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双子の剣  作者: LÉO LIMA


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21/30

第二十一幕:鏡に映る姿は、君ではなく兄かもしれない

翌朝――


罰の試練から帰還した兄弟の翌日。朝日が昇る頃には、勝侍(かつじ)はすでに朝食を終えようとしていた。


その時、雷士(らいと)が部屋に入ってくる。


「おはようございます、父上」


「おはよう、雷士(らいと)


雷士(らいと)は席につき、静かに食べ始める。しばらくして、彼は口を開いた。


「父上……昨日、ついに雷光斬(らいこうざん)を使えるようになりました。疾歩(しっぽう)も、瞬間の(まなこ)も覚えました。あとは……もっと力強く、速く技を出せるようになるだけです」


「それは見事だ、雷士(らいと)。瞬間の眼は雷鳴(らいめい)瞬光刃(しゅんこうは)(りゅう)の中でも最も習得が難しい部分だ。常人の身体能力を超えた感覚を必要とするからな。十歳でそれを会得したお前は、すでに私と肩を並べるほどだ」


雷士(らいと)は嬉しそうに微笑むが、すぐに表情を引き締めた。


「今は体の力にこだわる必要はない。お前はまだ若い。これから筋肉や骨格も発達していく。今のうちに瞬間の眼を完全に自分のものにするのだ。成長したその時、きっとお前はまったく新しい次元に到達するだろう」


「はい、父上……でも……実は……裏道(うらみち)先生にも、どうやったら強くなれるか相談しました。それで色んな鍛錬をさせられて……本当に強くなれるんでしょうか?僕、士武(じん)兄様や侍大(じお)兄様より、たった二歳しか違わないのに、あの二人のほうが筋肉も大きくて……」


「ならば、裏道(うらみち)殿の教えを信じて励み続けるのだ、雷士(らいと)。侍は生まれながらではなく、日々の鍛錬で鍛え上げられる。今日のお前は、昨日のお前よりも強い。それが大切なことだ」


「……はい、父上」


──その後、雷士(らいと)は屋敷の外庭へ出て、一人で修行をしていた。


藁縄を幹に巻きつけた木に向かって、木刀で連続して打ち込んでいる。汗だくで、息も荒く、上半身は裸のままだ。


『ちくしょっ……まだ四十九回しかできてないのに、もうバテバテだ……百回って、裏道(うらみち)先生が言ってたのに……明日には武士学園に戻るのに、こんな状態じゃダメだ……』


──その頃、侍大(じお)は屋敷内をふらふらと歩いていた。


『チッ、罰の試練で一日外にいたせいで、また屋敷の構造を忘れちまった……全然覚えられねえな、まだ』


外庭を通りかかると、雷士(らいと)が必死に修行している姿が目に入った。


そして昨日、橘子(きつこ)に言われた言葉が頭をよぎる。


【ジンと気が合わないなら、ライトと仲良くしてみなよ。あんた、きっと彼のこと気に入ると思うよ】


『……橘子(きつこ)のやつ、俺のことよくわかってんな。あいつが気に入った子なら、もしかしたら士武(じん)よりも相性いいかもな。でも……』


脳裏に浮かぶのは、屋敷に来た初日、雷士(らいと)にした脅しと嫌がらせ。


『……俺があいつと話したの、あの時だけだよな。橘子(きつこ)は、それを知らなかったのか……今さら普通に話すの、ちょっと気まずいな……』


その時、雷士(らいと)が限界で倒れ込む。


しばらく躊躇した後、侍大(じお)は意を決して近づく。顔を逸らしながら、あくまで「たまたま通りかかった風」を装って話しかけた。


「おい、チビ。お前、そのやり方じゃ腕がすぐに疲れるぞ。叩くんじゃなくて、体全体を使え。腰を使って、体をひねるんだ。じゃねえと、無駄に疲れるだけで、全然強くならねえぞ」


雷士(らいと)は驚いて侍大(じお)を見上げた。初めて話しかけられた時は、恐怖そのものだった侍大(じお)から、いきなり「助言」が来たのだ。


しかも、侍大(じお)は赤くなりながら目線をそらしており、明らかに直視を避けていた――


「ありがとう、あに……侍大(じお)


その一言だけで、侍大じおの顔は真っ赤に染まった。


「兄」だとか「兄貴」だとか、そんな風に呼ばれたことがなかった彼は、もうそれだけで舞い上がってしまった。


勢いよく雷士(らいと)を立たせると、そのまま実演に移る。


「よく見とけ!こうやって体をひねるんだ。腰と脚の力を使って、腕にその力を流し込むように振る。つまり体全体で腕を助けてるってわけ。こう、な!」


雷士(らいと)は、顔を真っ赤にして動きを教える侍大(じお)の姿を見て、つい小さく吹き出してしまった。それに気づいた侍大(じお)はすぐさま防御姿勢に入る。


「な、な、な、なんで笑ってんだよ、おい!」


「いや、別に。でも……なんでそんなに照れてるの?」


その直球の質問が、侍大(じお)の心臓にクリティカルヒットを放った。感情の急所を突かれた彼は、もう言い訳もできない。


「べ、べ、別に照れてねーし!バカかお前!?侍が照れるかよ!!照れたら切腹だぞ、切腹!!」


「でも……顔が真っ赤ですよ?」


「だまれええええええええっ!!!」


侍大(じお)はその場にしゃがみこみ、顔を両手で隠してしまった。完全に無防備な姿。


雷士(らいと)は混乱してしまう。


『……これ、士武(じん)兄さん?でも……なんでこんな話し方してるの?もし侍大(じお)なら……なんでこんな風に?なんか、まるで士武(じん)兄さんみたい……』


「……あの、兄さん……あなたは侍大(じお)?それとも士武(じん)……?」


侍大(じお)はその言葉を聞いて、心の中でひらめいた。今のは、自分の恥ずかしさから逃れるための絶好のチャンスだった。このままでは恥ずかしさで死んでしまう。


「……ああ、私だよ、士武(じん)だ。まったく、あんなバカと間違えるなんてな、お前どうかしてんじゃねぇの?」


侍大(じお)は立ち上がり、まだ頬が赤いまま、なんとか「士武(じん)らしく」振る舞おうとした。


「ご、ごめんね、士武(じん)兄さん。だって、二人ともそっくりなんだもん。でも……なんで話し方が侍大(じお)っぽいの?」


侍大(じお)は焦る。口調の違いがバレそうだった。


「そ、それはな……あいつと一日中、森で一緒にいたから……ちょっと喋り方がうつったんだよ、あはは……!」


「うーん……でも、話し方だけじゃなくて、態度もなんだか違うような……」


「そ、それはだな……あいつと一緒にいるのが、あまりにも気疲れしでさ……。ほら、お前も一度あいつに脅されたろ?あいつのこと、うざいと思わないか?どうせお前だって、あんなの家から追い出すべきだって……バカで、ろくでなしで、どうせ侍になれねぇようなやつだって思ってんだろ?」


──気づかぬうちに、侍大(じお)の本音がこぼれていた。それは、彼自身が「周囲からそう見られている」と思い込んでいた、心の叫びでもあった。


「うん、あいつには脅された。でも……その時の兄さんの目は、怒ってるようには見えなかった。僕も、あいつのことを恨んでなんかいないよ。侍大(じお)がどんな過去を持ってるかは知らない。でも、彼は僕の兄だ。だから、悪く思ったりなんてしないよ」


──侍大(じお)の心が、止まった。涙がこみ上げそうになるのを、必死に堪える。


「……で、でも……その……侍大(じお)のこと、悪く思わないって……どうして……?」


侍大(じお)は、乱暴で怒りっぽいけど……女中さんたちにはとっても優しいし、大師堂(だいしどう)殿のこともすごく慕ってる。だから、きっと悪い人じゃない。きっと、赤ん坊の頃に捨てられたことが、ずっと心の傷になってるんだと思う。僕には想像もつかないよ、どれだけ辛かったか……」


侍大(じお)の表情が柔らかくなる。それでも、感情を見せまいと必死で「士武(じん)」を演じ続けるが――彼の心はもう、とっくに泣いていた。


「……そうだね。侍大(じお)は……悪い人じゃない。ただ……誤解されてて、孤独で……さびしがり屋なんだと思う」


「えっ?侍大(じお)って、さびしがり屋なの?」


侍大(じお)は、顔を真っ赤に染めた。自分でうっかり、本音を漏らしてしまったことに気づいたが、もう止められなかった。


「そ、そう。なんていうか……一緒に森をさまよってるうちに、気づいたんだ。あいつ……いや、侍大(じお)は、自分じゃ気づいてないかもしれないけど……誰かに愛されたくて、優しくされたくて……たぶん、ぎゅって……誰かに抱きしめてほしいんじゃないかな、って……思って……」


雷士(らいと)は少し疑いの目を向けて、黙って侍大(じお)を見る。侍大(じお)は完全に視線を逸らし、明らかに動揺していた。


「本当に、兄さん?侍大(じお)って、あんなに怒りっぽくて怖いのに……いきなり抱きしめたら、怒って殴られそうだよ」


「そ、それは……いや……うーん……かも?いや、でも……もし試したいなら、だな……誰も見てない時のほうが……たぶん、警戒が解けると思う……たぶん……」


「そっか……そうかもね。で、兄さんは何してるの?今の時間、訓練中じゃないの?」


「えっ……あ、うん……その……えっと……お前のことが気になってさ、弟として可愛いから。ちゃんと修行してるか見に来たんだ。私を目標に頑張ってるかなーって思ってさ」


雷士(らいと)は急に赤面する。が、今度は別の理由で疑い始めていた。


『兄さん……森から帰ってきてから、なんか変わったな……前は優しくしてくれても、僕が距離を取ったら、それ以上は来なかった。でも……あの森で侍大(じお)と一緒に過ごして、何かが変わったのかな……』


「うん、兄さん。僕、裏道(うらみち)先生の教え通りに修行してるよ」


裏道(うらみち)先生……?」


「うん、忘れたの?裏道(うらみち)亜虎(あとら)先生。お父さんのもう一人の弟子で、雷鳴(らいめい)瞬光刃(しゅんこうは)(りゅう)の守護者だよ。僕はあの人と訓練してるんだ」


「あーっ!あー、思い出した!最近、罰の試練で頭がちょっと回ってなくてさ、ははは!」


「先生には毎朝百回の打ち込みをやらされてる。準備運動としてね。でも……あんまり効果出てない気がする」


「それは、お前が腕だけでやってるからだって言ったろ?私が正しいやり方教えてやるよ。そしたらすぐに強くなるから!」


「ほんとに?」


「ホントホント!まずは、そのモコモコした服、脱げ。動きやすくして、汗もちゃんと流さないと」


侍大(じお)雷士(らいと)を手伝い、上衣を脱がせる。彼の体は細く、まるで女の子のようだった。雷士(らいと)は自分の非力な体を見られることに少し恥ずかしそうにする。


「……僕、やっぱりヒョロヒョロだよね……」


侍大(じお)雷士(らいと)の頭にぽんと手を乗せた。


「そうだな、ヒョロヒョロだ。でも、それが何だ?祈跡(きせき)先生が言ってたぜ。侍の本当の強さは、内面にある魂だってな。わた……つまり、侍大(じお)はよ……見た目はチンピラみてぇだけど、心はちゃんと侍なんだ。見た目で判断しちゃダメってこと。むしろ、見た目で相手を油断させて、それを武器にすんのさ。お前もそうすりゃいい」


雷士(らいと)は恥ずかしそうにしながらも、その言葉に心を打たれたように微笑む。


「……そんなふうに考えたこと、なかったよ……」


「だろ?でもな、力をつけたきゃ、ちゃんと鍛錬しねぇとな」


侍大(じお)雷士(らいと)の手を取り、構えを調整しながら、姿勢や力の入れ方を細かく教えていく。


しばらくして、庭に一人の侍が近づいてくると、雷士(らいと)の態度が急変した。


士武(じん)兄……いえ、士武(じん)さん。ご指導ありがとうございました。ですが、そろそろ……退いていただけますか」


「えっ?なんで?」


裏道(うらみち)先生が到着されたようですので」


侍大(じお)はその変化に戸惑った。さっきまであんなに楽しそうにしていた雷士(らいと)が、急に冷たく、よそよそしくなったのだ。


やがて現れたその男は、侍姿に半長髪の茶色の髪をなびかせ、どこか皮肉めいた笑みを浮かべていた。


士武(じん)殿……。恐縮ですが、これより雷士(らいと)様との訓練が始まりますゆえ、ご退出いただけますかな。……余計な気の散る要素は、できるだけ排除しておきたいのです」


張り詰めた空気を感じ取った侍大(じお)は、何も言わず、静かにその場を離れる。雷士(らいと)との会話を邪魔せず、声を荒げることもせずにその場を去ったのは、士武(じん)のふりを保つためだった。


屋敷の外れに出たところで、侍大(じお)は立ち止まり、壁の陰に身を潜める。そして、耳を澄まして二人の会話を聞こうとした。


雷士(らいと)様。……望巳(のぞみ)様からのご命令は、もうお忘れですか?ジンには近づかないようにと。彼はあなたの『敵』なのですよ。あの盗人のような子と同様、悪影響となる存在です」


「……はい、裏道(うらみち)先生。申し訳ありません、今回だけは……。母上には言わないでください。お願いです」


「ふむ……よろしいでしょう。ですがその代償として、本日の鍛錬は倍の量をやっていただきます」


──壁の裏から、侍大(じお)はすっとその場を離れた。


『……つまり、あの女が……雷士(らいと)士武(じん)を近づけないようにしてるのか』


その瞬間、昨日の橘子(きつこ)の言葉が頭をよぎった。


【でもさ、ジオ。あんたの親父の女……あの女には絶対に気を許しちゃダメよ。あいつは……危険だから】


『……橘子(きつこ)の言うとおりかもしれねぇな』

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