表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の剣  作者: LÉO LIMA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/30

第二十四幕:仮面

早光(はやみつ)家の一行が黄昇を発ち、緑環都(ろっかんと)の武士学園へ向かってから一時間が経った。駕籠の中では、侍大(じお)のふりをした士武(じん)が、雷士(らいと)と対峙する。


「俺たちは『敵』じゃねえ、『兄弟』だ!『競い合う仲』って思うなら構わねえ。(多分)……俺もあんたたちをそう見てる。だが『敵』扱いする理由はねえだろ」


雷士(らいと)はその言葉に驚く。


「でも、あなたは士武(じん)兄様を二度も殺そうとしたでしょう?

少なくとも僕は兄弟を殺そうなんて思ったことありません。

そんなあなたが、僕に説教なんてできるんですか? それも不名誉な方法で」


「そりゃあ、俺がまだ侍の修行中だからだ。俺は……士武(じん)のことが大嫌いだ。

だが祈跡(きせき)先生の試練で学んだ。偉大な侍は、敵とさえ手を組む時があるってな」


士武(じん)は明らかに、森での試練中に侍大(じお)から聞いた言葉を繰り返していた。


「でもよ、俺は士武(じん)を『敵』じゃなく『仲間』って見られるようになった。

過去の過ちは二度と繰り返さねえ。

だからこそ、あんたに言えるんだ。俺みたいな奴でさえ士武(じん)と組めるんだ。

なのに、あんたが俺や士武(じん)を『敵』だなんて思う必要はねえだろ!」


雷士(らいと)は当惑し、返答に詰まる。ふと、彼は「士武(じん)」のふりをした侍大(じお)との会話を思い出した。


侍大(じお)は……悪い人じゃない。ただ……誤解されてて、孤独で……さびしがり屋なんだと思う】


『もしかして……士武(じん)兄様の言う通りだったのか? 侍大(じお)兄は、本当に寂しがり屋で……?

表面的には士武(じん)兄様を憎んでいても、心の底では僕たちが争うのを望んでいない……?』


「それなら……初めて会った日に言ったことは? 覚えてますか? 『父上の後継の邪魔をするな』って。

僕が『弱い』から勝てないとも……。それに、ほとんど手を出そうとしたじゃないですか」


侍大(じお)、そんなことしてたのか!? あのバカ!!

──ってことは、あいつ……来た初日に雷士(らいと)に相当ひどいことしたんだな。

完全にブチかましてんじゃねえか。雷士(らいと)が『敵』だと思うのも無理ない……』


士武(じん)雷士(らいと)の前に深々と頭を下げた。


「……あの時のことは詫びる、雷士(らいと)

あの頃の俺は憎しみに囚われてた。だが、俺は変わろうとしてる。

祈跡(きせき)先生から多くを学んだ。親父に恥じぬ侍になりてえ。

だから……あの時のことは忘れてくれ。後継を争う『競い合う仲』でいい。だが……『敵』じゃない」


雷士(らいと)は、「侍大(じお)」が自分に頭を下げる姿に胸を打たれる。


『この人は……士武(じん)兄様にそっくりだ。もし侍大(じお)兄が本当に侍らしく振る舞えるようになったら……僕にはもう見分けがつかなくなるかもしれない』


彼は「士武(じん)」の言葉を思い出した。


【あいつ……いや、侍大(じお)は、自分じゃ気づいてないかもしれないけど……誰かに愛されたくて、優しくされたくて……たぶん、ぎゅって……誰かに抱きしめてほしいんじゃないかな、って……思って……】


士武(じん)兄様は言ってた……【誰も見てない時なら、侍大(じお)兄も警戒しないかも】って』


雷士(らいと)は躊躇いながら近づく。士武(じん)が顔を上げた瞬間、彼は思わず「侍大(じお)」を抱きしめた。


「……大丈夫です、侍大(じお)兄。許します」


士武(じん)は少し頬を染め、感動を覚える。そして、そっと抱き返した。


『信じられない……雷士(らいと)とは乳児の頃から一緒だったが、こんな風に抱き合ったことなんて……。

でも、侍大(じお)のふりをしたら、あっさりうまくいくなんて。

……いや、侍大(じお)本人なら、もっと喜ぶだろうな。

今度こそ、雷士(らいと)に【本物の侍大(じお)】を抱きしめさせてやらないと』


***


数時間の旅の後、一行は小休止を取った。駕籠が止まるやいなや、侍大(じお)が飛び出し、士武(じん)めがけて突進した。


「じ、士武(じん)!どうしたんだ!?」


「話がある!緊急だ!大変なんだ!」


侍大(じお)士武(じん)の腕をつかみ、自分の駕籠へ引きずり込む。周囲は困惑した面持ちで見つめるだけだった。女中たちが囁き合う。


『まさか旅先でもあの二人は喧嘩するつもり?大師堂(だいしどう)様が同行しているのに?』


駕籠の中では、侍大(じお)が半ばパニック状態だった。


士武(じん)、約束は破棄だ!もう元に戻ろう!」


「は?どうしたんだ急に?」


「な、なんでお前に言わなきゃなんねぇんだよ、バカ兄貴!!ただ……もう限界だ!お前のフリはごめんだ」


士武(じん)侍大(じお)の赤面し神経質そうな様子に気づく。突然、悟った表情を浮かべる。


『待てよ……まさか……侍大(じお)恋雨(こさめ)のことが好きなのか!?』


士武(じん)はこれまで二人が一緒にいる場面を思い返す。恋雨(こさめ)が近くにいる時、侍大(じお)が必ず赤面し、妙に緊張し、大人しくなることを思い出す。


『まさか……弟が幼馴染に片思いだなんて!可愛いじゃないか!兄として何かしてやらねば!これは立派な兄になる機会だ!』


「駄目だ、侍大(じお)。約束は約束だ。旅が終わるまで君は私のフリを続けるんだ」


侍大(じお)士武(じん)の腕にしがみつき、半ば脅すように、半ば泣きそうになりながら訴える。


「約束もクソもねえよ、この野郎!!!俺……もう一日もお前のフリなんてやってらんねえ……」


士武(じん)はゆっくりと侍大(じお)の肩に手を置き、落ち着かせようとする。


侍大(じお)、聞け。恋雨(こさめ)との接し方を教えてやる」


侍大(じお)がギクッとする。


『え……待てよ!?この変態兄貴が……自分たちの恋人同士のやり方を教えて、俺に【あれ】をさせようってのか!?』


侍大(じお)は顔を覆い、恥ずかしさのあまりしゃがみ込む。


「嫌だ!そんなのまだ早すぎるよ、このエロ兄貴!!俺はまだ純粋なんだ!!!」


「純粋な芝居だな、それ。いったい何想像してんだよ?変態はどっちだよ、まったく」


士武(じん)侍大(じお)の頭にそっと手を置く。


「いいか、恋雨(こさめ)と話すのは確かに難しいかもしれない。あの子は真面目で冷静沈着だ。感情がないように見えるが、それは忍の修行のせいだ。橘子(きつこ)と接する時と同じように振る舞えばいい」


侍大(じお)はゆっくりと立ち上がる。この状態では、士武(じん)への対抗心も一時的に薄れている。


「俺が橘子(きつこ)と?ありえねえ!恋雨(こさめ)さんはあんな風に扱われたら許さねえよ。あの子はもっと……上品だ。橘子(きつこ)は男勝りだし」


「そういう意味じゃない。私と恋雨(こさめ)は、君と橘子(きつこ)のような関係だ。あの子の前で黙り込んでオドオドしてたら、正体がバレるぞ。そして君は(恥ずかしさで)死ぬ」


侍大(じお)は反論せず、ただうなだれる。


「覚えておけ、君は今『私』なんだ。普段なら私たちは日々の出来事や旅の話をする。

|恋雨は甘いものと雨が好きで、役に立つことが好きだ。

わざと間違ったことを言って、あの子に訂正させるのもいい。心底あの子はそれが好きなんだ」


侍大(じお)はまだ不安げで自信なさそうだ。


「わ……分かんねえよ、兄貴。俺には無理だ……」


士武(じん)侍大(じお)の顔を両手で包み、真っ直ぐに目を見つめた。


「君ならできる! 滝から飛び降り、妖怪たちを倒した勇気があるだろう? 君は私より勇敢なんだろう? なら証明してみせてくれ。この双子の臆病者が誰なのか」


侍大(じお)は視線を逸らすが、心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。


「わ…わかったよ。やってみる。でも…もし無理だったら、元に戻す。頼む」


「約束する!」


────


兄弟が駕籠から出ると、一行は昼食を取っていた。


女中たちが双子と雷士(らいと)に給仕する中、恋雨(こさめ)は料理の手伝いをしている。


駕籠担ぎたちも食事後の休息中だった。


その時、仮面の侍が二人に近づいてきた。侍大(じお)士武(じん)に耳打ちする。


「おい、バカ兄貴。あれ誰だ? 恋雨(こさめ)さんの忍び仲間か?」


「ああ、一面(いちめん)模宏(のりひろ)殿のこと? いや、あれは侍だ。父上の直臣だ」


「直臣?」


「父上と早光(はやみつ)家に仕える侍のことだ。足軽とは違う、正式な身分の持ち主だ。

偉大な侍には皆、祈跡(きせき)先生や恋雨(こさめ)炎嶽(えんかく)様、雷士(らいと)の師匠である裏道(うらみち)殿のような直臣がつくものなんだ」


「俺のことを知りたければ、直接尋ねればよいのではないですか、侍大(じお)殿?」


侍大(じお)がぎょっとする。模宏は二人の囁きを聞き逃さなかったのだ。幸い、二人は手で口を覆っていたため、正体はバレずに済んだ。士武(じん)が即座に「侍大(じお)」の振りを再開する。


「あ、すみません、のり…模宏(のりひろ)…さん。その…祈跡(きせき)先生が説明してくれた時、ちょっと寝ちゃってたみたいで…」


侍大(じお)士武(じん)を睨みつける。


『このバカ!!! みんなの前で言うなって!!そんなこと言ったら俺が怠け者みたいじゃないか! 俺のフリして馬鹿にしやがって!』


「いえ、全て私の不徳の致すところです、模宏(のりひろ)殿。この愚兄が弟に貴殿のことを説明せず、まことに申し訳ありません。私は何と無能で、兄として恥ずかしい存在でしょう…!この無礼、切腹でお詫びすべきでしょう」


今度は士武(じん)侍大(じお)に向かって目を剥く。


『こいつ!!!私はそんな話し方しない!私のフリして茶化してやがる!』


「あら、兄上、本当に説明してくれなかったんですね。悲しいなぁ、俺、傷ついちゃいましたよ。この硝子のような心が傷つきました。これ以上貶められたら泣いちゃいますよ」


「すまないな、弟よ。この無能で臆病者の兄さんは、口を開けば必ず駄言ばかり。生きてるだけで早光(はやみつ)家の恥だ」


「そんなことないです。俺の方が恥ですよ。『一寸法師』すら満足に読めないんですから」


「何だって!? もう一度言ってみろ!!」


「聞こえた通りだ!!」


駕籠担ぎや女中たちは呆れ顔だ。


『自己否定でケンカ始めるって何!?』


双子は互いに飛びかかり、衆人環視の中で取っ組み合いを始める。女中たちは呆れて顔を手で覆う。雷士(らいと)はそっと距離を取り、「知らない人です」という表情で恥ずかしがる。


「スケベ! 腰抜け! 甘えん坊!」


「泣き虫! 赤ん坊! ツンデレ!」


突然、模宏(のりひろ)が刀を抜き、双子の間に投げつけた。


しかし刀が顔に届く前に、模宏(のりひろ)は瞬く間に双子の背後に回り、箸で刀の先端をピタリと止めた。


侍大(じお)は衝撃で固まり、士武(じん)も驚きながらも何とか平静を保とうとする。 模宏(のりひろ)は穏やかに語りかける。仮面の下で笑っているような印象だ。


士武(じん)様、侍大(じお)様。

大師堂(だいしどう)様と早光(はやみつ)様から、お二人のことは全て聞いております。

大師堂(だいしどう)様が周辺の偵察に出られた今、私がお二人の監督を任されております。

そしてお父上の名において申し上げます――この模宏(のりひろ)の面前で、兄弟喧嘩は許さん」


***


数メートル離れた場所では、祈跡(きせき)が斥候と話していた。彼らは進行方向とは逆の足跡に気づき、見つめ合う。


「では大師堂(だいしどう)様、これは?」


「二つの可能性がある。単独の野盗か、あるいは――この足跡は偽物だ。生々しいから、本物なら犯人は近くに潜んでいる。だが偽装なら、わざと経路変更させておびき寄せる罠だろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もし作品を気に入っていただけましたら、ぜひ以下の方法で応援していただけると嬉しいです:

  • ★評価をつける
  • ★ブックマークに登録する
  • ★感想やリアクションを残す

どれかひとつでも大きな励みになります!(>人<;)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ