッ! お嬢様に向かってなんという口を―――」
「口を閉じるんですの、キリ。あと、あなたは下がりなさい」
「お、お嬢様!? このような下賤な輩とお嬢様を二人きりにするなど、危険です! ×××や××××などをされてしまいます!」
「な、何を言っているんですの!? いいから、下がりなさい!」
キリと呼ばれた女性――俺をここまで連れてきた二十にギリギリ届かないくらいの見た目の女性――は、しぶしぶ、といった感じで部屋を出て行った。
俺を睨みつけるのも忘れなかった。
ゾクッ
背筋に怖気が走る。
美人に睨みつけられると怖い、と言うことを俺は学びました。
さて。
「じゃあ、順番に説明してもらおうか。まず、お前は誰だ?」
聞く。
「私は、#☆$】ж(日本語ではなかった為聞き取れず)国の王家、リックディッシュ家時期頭首の、ユーキ=リックディッシュ=ミリアーナですの」
えーっと。つまり。
「リアルお姫様?」
「そうですわ! あなたも聞いた事があるでしょう!? #☆$】ж国!」
「いや、日本語で発音しないとよく聞こえないけど。イング……何?」
「だから! って別に、国のことはどうでもいいんですの! まだ日本語は習い始めたばかりで、#☆$】ж国は日本語で発音しにくいんですの! ……では、早速本題に入らせてもらいますのよ!?」
こっちを見てきたので、ドーゾ、と手でうながす。
「あなた! 昨日、私の事を邪険に扱いましたわね! あげく殺されて! 初めてだったんですのよ!」
俺、一体何したんだろう。
「お前と俺は初対面だ。違う?」
「違いますわ! 昨日会いましたのよ!」
「すいません覚えてません」
えーっと?
昨日はたしか炎龍と戦ってそして――――
「アアアアアアアアああああああああああああああああああァァッ!!!!」
「ヒイィィィイッ!? 何ですの!?」
「思い出した!! 昨日そういえば火山からおりた後に出てきたお嬢様モドキだ!」
「モドキじゃ有りませんのよ!? 正真正銘、むしろお姫様ですの!」
「で、そんな姫が俺に何のよう?」
「だーかーらー! 昨日、私をPKしたでしょう! ようするに、私怨ですの! あなたをぶち殺さないと気がおさまらないんですのー!」
☆☆☆
そして。
俺のゲーム機(何故か持ってきてあった)を装着して、『Treasure online』対戦モードにログインするように言われる。
ちなみに対戦モードとは、プレイヤー対プレイヤーの勝負をする時に主に用いられるモードで、いつも俺がログインするほうは通常シナリオモード。
この対戦モードの利点はつ。
一つ。邪魔が入らない。
これは、普通のフィールドでのプレイヤーとのバトルでは、モンスターが突入してきたり、他のプレイヤーが野次馬に来たり、介入してくることが無い、と言う意味でのメリットである。
二つ。負けてもアイテムを失わない。
この対戦モードでは、負けてもデスペナルティはナシ。そのかわり、対戦時にアイテムを賭けることが義務付けられて、勝ったほうは敗者から賭けたアイテムを受け取ることが出来る。
これが、はっきり言って一番でかい対戦モードにおけるメリットかもしれない。
でも。
「これってさ、俺、別に対戦断っても何も困らないよな? 勝っても何もメリットないし」
「私も伝説級宝くらい持ってますの! それを賭けますわ!」
「いや、俺伝説級宝九十個持ってるし。多分、お前が持ってる奴は全部持ってる」
「ふふん♪ そういうと思って、ソロ狩りっぽいあなたには一生かかっても手に入れられなさそうな伝説級宝を賭けましょう」
「何それ。そんなんあったっけ?」
「これですわ。これは、別に持ち歩く事にメリットがあるわけじゃないので、プレイヤーホームの引き出しの中にしまっていたんですの」
プレイヤーホームにはアイテムを収納することが出来るスペースがある。それには、アイテムのレア度によって収納できる数が決まっている。そして、その数はプレイヤーホームの大きさに比例する。
しかし、一つ例外があって、伝説級宝は一種類しかしまえない。一種類しかしまえないが、もし同じものを二つ以上持っていたとしたら、それは入れておくことができる、ってことである。
俺? プレイヤーホーム持ってない。
ちなみに、ユーキが差し出してきた伝説級宝の説明は。
友情の紅き薔薇《人間の大きな友情に反応して咲くこの世で一番美しい薔薇》伝説級宝NO.101
「これは、三十人以上のフレンド登録をしたプレイヤーが集まってとある場所に行かないと手に入れられないアイテムですの。友達の少なそうなあなたには手に入れられないアイテムですのよ?」
カチンと来た。
あー、頭に来たね。
いくら見た目が可愛いからって、ふわふわのブロンドの髪がまるで絹糸のように華奢な体にボリュームを持たして愛らしいからって、翡翠色の大きな瞳が美しいからって、桜色のふっくらとした唇が可憐だからって、そこから紡がれる言葉が今まで聞いたどんな音楽より耳ざわりのいい天上のソプラノだからって
―――どうしよう、このお姫様、けなせる所が見つからない……。
現実世界でこのスペック! 神は不平等だ! 姉ちゃんしかりお隣さんしかり姫しかりよォ!!
「分かった! なら、昨日お前が落としたアイテムと所持金全部を賭ける!」
「決まりですの!」
「そうと決まれば早速―――
――――ログイン」」
こんな掛け声、特に必要ないのに、何故か声が被った。
☆☆☆
「えーっと、学校?」
対戦前の面倒くさい設定(賭けるアイテム、バトルフィールド等)を済ませて、バトル開始。
ログインしてみるとそこは、学校だったってわけだ。
地図を見ると、学校の全貌は二つの校舎の二階を渡り廊下がつなぐ、上から見るとH型の校舎に、北をHの上とすると、北川に五十メートルプール。南側が体育館、西側が運動場、東側が裏庭となっており自転車置き場もある。そして、学校の敷地内からは出られない。
俺の現在地――ログインした場所は、運動場側の、三階建て校舎の屋上である。
向いの校舎の屋上にも人影が見て取れるから、多分あれがユーキ(プレイヤーネーム『ゆーき』だな)だろう。
まず、主様を自分に憑依。
水弾を向いの校舎に打ち込んでみた。
水弾は向いの校舎に着弾し、そして、吸収された。
ゆーきの手の上に。
お互い、職業は明かしていない。
えーっと、ゆーきはなんの職?
いままで出会った中で水を吸収するタイプの職のプレイヤーはいなかった。
なので、主様の憑依をとき、替わりに炎龍を憑依。
炎龍の咆哮!
向いの校舎を吹き飛ばした!
「なんて無茶苦茶な攻撃をしますのー!!!!?」
対戦モードのフィールドは破壊されてもバトルが終了するまで修復されない。
つまり、これで校舎が一つ使えなくなった、というわけだ。
ちなみに、ゆーきは、俺の攻撃を避けた後、校舎から飛び降りて校舎と校舎の間の中庭に着地している。
俺から吸収した水は、今はゆーきの背中で一対の渦を作り、翼みたいになっている。
……あれ、まさか飛ぶのか? 飛べるのか?
いやいやまさか。
ジャバァッ!!
飛んできましたよ、ゆーきさん。
まさか、水で飛べますか。
いいなー、俺、まだ飛べないのに(翼が右側の一つのみ)。
そして、瞬く間に俺の居る屋上まで来ると、着地しそうになったので、炎龍の咆哮で足場を吹き飛ばした。
ガッパァァアアァァアア!
校舎半分が消し飛ぶ!
威力高すぎるな……。俺の足場も無くなりかねん…。
「あっぶないんですのよ! フィールドを破壊しすぎですわ! このフィールドを更地にするつもりですの!?」
そうなる事も辞さないつもりですが、なにか?
「なにか? じゃありませんのよ! これじゃあせっかく水源があるフィールドにした意味がありませんのよ!?」
えーっと、水源。ですか。
炎龍の咆哮!
ゴパァァァァアア! ジャバアアァァァアア! シャアアアアァァァ!
プール吹き飛ばしてみた。
その結果、水が空気中に巻き上げられ、フィールドの北側一体が消失する!
「んなッ!? もうっ! 一体なんて無茶苦茶な破壊力ですの…!」
「いや、ほら、作戦をわざわざ敵が明かしてくれたんだから、潰すしかないかなー、と」
「しまった、ですの!?」
「うわ、お姫様、馬鹿だ!」
しまった、口に出してた!
あれ? 何でそこで頬を赤く染めるんだ!? Mとか? ないない。
「でも、無駄ですの! 私の職業は『龍神の巫女』! おもな能力は、水を操る事ですの! それが固体であっても気体であっても水なら何でも操れますのよ!? 巫女の最上位職ですの!」
「手の内明かすなんて、本当お前馬鹿だな……。本当に王家の娘か? 馬鹿すぎるだろう……」
「な、なんてことを言うんですの!///」
「うわ! 口に出してた!」
「ワザとじゃなかったんですの!?」
「と言うか何故頬を染める!? Mか!」
「そう…ち…違いますのよ!」
「おい、お前。そんないやらしい顔をして、俺様に罵倒される事を待ってるんじゃねぇぞ! この××××が!」
「あぁん♪ もっと!」
どんびいた!
冗談のつもりだったのにまさか本物だとは……!
脳内に、王族調教だの××××だのが浮かんだけれど、追い出します。さよなら。
「よ、よし! 仕切りなおしだ!」
「……………………ぇ、ぇぇ、そう、ですわ! 仕切り直しですのよ!」
気まずいー!
「では、私からいかせていただきますの!」
ゆーきは、魔法の詠唱を開始。
同時に、背中の水の翼が肥大していく。
プールを破壊したせいで巻き上がった水を集めているのか…!
俺としたことが…!
「喰らえッ! 水の翼! 『龍神の怒り』!」
うわッ!
肥大してもとの十倍くらいの大きさになっていた水の翼(ゆーきの二十倍くらい。約三十メートル)が俺に向かって――――!
さっき柵を吹き飛ばした中庭側に向かって、校舎を飛び降りる。
ドゴォォォォォォオオン!
「お前もたいがい校舎を壊しまくってるじゃねぇか!」
「知ったことではありませんわ!」
ゆーきが残り半分の校舎を吹き飛ばした事で、校内に残る建造物は体育館だけになった。
「ここをさら地にする気かッ!」
「そちらこそ! ですの!」
頭上で飛んでいるゆーきを睨みつける。
「使役系能力『武器憑き』!」
手に持った世界樹のメイスに不死鳥を憑依。
今更だけど、これ、死霊使いの能力ではあってもネクロマンサーの能力じゃないよな。
炎龍の咆哮!
飛んでいるゆーきを狙う!
そして、咆哮をまわるようにスレスレをよけてそのまま光線の横を飛んでくるゆーきに、不死鳥の咆哮!
よし! 当たる!
「ッ! 甘いんですのよ!」
ゆーきは、右の翼で咆哮を防ぐ。
しかし、右側の翼が全て蒸発して、消える。
右側の翼を失ったゆーきはそのまま、下に落ちて――――
☆☆☆
ゆーきとの対戦から一日後。
あの後、すぐに家に帰してもらい、ヘリコプター→飛行機で移動してきたら日本に帰ってきたのが夜の十一時。
そのまま寝、そして次の日。
今日の目標は、『霧隠れの渓谷』に潜む守護竜をたおし、伝説級宝NO.14『渓谷の秘宝』を手に入れること。
今俺は、渓谷の近くの『霧隠れの里』にいる。
ここは名前のまんま忍者の聖地で、職業が忍者もしくはくノ一はここで上級職に至るクエスト(ゲーム内における事件、クリアすると報酬やお礼がもらえることが多い)を受けることが出来たり、二十くらいある藁葺きの甍の屋根の家屋は全てが忍者屋敷で、結構家の中を探検していても面白い。
そして一番の特徴は、常に霧が立ち込めており、非常に視界が悪いこと。こころなしか肌寒い。
ブルッと、体が震える。リアルだな、こんな所まで再現してますか。
と、見通しが悪かったから接近まで気付かなかったのか、目の前にプレイヤーが立っている事を確認したので、避けて、また渓谷を目指して歩き出す。
「ちょっと! 待ちなさいですの! 私ですのよ! 私!」
「俺もう昨日お前の降参とはいえ勝ったから良いじゃん。諦めて欲しいのですが。……えーっと、なんのようですか?」
やっぱりお姫様か!
何か関わったら負けな気がするんだよな。
ただ、ここで逃げ出したら確実に殺される。
なにせここは霧の中。周りは水だらけ何をしてくるか分かったもんじゃない。
「フレンド登録、昨日し忘れてたんですの!」
「別に必要が無いかと思います」
「それは、お前なんかとはと、友達じゃねーよ! って、い、意味ですのね!?」
「ちょッと興奮してんじゃねーよ! お姫様の気品はどこへ行ったの、この変態ッ!」
「ハァハァ……! もっとその美しいお声で私を罵ってェ!」
真剣にログアウトしようか悩んだとさ。
怖いよ! 見た目パーフェクト美少女になんで性格残念なんだよ! そうか、天は二物を与えずを体現しているのか! 姉ちゃんもそう(シスコン&ブラコン)だから、もしかしたらお隣さんもそうなのかもしれない……。
もう開き直ろう。王族調きょ……ゲフンゲフン。
「はい、プレイヤーカード。……よし、これでフレンド登録完了だな」
「クロウ様! 私と、パーティを組んで欲しいんですの!」
「別に良いけど……なんで?」
「え!? いや、あの、そのう、えっと、そう、あなたを暗殺する機会を得るためですわ! いつでも私の奪われたままの伝説級宝を奪い返してやるんですのよ!」
「パーティを組みましょう、今すぐに!」
「え!? あの、手…いや、なんでもないですの」
手?
「あー悪い、なんかつい」
「いえ、いいんですの」
熱弁するあまり、ゆーきの手をとっていたようだ。
パーティ登録完了。
「馬鹿だろ、お前。パーティ登録したプレイヤー同士はダメージが通らないんだぞ? 絶対にお前とはパーティ解除しないからな! フワハハハハハ―――」
「……そんな…これは、えーっと、愛の告白ととらえてもいいんですの……?///」
「―――ハハハハハハ! え? なんて?」
「ッ! なんでもないんですのよ!」
「あ、そう。ならいいや」
かくして。
俺のパーテイは変態お姫様が加わり、またしても二人になった。
「もっと罵ってェ!」
「本当色々と台無しだな! お前! せっかく見た目こんなに可愛いのに! 何でだ! 神は意地悪だ! これはあまりにも酷い!」
「神ではなく私に文句を言ってください、ですの!」
「精神科へGO!」
本当、黙っとけば可愛いのに……。
国を出てますね。
……こんなキャラ(ユーキ)をだすから、まともなキャラがいない、とか言われるんだ……! 学習しろ自分…!
感想、誤字脱字、欠点、変な言い回し等ありましたら、書き込んでください。
よろしくお願いします。




