もう手遅れです ~世間的評価ではトゥルーエンドですが、我が身に起こるとバッドエンドとしか言いようがありません
転生という奇跡の前には小さいことだよ
他人事なら……
ここが乙女ゲーム「ドキドキ学園ラブ&ピース 恋と乙女と魔王様 EX」略して「ドキ学エックス」の世界であると気付いたのは、なにもかもが手遅れになったついさっきのこと。
私はどうやら乙女ゲーム世界に転生を果たし、ヒロインとして既に王太子ルートを攻略したらしい。
今はエンディングの結婚式。
前世知識を活躍させる余地がまったくないこのタイミングで前世を思い出す意味があったのかどうか非常に疑問だが、同時に前世知識もなく良くここまで辿り着いたと心底感心する。
それというのも、このゲームの開発陣はちょっと頭がおか……かなり性格がわる……とにかくプレイヤーの心をへし折ろうという悪意に満ちたシナリオとギミックで、通常なら王道とも言える王太子ルートが最も難易度が高く、攻略サイトを参照しながらやっても途中で挟まるミニゲームの戦闘イベントがクリアさせる気がないとしか思えないほどに難しく、新時代のドルアー○などと揶揄されるほどだった。
魔王戦で必要となる聖剣を手に入れるためには国宝である魔法剣を聖剣が封印された岩に叩き付けて折らねばならない。ただし、この岩はなんの変哲もない岩としか見えないため、攻略情報もなくどうやったらそんな仕掛けに気付くんだと制作陣に詰め寄りたい。
炎の魔人を倒すのに油を掛けるというのも、当時、分かるか! と思わず声に出して突っ込んでしまった。(油をかけると炎が燃え過ぎて制御できなくなる、ということらしい)
在り来たりなパターンにしたくなかったというのは理解できる。
しかし、プレイヤーの裏をかくことに腐心した結果、常識的な判断では正解不可能なギミックだらけとなり、最早乙女ゲーというジャンルから完全に逸脱してしまった。
いかにしてギミックを解除するか。その謎解き方面で話題を呼んで廃クラスのプレイヤーが増えたそうだが、乙女ゲーとしての評価はかなり低かった。
質の悪いことにイラストレーターに超有名どころを起用していて、話を進めた際のご褒美スチルのために頑張る腐女子も少なくなかったとか。しかも主人公の名を変更できたから、攻略対象たちが声優の声で自分の名を呼んでくれるという……。
あれはどうやっていたんだろうか。AIでの合成だとしたら声優と揉めるような気もする。当時は気にもしていなかった。まあ、今更知ったところでどうということもないのだけれど。
攻略本という知識があっても途中の半端なく作り込まれたアクション要素は技術がないとクリアできない鬼仕様。
どうしてもそこがクリアできずに挫折したプレイヤー多数。
もうこれはクリアさせる気がないだろ、と言われる始末。
そこをクリアしないとどのキャラであってもトゥルーエンドには辿り着けず、高確率でバッドエンド、その後の展開をうまくこなしてもノーマルエンドが精々。
どのルートであろうとトゥルーエンドにまで辿り着いてスクショをあげるとSNSで祝福されるレベルに到達者が少なかった。
一部カルト的な人気を博したが、「クリアを前提としないゲーム」「乙女ゲームの皮を被ったマゾ向けゲーム」「乙女ゲーム要素 3 異常性97」「サイコロを振って、サイコロが角で立つ奇跡が起こせるなら初見、前情報無しでもクリアできる」
などと散々な言われようだった。
それだけ苦労して得られるエンドは実に凡庸なもので、過程の奇天烈さは一体なんだったのだという。
私が現状ここまで辿り着いた自分自身に驚いている理由がお分かりいただけただろうか。
私の記憶が蘇っていたならともかく、初見・前知識無しで今世の私は王太子ルートという難易度激高コースをクリアしたのだ。これは称賛に値するし、まさにサイコロを振ったら角で立ったような奇跡だ。
……考えてみれば私が乙女ゲームのヒロインに転生したことが既に奇跡的な話だ。それに比べると、いや、やっぱり現状ここに至ったのも奇跡と言って差し支えないだろう。
神父が誓いの言葉を終える。
この後、隣に立つ王太子が私のヴェールを上げて誓いのキスをする。
……。
ちらりと見る王太子の横顔。
その顔を当然知っている。
二次元で見慣れていた。いや、今の私の記憶には三次元の彼の顔の記憶もある。
イケメン、という言葉では言い表せないほどに美しい。美男子という言葉が軽く聞こえるほどの整った顔は人工的ですらある。(いや、実際に人がデザインしたものだが)
彼と結ばれることはヒロイン(つまりは現在の私)にとって最も幸福なENDであるのは間違いない。
これが大正解のトゥルーエンド
ただし、中身が私でなければ。
権力と財力、そして美貌と人柄。
王太子にはなんら欠点はない。これ以上望むべくもない超優良物件。
しかし、私は……私は……前世、男(♂)です。
男、雄、おっさん。
娘に頼まれて、また自らのゲーマー魂もあってこのゲームをやったけれど、推しキャラとかいなかったから。異性愛者だから。
綺麗なイラストだとは思った、うん、思った。
王太子もすげえ綺麗と思ったし、女だったらと想像もした。
でも、無理だから。
ヴェールを上げないでくれ。
そんな頬を紅潮させて見つめないで。
ああ、顔が、綺麗な顔が近づいて来る……でも、無理、ホント無理だから…………。
暗転終了
ううん、性別はクリアできなかったかあ
というか、何故このタイミングで……
思い出さない方が良かったのにねえ
野太い男の声で脳内再生して最初から読み直してみましょう




