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早くここから離れたい。
でないと私のそわそわしたこの気持ち、柏木くんに気づかれてしまう。
「あの…」
準備室を出る瞬間、呼び止められて振り向くと柏木くんがこちらを見ていた。
「名前、聞いてもいい?」
そういうとまた、微笑んだ。
眩しい夏の、澄み渡った青空のような笑顔。くっきりとした目鼻立ち。その爽やかで優しげな視線に射抜かれ、私の心拍数は跳ね上がる。
「……い…井上……ミサキ」
どうしたんだろう、私。
こんな気持ち。不思議な甘さが胸を柔らかく締め付ける。
この気持ちに名前をつけるならば、それは……
それは…
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1年2組、井上ミサキ。
放課後の理科準備室にて、アッサリと恋に墜ちる…。
†
あれから2年。信じられないことに、高校生活最後の3年で同じクラスになれた。
でも、いまだに一方的な私の片想い。
同じクラスの割りには2人に接点はなく、廊下ですれ違っても帰り道に彼を見かけても、私から声を掛けるなんてとてもできなかった。あのときは初対面だったからか意識せず普通に話せたのに、今では到底無理。
きっとあのときのことなんて、柏木君は覚えていないんだろうな……。
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そんな憂鬱な日々に終止符を打ったのが、高校生活最後の一大イベント、修学旅行だった。