表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の剣  作者: LÉO LIMA
3/30

第三幕:疾歩(しっぽう)

――早光(はやみつ)家・屋敷――


侍大(じお)は屋敷中を歩き回り、部屋の配置を覚えようとする。


『この屋敷……迷路みてえだ。トイレも自分の部屋もすぐわかるようにならねえと……恥かきたくねえ』


廊下を進むと、さっき通った庭に出る。士武(じん)が木刀で練習している姿が見えた。今度は侍が一人、傍で指導している。


『は?あのクソ野郎、個人レッスン受けやがって!?』


「若様、足の運びがこの技の要です。足の甲に力を込め、瞬発力を生み出さねばなりません」


侍大(じお)が割って入る。


「おい!俺だってこの技習う権利あるんだぞ!」


士武(じん)の傍らに立っているのは、大師堂(だいしどう)祈跡(きせき)――早光(はやみつ)一族に仕える家臣にして、家老である。


鼻の高さに沿って顔を横断するような傷跡が一本刻まれ、髷を結った典型的な武士の風貌をしていた。


祈跡(きせき)侍大(じお)の方へ歩み寄ると、ゆっくりと、そして丁寧に頭を下げた。


「ごきげんよう、若侍大(じお)様。早光(はやみつ)様と士武(じん)殿からあなたのことを伺っておりました。拙者は大師堂(だいしどう)祈跡(きせき)、父上様の家老であり、雷鳴(らいめい)瞬光刃(しゅんこうは)(りゅう)の指南役でございます。これからはあなたにも指導いたします」


雷鳴(らいめい)…なんとか?」


祈跡(きせき)は穏やかに笑いながら説明する。


雷鳴(らいめい)瞬光刃(しゅんこうは)(りゅう)は、早光(はやみつ)家の祖・早光(はやみつ)剛三郎(ごうざぶろう)が創案した剣術でございます。居合術を基にした速攻の技が特徴で、父上様もさらに発展させられました」


「拙者は父上様の直弟子として、この流派を継承するため、ご子息たちを指導しております。どうぞ、まずは基本の型から……武士学園に入られる前に、少しだけお教えしましょう」


縁側から手を差し伸べる祈跡(きせき)侍大(じお)は明らかに照れくさそうにしながらも、その手を取る。


――生まれて初めて、これほどの敬意で扱われた。

その重みに、侍大(じお)はただただ圧倒されていた。


士武(じん)が彼の赤らんだ頬に気づく。視線を感じた侍大(じお)は、烈火のごとく睨み返す。士武(じん)は慌てて目を逸らした。


「現在、士武(じん)殿には雷鳴(らいめい)瞬光刃(しゅんこうは)(りゅう)の初伝『第一段:雷光斬(らいこうざん)』の基本を繰り返しております」


「これは中・近距離の敵を抜刀一閃で斬り伏せる技です。中距離の場合、足の踏み込みで体を空中に放り出し、軌道上で抜刀を完了させねばなりません」


「この踏み込みは『疾歩(しっぽう)』という独立した技です。足の速さ、踏力、抜刀の精度が求められます。侍大(じお)殿は刀のご経験が?」


「…あります。妖怪や野盗と戦って…食い物を盗むために…独学で覚えました」


侍大(じお)は顔を背け、最後の言葉を噛みしめるように言った。


「で、でも!正式な修行なんてなくても、妖怪も野盗も何人も斬った!俺の腕は確かです!」


祈跡(きせき)は温かく頷く。


「それは心強い。戦いの経験はどのような形であれ、財産です」


木刀を手渡し、祈跡(きせき)は構え方を教える。手の位置、足の幅、腰の入れ方――一つ一つ直しながら、侍大(じお)の体を調整していく。


侍大(じお)の頬は真っ赤だ。まるで夢を見ている子どものよう。


士武(じん)祈跡(きせき)に教わった型を繰り返しながら、ちらりと弟を見る。


『あの子………まるで別人みたいだ。私にはあんなに殺気を向けていたのに……他の人には、すぐに心を開くんだな。いや、違う……私にだけ、あんな態度。なぜ?私がここに残ったから?彼が捨てられて、私が残っただけ……でも、それは私のせいじゃない。誰のせいでもない……ただの運命のいたずらだ。』


俯く士武(じん)


雷士(らいと)望巳(のぞみ)だって、家族として接してくれているとは言いがたいし……父上の期待にも応えられなかった。そんな中で、また一人……新しい家族が増えたというのに……きっと、この人にも、好かれることはないんだろうな。』


その瞬間――


侍大(じお)の足が地面を蹴る。三メートルを一瞬で飛び、地面すれすれを滑るように進んだ。


疾歩(しっぽう)だ。


雷光斬(らいこうざん)の理想的な発動――まさにこの動きだった。


士武(じん)は何ヶ月も疾歩の練習を続けてきた。だが侍大(じお)は、たった数分でその動きを習得した。


目をぎゅっと閉じ、悔しさを噛みしめる。


『この新参者の弟ですら……私より……』


一方、侍大(じお)は満面の笑みだ。祈跡(きせき)が褒めている。


「見事です、侍大(じお)殿!疾歩(しっぽう)の理合いを完璧に理解されました。ただし――」


「これは雷光斬(らいこうざん)の補助技に過ぎません。あくまで主役は抜刀の速さと精度です」


「心配いりません、祈跡(きせき)先生!一週間で雷光斬(らいこうざん)をマスターしてみせます!」


「ははは。その意気や良し。ただし、そんなに簡単な技ではないので、焦りは禁物です」


祈跡(きせき)侍大(じお)の頭を撫でると、彼は嬉しそうに頬を緩めた。


夕暮れ時。雷士(らいと)が屋敷の廊下を歩く。今日の稽古も終えたばかりだ。


――回想――


『母上、なぜ僕だけ別の先生なの?士武(じん)にい……いや、士武(じん)と同じでは……』


雷士(らいと)、あの子を追い越すには特別な方法が必要よ。同じ師匠では同じ成長しかできない。このままでは、父上の後継者にはなれないわ』


――現在・廊下――


雷士(らいと)はふと、庭で稽古する士武(じん)侍大(じお)の姿を目にする。祈跡(きせき)の指導を受ける二人をじっと見つめ、やがてそっとその場を去る。


祈跡(きせき)が手を叩き、稽古の終了を告げる。


士武(じん)殿、侍大(じお)殿、今日はここまで。過度な鍛錬は体を壊すだけです。教えた型をあと十回ほど繰り返したら、必ず休むように」


「はい、祈跡(きせき)先生。でも、俺はまだ続けられそうですが」


侍大(じお)はちらりと士武(じん)を見る。明らかに優越感に満ちた視線だ。


「その心意気は結構ですが、焦る必要はありません。力はおありです。あとは技術を磨くだけ。着実にいきましょう」


祈跡(きせき)は縁側に上がり、一礼する。


「では、明日また。良い休養を」


祈跡(きせき)が屋敷を去ると、庭に残された兄弟はそれぞれの練習を続けていた。


――その瞬間、侍大(じお)士武(じん)に木刀を向ける。


「なあ、朝の決闘の続きをやらないか?」


士武(じん)は躊躇する。しかし、侍大(じお)の目には最早純粋な憎悪はない。ただの傲岸と自信――それでも見下しているのは変わらないが、確かに以前よりはマシだ。


祈跡(きせき)先生の言いつけを聞いてないのか? あと少し練習したら休むんだ」


「は? 練習してるさ。実戦だって立派な稽古だろ? それとも……俺に負けるのが怖いのか?」


士武(じん)は挑発に乗り、ため息をついた。

「わかった。だが真剣は使わない。それに、全力で打ち合うのも禁止だ。明日から毎日稽古があるんだ。おまえも明日から武士学園だろ?」


「はっ!俺の力を怖がってるんだろ?まあ、弱いくせに無理すんなよ」


「違う。学園に行けばわかる。木刀の稽古は力より技の正確さを――」


「はいはい、うぜえな。さっさと始めようぜ」


二人は庭の中央で向き合い、構える。侍大(じお)は一日かけてようやく正しい構えを覚えた。元盗賊時代の我流の姿勢とはまるで違う。


『この甘ったれボンボンに徹底的に負かしてやる。そうすれば父上の後継なんか諦めるだろ』


一方、士武(じん)は深く呼吸し、心を落ち着かせようとする。


『彼は本当に稽古がしたいのか?それとも…ただ私より強いことを証明したいだけか?』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もし作品を気に入っていただけましたら、ぜひ以下の方法で応援していただけると嬉しいです:

  • ★評価をつける
  • ★ブックマークに登録する
  • ★感想やリアクションを残す

どれかひとつでも大きな励みになります!(>人<;)

FANBOXでのご支援も大歓迎です:

FANBOXはこちら

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ