エピソード01
首無太郎です。手に取ってくれてありがとう。
これは機械化が進んだ地球の話だ。
3XXX年、人間は汚染された空気から身を守るため機械に身を変えて地球に残るか残りは火星に移住した。
そんな中でも例外はある。
それが「旧人類」だ。
めっきり安くなった機械化でさえ受けられない。新たな環境に適応できなかった種族として「サル」などと揶揄されている。
そんな下世話な妄想をしながらかつての故郷である地球を見ながらさらに妄想に耽ようとした時、
「火星に在住のみなさーん!おはようございます!こちらはNextTubeです!」
火星に住み始めてさして珍しくもない広告だ。こういった娯楽が火星には充満している。
「なんと、地球の様子をサブスクで配信しちゃいます!」
...なんだって?
地球の様子を配信?旧人類は遂に人権も失ってしまったのか...。
お察しの通り私は広告に弱い。そのせいで家の中は昔で言うゲームセンターの様になっている。
もう少し理性的に生きたいものだ...、まったく...いっそキカイになってしまおうか。
そうだ、どうせキカイになるのなら地球のトレンドを抑えたい。
ならNextTubeで地球のトレンドを把握すれば良いではないか。
そう思った瞬間に既に私はサブスクリプションに課金していた。
後悔はない...はずだ。
後悔の念をかき消すようにNextTubeを立ち上げる。
そこには懐かしの地球が広がっていた。いや、少し汚染が進んでいるか。
しかしながら殆どがキカイの配信だな。他のリスナーも頭の話題で持ち切りだ。
まぁ火星に移住した我々にとってキカイは珍しい部類だし無理もないか。
どうせなら、誰も追ってない様な配信を応援したい。
「ん...?旧人類か?」
ひとつだけ旧人類の配信がある。画角から見て盗撮かドローン映像と言ったところか。
まだ視聴者すらいない新規だ。旧人類の今も知りたかったし丁度良い。
私は彼の配信を見てみることにした。
...これが私のつい最近までの出来事だ。ーって誰に話してんだか。
あれから私は彼の生活を盗み見ている。
にしても凄まじい身体能力だ。本当に人間か疑わしくなってきた。
パン屋から逃げる足の速さ。塀を軽々飛び越える脚力。どれも人間離れしている。まるでサイボーグだ。
いや、盗みを働くような子供が機械化手術を受ける金額を払えるとは思えない。
しかも病に侵されている様子もない。
汚染された大気下でも快活に行動が可能とされている特殊個体。そんなものがいたら真に「ニンゲン」であるとこの前テレビで流れていたが、実在していたとは...。
これは...コメント機能か?懐かしいな、今やリアルタイムで思考を飛ばす思念型チャットが主流だが、昔主流だった機能らしいな。
その時、パン屋から石を投げられたのを見てとっさに「危ない!」と叫んでしまった。
すると彼は超反応を見せた。
後方を確認したかと思うと、身を翻し石を避けたのだ。
自分の声に反応した...?音声入力機能でも付いているのだろうか。
多少驚きはしたが昔からある機能だから不思議とは思わなかった。
この日も少年が眠りについたのを見て、私も眠りについた。
このときの私は少年とより深い関係になるとは露とも思っていなかった。
首無太郎です。読んでくれてありがとう。