エピソード04
首無太郎です。手に取ってくれてありがとう。
マドレーは巨大なキカイ相手にその身一つで奮闘していた。
相手はその巨躯を活かして攻撃を仕掛けてくる。
マドレーの持つ鈍器とキカイの鋼の体がぶつかり合う衝撃音が広い建物内にこだまする。
男は攻略法を考える。
キカイの弱点は胸部のバッテリーだ。只、あの巨体を動かす程の電力を賄うには相当量の供給が必要不可欠だ。
あの量の配線...、胸部に繋がっている部分だけ破壊すれば供給を止められるかもしれない!
「マドレー!キカイの胸に繋がっている線を破壊するんだ!」
マドレーは反応しない。
今までマドレーが反応しなかった事は無い。聞こえていないのか?
違う...、ドローンの機能が停止している!
巨大なキカイはマドレーと戦いながら、悠長に男に語りかける。
「残念だけど、君の声は兄さんには届かない。そのドローンは僕が配備したんだから。僕が兄さんのために用意したものを勝手に使うなんてひどいな。」
このドローンは巨大なキカイが配備したデバイスの一つだったのだ。
目的はマドレーの監視か、とても幼い子どもの思考とは思えない。
男は予め用意していた遠隔通信デバイスを取り出す。マドレーにも、有事の際にと同じものを渡していた。
男は再びマドレーに語りかける。
「マドレー!キカイの胸に繋がっている線を破壊するんだ!」
キカイと善戦していたマドレーは、待ってましたとばかりに答える。
「了解!キカイの指へし折るのにも飽きてた頃だぜ!」
男は次の作戦に移る。
次の標的はムシの群れだ。奴らは度々マドレーに突撃しているが尽く撃ち落とされている。
巨大なキカイにとってムシは消耗品のようだ。
男はドローンの操作を試みる。よし、まだ座標指定機能は生きている。
男の操縦するドローンは真っ直ぐ巨大なキカイの背後に蠢くムシの群れに向かっていく。
「ここだ!」
男の叫ぶ声と同時にドローンの周囲に球状の電磁干渉波が展開される。
ムシの群れは目の色を変えたように標的をマドレーから巨大なキカイに移す。
まるで砲弾の雨のようにムシの群れは巨大なキカイに降り注いでいく。
巨大なキカイに繋がっていた配線は千切れ、胸部の装甲は剥がれ落ちる。
あとはマドレーの仕事だ。
衝撃で横たわったキカイの巨体に飛び移る。
途端にキカイは命乞いを始める。
「やめて兄さん!ひどいことしないで!」
マドレーは容赦なくバッテリーに向けて鈍器を振り下ろした。
「兄...さ...」
キカイの電源が落ちる。バッテリーの破壊に成功したのだ。
マドレーは吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
「俺を兄さんと呼んで良いのはアルフだけだ。」
衝撃波でドローンはもうボロボロだ。もってあと数分といったところか...。
マドレーには伝えなければならないことがある。
「マドレー、奴にはキカイ特有の部品が欠損していた。奴は弟さんを模したAIの可能性が高い。」
そう、機械化手術には脳を機械の体にそのまま移植する必要がある。
しかし、巨大なキカイには小さなチップしか存在していなかった。
AIチップを作るには本人の脳を素材にするため弟さんの生死は...。
「弟さんは既に亡くなっている。」
マドレーは事実を飲み込むかのように頷く。
「やっぱりか...、はは、唯一残された家族だったんだけどな。」
私は彼の哀しい背中を見つめるほかなかった。
数日後、私達は弔いのためアルフの墓を立てた。
マドレーはその身体能力を隠して平穏に生きることにするそうだ。
私達は互いに別れを告げた。
私はマドレーがアルフの二の舞いにならないように、彼が新人類であることを墓場まで持っていくつもりだ。
しかし、アルフを攫ったキカイを操っていたのは何者だったのか。
新人類を鹵獲して何をするつもりだったのかは今も不明なままだ。
この混沌とした現実の中で私は今日も傍観を続けていくのだろう。
終わり。
首無太郎です。読んでくれてありがとう。