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双子の剣  作者: LÉO LIMA


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19/30

第十九幕:栄光と別れの朝

森を抜け、双子たちはようやく黄昇(こうしょう)の城下町の門にたどり着いた。


門前の見張り小屋には、万純(ますみ)がもうひとりの年上の足軽と共に立っていた。士武(じん)侍大(じお)の姿を見つけると、万純が嬉しそうに手を振る。


「おおっ、士武(じん)様、侍大(じお)様! お帰りなさい!どうでした? ちゃんとやり遂げたんですよね?」


侍大(じお)が得意げに、三つの徽章を掲げる。顔には自信満々のニヤケ顔、まるで大きな「へ」の字のような笑みを浮かべていた。


一方、士武(じん)は明らかに疲れ切っており、空腹のせいかほとんど無反応だった。


「当たり前だろ? ほら見ろよ。将来の早光(はやみつ)家の後継が、こんな簡単な試練で失敗するわけねーだろ?」


「いやー、さすがです!ね、朔賭(さくと)さん!俺の勝ちですよ!」


「……勝ち?」


もうひとりの足軽、朔賭(さくと)がゆっくりと前に出てきた。彼は体格がよく、筋肉質な腕と角張った顔に、立派な口ひげを蓄えていた。


「おいおい、何が『勝ち』だ。お前、二人が昨日中に戻るって賭けたんじゃなかったか?」


「えーっ、それでもまだマシでしょ?朔賭(さくと)さんは最終日ギリギリに戻るって言ってたんだから。だったら、俺の方が近かった分、半分くらい勝ちでよくないっすか?」


「なんだその定めは!? 最初にそんなこと決めてなかったぞ!俺たち二人とも外れたんだから、引き分けでいいだろ!」


「へぇ〜、一日で戻れるって思ってくれてたのか?」


「当然だろ? お前らは早光(はやみつ)様のご子息だ。協力すりゃ、あんな訓練なんて朝飯前だと思ってたぜ」


その言葉に、侍大(じお)の目がキラキラと輝き、顔が自然と大きなニッコリ笑顔に変わった。ちょっと照れくさそうにしている。


それを横目で見ていた士武(じん)は、無表情のまま弟の反応に内心で呆れていた。


「まあ、言わせてもらえば……万純(ますみ)さんには事前に試練の詳細は伝えてなかったわけですし、実はそのうちのひとつは夜をまたぐ必要があったんです。だから、昨日中に戻るのはそもそも無理だったんですよ」


「でもね、ちょうど今の時間って昨日出発した時刻とほぼ同じですから、二十四時間以内に戻ったってことで、万純(ますみ)さんが賭けに勝ったってことでいいんじゃないですか?」


「ほら見ろ〜!士武(じん)様もそう言ってるぞ?さすがにご本人の前で否定はできないでしょ〜?」


朔賭(さくと)は渋々、懐から小銭を取り出して万純に渡した。


「ちっ……。ほらよ、五文な。……で、侍大(じお)様、徽章を確認させていただきます」


侍大(じお)はまだニヤニヤしながら徽章を手渡す。一方で、士武(じん)はその浮かれ顔に冷たい視線を送っていた。


「……うん、確かに。祈跡(きせき)様から聞いていた説明通りですね。では、おふたりとも、おかえりなさいませ」


――――


黄昇(こうしょう)に再び入ると、双子は籠に乗って屋敷へ戻った。


そして、彼らを出迎えたのは――盛大な朝食であった。


侍大(じお)は普段通りのラフな姿勢で食べ始める。


士武(じん)はまだ疲れが残っているのか、ゆっくりと箸を動かしていた。


やがて、大師堂(だいしどう)祈跡(きせき)が部屋に入ってきた。


それを見た侍大(じお)は、すっと姿勢を正し、急に行儀よくなって箸を口に運ぶ。


「ふむ、思し召し以上に良き成果を得たようで。さて、両君は……和解されたかな?」


祈跡(きせき)の問いに対し、侍大(じお)は言葉に詰まり、そっと士武(じん)の方をちらりと見る。


だが、士武(じん)はほとんど夢遊病者のようにぼんやりと朝食を口に運んでおり、祈跡(きせき)の言葉にも気づいていないようだった。


「ええと、先生……少なくとも、もう……あいつを殺そうとは思わなくなりました。……これで、十分でしょうか?」


祈跡(きせき)は目を細めてうなずき、士武(じん)に視線を向ける。


士武(じん)殿。貴殿の見解も聞かせていただけますか?」


士武(じん)はその言葉でようやく目を覚ましたように、ぼそりと返事をする。視線はまだ下がったままで、疲労が色濃く残っている。


祈跡(きせき)先生が授けてくださった三つの徽章――その中のひとつは『忍耐』でした。先生が教えてくださった通り、物事にはしかるべき時機というものがあります」


「だから、侍大(じお)君がすぐに私を好きになったり、敬意を持つようになるなんて……そんなふうに期待するのは、まだ早すぎると思います」


「でも……試練を通じて、彼が私を仲間として受け入れてくれたのなら、今はそれだけで十分です」


士武(じん)は再びゆっくりと汁をすする。侍大(じお)は「君」と呼ばれたことに軽く頬を染めるが、それよりも兄が自分のことを気遣ってくれたと気づき、静かにその思いを受け取った。


「……はい、祈跡(きせき)先生。俺は、兄上に勇気ってものを教えてやって、兄上は俺に信頼ってもんを教えてくれました」


「別に仲良しじゃなくても……兄上として力を合わせることはできると思います。俺……これからは、もっと侍らしく振る舞うつもりです」


祈跡(きせき)は目を細め、深く頷いた。


士武(じん)殿、侍大(じお)殿……正直、私はもっと苦戦するかと思っておりました。貴殿らの不和と協調不足が障壁になると危惧しておりましたが――見事に、その不安を払拭してくれました」


「貴殿らはまさしく、早光(はやみつ)家の血を継ぐ者。誇りに思います。勝侍(かつじ)殿にもすぐに報告いたしましょう。きっと、あの方も喜ばれることでしょう」


侍大(じお)はその言葉に目を潤ませ、あわてて涙をこらえようと顔をそむける。士武(じん)は静かに食事を続けたまま、弟には何も言わなかった。


「さて――今日はゆっくりと休むがよい。何しろ、間もなく侍大(じお)殿の武士学園での初日が始まりますゆえ。この試練もまた、立派な修練であったのですからな」


祈跡(きせき)が席を立ち、ふたりに一礼して部屋を出ようとする――だが、ふと足を止め、後ろを振り返る。


「……そういえば、侍大(じお)殿。貴殿のご友人、橘子(きつこ)についてですが……ひとつ、向き合うべき問題があるようですな」


侍大(じお)は顔色を失い、慌てて立ち上がる。


「……え? き、橘子(きつこ)に何が?」


「ふむ、それは直接本人から聞くとよいでしょう。ただ――この屋敷の奉公人としては、少々不適切な振る舞いをされておるようです」


「は、はぁ……?」


────


食事を終えると、侍大(じお)はすぐに使用人の部屋へ向かった。


座敷に着くと、正座した橘子(きつこ)がしょんぼりと頭を垂れていた。


橘子(きつこ)、大丈夫か!? 何かあったのか?」


「……あっ、ジオ! う、うん……それが、その……」


年長の女中・千代が横から口を挟む。


「若様。この娘は、奉公人としてまったく使いものになりません。一日で飯を焦がし、魚も台無しにし、食膳をひっくり返し、挙句の果てに、ふんどしまで裂いてしまう始末です」


侍大(じお)は呆れた顔で橘子(きつこ)を見るが、彼女は気まずそうに視線を逸らしていた。


「……ちょっと、ふたりきりで話してもいいか?」


侍大(じお)橘子(きつこ)の腕を取り、そっと部屋を離れる。


ふたりが廊下を通り過ぎるその姿を、廊下の奥から、雷士(らいと)がじっと見つめていた。


やがて、ふたりは部屋に入り、侍大(じお)は静かに戸を閉めた。


橘子(きつこ)……」


「なによ? あたし、料理なんてやったことないし、家事も全部初めてなんだから!」


「でも……わざと失敗したんじゃないのか?」


「はぁ? ジオ、あたしのこと信じてないの?」


侍大(じお)が真剣な眼差しで橘子(きつこ)を見つめると、彼女はふてくされた顔でため息をつく。


「……ったく。あたしはキツネなんだよ?人間の生活様式に馴染めるわけないじゃん。それに、変化が解けたらすぐバレるし、また変わるには少し時間かかるの」


「もし本当にお前の家の使用人として働く気があったとしても、すぐバテちゃって、いつか誰かの前で元の姿に戻っちゃうよ」


侍大(じお)はしょんぼりと床に座り込み、目を伏せる。


「……じゃあ、これからどうするつもりなんだよ」


「いつも通りよ。森で暮らして、気が向いたら会いにくる。あたし、いつも一緒にいなきゃいけないわけ?」


侍大(じお)は小さな声で、そっぽを向いたまま呟く。


「……最初からずっと一緒にいてくれたら……俺、一人であんなに長いこと……生きなくてよかったのに」


橘子(きつこ)は一瞬目を見開き、そしてそっと彼の膝の上に座り、両腕を彼の首に回してじっと見つめる。


「……ごめんね、ジオ。でも、妖怪の世界にも色々事情があるの。信じてほしいけど……あたしだって、あんたと一緒に裏町で暮らしたかったよ。一応、妖怪の中ではあたし、ちょっとは大事な立場にいるんだからさ」


「……わかった。でもさ、もっと頻繁に会いに来てくれるって、約束してくれる?」


「はいはい、わかったわよ、泣き虫ジオ」


ふたりは見つめ合って微笑み合い、額をそっと合わせる――


その瞬間、扉が勢いよく開く。


侍大(じお)、風呂のお湯がもう――……」


士武(じん)が入ってきて、ふたりの姿を見た瞬間に真っ赤になり、鼻血を噴き出して戸を慌てて閉める。


「ご、ごめん! 邪魔するつもりはなかったから!!」


侍大(じお)橘子(きつこ)は、その場に固まったままぽかんとしばらく見つめ合い、そして何事もなかったように立ち上がった。


「……で、兄とは仲直りできたの?」


「……まあ、なんとなく」


侍大(じお)は顔を赤らめ、そっぽを向いたまま口ごもる。


「少なくとも……思ってたより悪いやつじゃないってわかったよ……」


橘子(きつこ)はクスッと悪戯っぽく笑う。


「でもさ、あいつは相変わらずスケベじゃん。絶対ふたりきりにはなんないでね、ぜったい!」


「ふーん……ジオにはもう、あたしはいらないってことか」


「え? な、なに言ってんだよ! いるに決まってるだろ!」


「でもさ、今のジオにはサムライのパパもいるし、いい兄弟がふたりもいるじゃん」


「ふたり?」


「え? ライトのこと、もう忘れたの?」


侍大(じお)はしばらく考え、ポンと手を打つ。


「…………ああ、あの小奇麗なガキか。あの女の息子か………てか、ほとんど出番なかったから忘れてたわ」


「……ジオ、あんたってほんとバカね」


橘子(きつこ)はそっと侍大(じお)の耳元に近づき、ひそひそ声で囁いた。


「でもさ、ジオ。あんたの親父の女……あの女には絶対に気を許しちゃダメよ。あいつは……危険だから」


侍大(じお)は戸惑った表情を浮かべる。橘子(きつこ)が誰かに対してこんなに真剣な顔を見せるのは初めてだった。


彼女は障子の方へ向かい、背を向けたまま言った。


「ジンと気が合わないなら、ライトと仲良くしてみなよ。あんた、きっと彼のこと気に入ると思うよ」


「……次、会えるのはいつ?」


「すぐだよ。あんたが油断した頃に、ひょっこりね」


――――


そう言って橘子(きつこ)は屋敷の門へと歩いていく。


門の前では雷士(らいと)が待っていた。手には小さな箱を持っている。


「はい、橘子(きつこ)ちゃん。僕、おにぎりを作っておいたから。道中に食べてね」


「ありがと、ライトくん♡」


ふたりは見つめ合い、クスクスと笑い合う。


「じゃ、ふたりだけの秘密は……ちゃんと内緒にしとこ?」


「もちろん。あんたの親父に知られたら、あたしが狩られちゃうもん」


「それに……今度は士武(じん)兄さんと侍大(じお)兄さんも誘ってみようよ。四人なら最強の組み手になれると思う」


「……まあね。もしジオにバレたら、今度はあいつがあたしを殺しに来るわ」


橘子(きつこ)はにやっと笑いながら手を振り、門を後にする。雷士(らいと)も微笑みながら、静かに手を振り返した。

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