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双子の剣  作者: LÉO LIMA
10/30

第十幕:橘子(きつこ)と侍大(じお)の秘密

勝侍(かつじ)が屋敷に戻ると、最古参の使用人・千代が出迎える。


「お帰りなさいませ、早光(はやみつ)様」


勝侍(かつじ)は疲れたような心配げな表情で、何も答えない。


大師堂(だいしどう)様は少し前に出られ、ご子息様方には各自の修業をお命じになりました」


突然、小夜が叫びながら走ってくる。


「千代さん!早く来て!侍大(じお)様が士武(じん)様を殺そうとしてます!!」


玄関に勝侍(かつじ)がいるのを見て小夜は凍りつき、後悔の表情を浮かべる。千代は顔を手で覆い、勝侍(かつじ)は険しい表情になる。


「何...だと?」


三人が駆けつけると、壁に追い詰められた士武(じん)、頭上に刀を振りかざした侍大(じお)、そして侍大(じお)を引き止めようとする橘子(きつこ)の姿があった。


「ジオ、やめなさい!あんたの兄でしょ!それにただの冗談だったんだから、大げさにしないで!」


「この卑劣漢め!魂まで消し飛ばしてやる!!」


「うわあああああああ!!!」


勝侍(かつじ)が雷のような声で怒鳴る。


侍大(じお)!!!即刻やめるがよい!!!」


侍大(じお)は凍りつき、刀を落とす。状況を理解した彼は恐怖に駆られる。生まれて初めて恐怖を感じた橘子(きつこ)は、父親に叱られる子供のように正座する。


士武(じん)は床に崩れ落ち、安堵の息をつく。


「昨日も話したはずだ。侍大(じお)、これについて何か言うことはないか?」


侍大(じお)は微動だにせず、まばたきすらできない。父親を見る勇気もなく、恐怖に凍りついている。勝侍(かつじ)から「二度と士武(じん)を殴るな」と言われていたことを思い出す。頭の中が騒ぎ始める。


『親父様を...がっかりさせた。士武(じん)を超えるべきだったのに...また不良みたいな振る舞いを...親父様は...俺を見捨てる。追い出すに違いない。全部...台無しにした』


士武(じん)はまだ震えが収まらないが、侍大(じお)の虚ろな視線に気づく。弟が完全に動揺しているのがわかる。士武(じん)は唾を飲み込み、座り直して父親に控えめに話す。


「父上、全て私の非です。私が...侍大(じお)の幼なじみに無礼を働き、彼はそれを庇っただけです。どうか今回はお許しください」


侍大(じお)は信じられない様子で士武(じん)を見つめる。


『何...何してるんだ?なぜ?なぜあいつが罪を被る?また...俺より上だって態度か?だが...意味がわからん。今なら簡単に俺を追い出せるのに。それとも親父に厳罰を科させたいのか?なぜ...?』


勝侍(かつじ)橘子(きつこ)を一瞥し、じっと見つめてから再び侍大(じお)に問いかける。


侍大(じお)、説明せよ!なぜ平民の娘を屋敷に入れた?なぜ曽祖父である我が家始祖の刀を兄弟に向けた?身分の低い女のために実の兄を殺す気だったのか?士武(じん)に全ての罪を負わせるのか?侍としての誇りはどこへ消えた!」


侍大(じお)は喉を鳴らし、冷や汗をかきながら拳を固く握りしめる。どうするべきか思考が巡る。


『いや!士武(じん)の助けなど受けるものか!俺は...今までの人生で何度も死にかけ、誰の助けも借りずに生き延びてきた!お前の助けなど要らん!士武(じん)に助けられるくらいなら...今すぐ死んだ方がましだ!』


侍大(じお)は跪き、父に向かって深く頭を下げ、静かで穏やかな声で語り始める。


「父上、誠に申し訳ございません。全ては私の不始末でございます。幼なじみの橘子(きつこ)を屋敷に入れ、勝手気ままに振る舞わせてしまいました。士武(じん)が...私の気に食わぬ行為をしたことは許せませんが、この過ちを三度繰り返すことはありません。悔い改めの証として、父上のお決めになるどんなお仕置きも受け入れます」


勝侍(かつじ)は微動だにせず、息子たちの態度に揺らぎを見せない。


「承知した。祈跡(きせき)殿と相談の上、お前たち二人への処罰を任せよう。侍大(じお)、わしの忍耐を試すのはこれが最後だ。長年お前の生存を願ったように、士武(じん)が生きて早光(はやみつ)一族を導くこともまた願っている」


「わしは二人の息子のためなら軍勢とすら戦う覚悟だ。故に、兄弟に刃を向ける行為は二度と許さぬ」


侍大(じお)勝侍(かつじ)の言葉を聞き、怒りと悔しさの表情を浮かべるが、まだ頭を下げたまま冷静さを保つ。


「かしこまりました!」


「そしてこの娘については――」


勝侍(かつじ)が続けようとした時、侍大(じお)が頭を上げて遮る。


「で...でも父上。橘子(きつこ)を屋敷の使用人として置いていただけませんでしょうか?彼女は...私が今までで唯一の友でした。共に多くの苦難を乗り越えてきました。決してご迷惑はおかけしません。許していただけるなら、私への罰を二倍...いえ、三倍にしていただいても構いません!どうか...どうかお願い申し上げます!」


侍大(じお)は再び頭を深く下げ、勝侍(かつじ)に嘆願する。もう片方の手で橘子(きつこ)の頭を押し、同じように頭を下げさせる。


「わかった。置いてやろう」


部屋の全員が勝侍(かつじ)の許可に驚愕するが、橘子(きつこ)だけは平然としている。千代が反論しようとする。


「ですが...旦那様。素性の知れぬ平民の娘をいきなり屋敷の者にするなど、ご家名にかかわります。そして望巳(のぞみ)様が...」


望巳(のぞみ)についてはわしが直接話す。ただし橘子(きつこ)は屋敷の規律に従うこと。さもなくば即刻この決定を撤回する。侍大(じお)、お前は短期間で二度もわしの期待を裏切った。彼女の失敗には一切容赦しない。わかったか?」


「はい、父上!」


侍大(じお)橘子(きつこ)を肘でつつき、返事を促す。


「あ...はい、お父様」


橘子(きつこ)が自由に出入りできるのは台所、中庭、使用人部屋、庭のみ。他の場所へは直接の用事がある時のみ。千代が監督し、仕事を割り振る。異論はないか?」


「かしこまりました、早光(はやみつ)様」


「はい、父上」


「では千代、橘子(きつこ)を連れて行け。居室を見せ、適切な着物を支度し、家の仕事を教えよ。士武(じん)は修行に戻り、祈跡(きせき)殿には稽古後に来るよう伝えろ。侍大(じお)はここに残れ。まだ話がある」


一同が部屋を去り、扉が閉められる。侍大(じお)勝侍(かつじ)が何を言おうとしているのか不安げだ。


勝侍(かつじ)侍大(じお)の正面に座り、深く息を吐いてから、より思いやりのある穏やかな口調で話し始める。


「その橘子(きつこ)という娘は...お前の...恋人のような存在か?」


侍大(じお)は混乱した表情で顔を上げる。


「いいえ、父上。ただの友達です。誓います」


勝侍(かつじ)侍大(じお)の言葉を完全には信じていないようだが、二人きりになったことで態度を和らげ、息子の肩に手を置く。


「聞け、侍大(じお)。仮に恋仲だとしても構わん。お前は我が子だ」


侍大(じお)はまだ理解できていない様子で、父の真意が掴めない。


「どういう...?」


「お前の母・美神(はるか)も平民だった。農民の娘だ。父上は我々の仲を猛反対した。それでも私は彼女と結婚を貫いた」


「そ...そんなこと知りませんでした。じゃあ母上はお姫様じゃなかったんですか?」


「彼女の高貴さは身分ではなく心にあった。だがそうだ、平民出身だ。だからこそ、お前には寛大でいられる。父上が私と母にしたことを、お前には繰り返さぬ」


「ただし、二人で努力せねばならん。関係を認める代わり、家の規律は守れ。さもなくば庇いきれぬ。わかったか?」


「はい。橘子(きつこ)がここにいられるよう最善を尽くします。でも父上...橘子(きつこ)には...ちょっと問題があって...」


「問題だと?」


侍大(じお)はどうやら言い訳をでっち上げようとしているようだ。明らかにその場の思いつきで、勝侍(かつじ)にはそれがバレている。


「えっと...橘子(きつこ)は...暗闇が怖くて...一人でいるのが苦手なんです。一緒に過ごしたつらい日々のせいで...だから...俺の部屋で...寝させてもらえませんか?それとも...屋敷の外でもいいから個室を...」


勝侍(かつじ)侍大(じお)を見つめ、この説明が論理的でないことを悟る。


「他の使用人たちと同じ部屋で寝かせる。蝋燭を傍に置いてやるのは構わん」


「でも...橘子(きつこ)は...他の人と上手くやれなくて...俺とだけは...」


勝侍(かつじ)侍大(じお)の真意を理解したようだ。


「わかっている、侍大(じお)よ。だが聞け、二人きりで過ごす時間は制限せねばならん。お前に関する悪い噂は極力避けるべきだ。特に...お前の経歴を考えればなおさらだ。お前に苦労をかけたくない」


侍大(じお)勝侍(かつじ)の言葉に苦渋の表情を浮かべる。


「じゃあ...せめて倉庫か、どんなに狭くて不便でも個室で寝かせてください。誰かと同室で寝るだけは...お願いします」


勝侍(かつじ)橘子(きつこ)への侍大(じお)の献身を見て、自分が若き日に美神(はるか)を守ろうとした姿を思い出す。かすかに、ほとんど気づかれないほどの微笑みが浮かぶ。


「わかった、侍大(じお)。そこまで言うなら、裏手の小部屋を使わせよう。『非常時』に限り、お前の部屋で寝ることも許可する。ただし出入りを誰にも見られぬよう気をつけろ。いいな?」


侍大(じお)は半信半疑ながらも嬉しそうに立ち上がる。


「本当ですか!?ありがとう父上!後悔させません!俺...罰も文句言わずに受けます!二度と父上を失望させません!命に誓って!」


「よし、侍大(じお)。お前を信じよう」


立ち上がる前に、勝侍(かつじ)侍大(じお)の肩に手を置き、真剣ながらも助言するような口調で目を見つめて言う。


侍大(じお)、くれぐれも調子に乗るな。『あれ』をするには時というものがある。もし...するとしても...静かに、誰にも気づかれぬようにしろ。わかったか?」


侍大(じお)は完全に困惑し、父の真意が理解できないが、ただ頷く。


「は、はい、父上」


話が終わると、侍大(じお)は自分の部屋へ向かい、橘子(きつこ)と共に扉を閉める。周りに聞かれないよう注意しながら。


「もう大丈夫だ、橘子(きつこ)


突然、橘子(きつこ)は白い煙と共に大爆発する。煙が晴れると、そこには彼女の真の姿が現れた。橘子(きつこ)はキツネの妖怪だった。


美しい赤橙色の毛並み、尖った耳、切れ長の目、自在に動くひげ、そして大きな1本の尾。長い間息を止めていたかのように、安堵のため息をつく。


着ていた着物は変身能力の一部ではなく、そのまま身に着けている。侍大(じお)は心配そうな顔で彼女の頭を撫でる。


「大丈夫か?」


「うん、危なかった」


「よし。父上を説き伏せて、お前専用の小部屋を確保した。そこでなら正体を戻して休める」


侍大(じお)橘子(きつこ)の肩を掴み、今までに見たことないほど真剣な眼差しで見つめる。


「いいか橘子(きつこ)、お前がどれだけ悪戯好きで、強情で、言うことを聞かないかは知ってる。だが頼むから...慎重に行動しろ。ここの侍は、お前より大きくて強い妖怪を狩ることで有名だ。バレたら終わりだ。そして俺は...」


侍大(じお)は涙をこらえながら話す。


「お前を失ったら...俺、どうすればいいのかわからねえ」


橘子(きつこ)も今までに見せたことのない真剣な表情で、侍大(じお)の顔をまねて、今回は本気だと示す。右手を取り、狐の前足で侍大(じお)の小指を絡める。


「約束する、ジオ。バレないように最大限気をつける。キツネは賢いって忘れたの?アタシ、生き延びる術は知ってるわ」


侍大(じお)は嬉しそうに笑い、橘子(きつこ)を強く抱きしめる。橘子(きつこ)はその態度に少し驚いた様子だ。


「ありがとう。それと...黙って出て行ったこと、謝る。お前を守りたかったんだ。狩られるリスクを負わせたくなかった...ごめん」


「ジオ、あなた前と変わったわ。なんか...感情豊かになったみたい」


士武(じん)の部屋では、腕を額に当てて考え込んでいる。


『あの娘がこの屋敷に住むことになるのか。もう二度と...あんなことが起こりませんように。でないと、今度こそ本当に死んでしまう。侍大(じお)の手にかからずとも』


ふと風呂場の光景がよみがえり、士武(じん)は顔を赤らめ、手で顔を覆い、必死に枕に顔を押し付ける。


『神様、どうか私の心を汚したこの病を治してください。再び清らかな心に戻させてください』


雷士(らいと)の部屋では、星空を見上げながら思う。


『いつになったら僕もこの物語で重要な役割を果たせるのだろう?』

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