第84話 一緒に開拓して行こう!
美尊がまだ起きているのを確認した俺は――昨日作り置きしたカレーと、ある物を手に美尊の部屋へと向かう。
女子寮へと入るのは初めてだから緊張したけど……。
「――おにいちゃん。手に持ってる、その黒いシャツは何?」
玄関で、俺が持ってきた黒いTシャツについて美尊に尋ねられる。
俺は自分が計画している事を美尊に話すと――。
「――凄く良いと思う。分かった、私も手伝う」
飾り気のない――開拓者活動と学業以外に使う物が、殆ど見当たらない美尊の部屋に入る。
俺と美尊は、キッチンで一緒に夜食のカレーを温め直して――作業を始めた。
動画を視て、あれこれと談笑しながら作業をして行く。俺の最初の開拓配信動画のアーカイブから、最新となる美尊とのコラボ配信まで。
夜遅くなり、美尊が眠ってからは――自室に戻った。
陽が昇るまで、漏らしがないよう丁寧に作業と確認を行う。
そうして迎えた、俺の配信時間――。
「――皆さん、こんばんは! 大神向琉です、今日は新衣装で配信したいと思います!」
〈1コメぇええええええ〉
〈あたおかぁあああああああ〉
〈お兄様ぁあああああ昨日はお疲れ様ですううううう!〉
〈よっしゃぁあああああああああ! 無双配信か飯開拓か!? もうビール用意したぞぉおおお!〉
〈あれ? あたおかの着てる服、なんか変じゃね?www〉
〈そのコート、まだ早いよ! 露出狂みたいwww〉
まだ新衣装は見せていない。
このロングコートはお披露目するまでに、新衣装を隠す為のものだ。
「このコートは新衣装じゃないです。インナーが新衣装なんですけどね、実は美尊と一緒に制作したんですよ~」
〈美尊ちゃんと!? 羨ましいいいッ!〉
〈兄妹で久しぶりに仲良くやれてるようでよかった。安心したよwww〉
〈距離感だけは間違えないようにな? やだぞ、また叩かれる『あたおか』を見るのw〉
「ええ。お陰様で、美尊とは仲良くやらせてもらっています! こうしてまた、妹と仲良く過ごせるようになったのも、皆さんが認めてくれたお陰ですよ~」
〈俺たちは特に何もしてないw〉
〈兄妹水入らずの関係に外野が水を差そうとしたのがそもそも間違い〉
〈大宮愛が全て悪いから。大神向琉は被害者だし、ワイらも唯一残った家族と引き離すクズじゃない。あいつとは違って〉
相変わらず、姉御に対する批判は多い。
俺が嫌がると分かっているから、自粛したりコメント欄の中で注意してくれている人もいるけど……。
これは、姉御が俺たちの為に身を切ってくれた――成果だ。
俺も余計な暴露をして、水を差す必要はない。
恩返しは――別の形で!
「さぁ――上着を脱いで、じゃあああんッ!」
バッっと、ロングコートを脱いで――元は夜闇のように黒一色だったTシャツを曝け出す。
「スポンサー契約をすると、装備品に名前やロゴを書くと聞きました。――これが俺を支えてくれるスポンサーたちです!」
〈は!?〉
〈ええええええ!?w〉
〈いやいや、1人意味分からん名前がある。それは敵だろ〉
〈東京観光に来た日本語を勘違いしてる人向けに売ってるTシャツみたいでヤバいw〉
「誰がなんと言おうと、俺がこうして配信者を出来ているのは――この人たちのお陰なんですよ!」
着ている黒Tシャツに、白のラメ入り蛍光ペンで大きく書かれた――『大宮愛』、『シャインプロモーション』、『伊縫美尊』、『川鶴舞香』の名前。
その周りに、小さく満天の星々《ほしぼし》のように無数に書かれているのは――俺たちを擁護するコメントをくれた人たちの名前。
美尊には直筆でサインしてもらったし、途中までは作業も手伝ってもらった。
他愛もない雑談をしながら、こういう作業を一緒にやるのも――お金はかからないのに、楽しい。
それはきっと、大切で大好きな人とやる作業だから。
「今日はドローンのカメラ、いつもよりアップでお届けしますよ~!」
自分を支えてくれる人たちの名前が、しっかりとカメラへ映るようにする。
地底深いダンジョンには――星々《ほしぼし》のような灯りも、温もりもない。
心を傷つけられない代わりに、寂寥感に満ちた闇と、孤独があるのみ。
〈お!? 俺のハンドルネームがあるw〉
〈俺のもだ! なんかめちゃ嬉しいなwww〉
〈ああああ私の名前がお兄様の肌にぃいいいいいい!〉
〈ちょっと遠目に見ればプラネタリウムに見えるかも?www〉
地上ならば夜闇が広がっていても――目を凝らせば人々を照らす月に、眩い星々《ほしぼし》がある。
絆という人の温もりで――心が凍らないよう、迷わないよう支え合える。
「それでは――気分を新たに、張り切って開拓していきたいと思います! 先ずは62億を目指して行きますよ~!」
人の世に生きる人々、全員を愛せるかは分からない。
でも――俺のスポンサーたちは、俺を愛してくれている。
少なくとも、その人たちの事なら――俺は愛せる。
愛する人々を笑顔にしたい、幸せにしたい。
そうやってお互いに、笑顔になれる幸せの連鎖を続けて行けば――良い人の世になるはずだ!
俺は背負うスポンサーの人々まで輝かすぐらい眩い笑顔で、良質なエンタメを提供して行こう!
〈ワイらもスポンサーになったからにはスパチャしたい!〉
〈先ずは美尊ちゃんの装備品弁償代の千万だろw〉
〈収益化申請、早う通れw〉
〈マルチバース社、加工じゃないから地底人を認めたげてw〉
〈あたおかぁああああああ! 今日もがんばぇええええええ!〉
「はい! 皆さんの心が希望に満ち晴れやかになるよう、頑張りますね!」
姉御が俺の受け皿として、信じて用意してくれた場所。
それが、シャインプロ。
そして、道路標識を見ていて気が付いてしまったことがある。
「大御神が坐す場所、神社は――英語でシュアイン。シャインプロとめっちゃ似たイントネーションだし、俺の名前とかけちゃって……。全く、姉御は分かりにくいんすよ」
最初から、姉御の愛に気が付ける下地はあった。
分かりにくい愛情過ぎて、時間がかかったけど……。
気が付けて良かった。
帰って来られて、姉御がここでゆっくりしろと用意してくれた場所に来られて良かった。
あとは、ふんぞりかえって驕らずに、皆さんの願いを叶える存在になってみせるぞ!
今日も俺は、俺流のダンジョン開拓配信を視聴者へ届ける。
その先に、最高の笑顔が広がる世の中が築かれると信じて――。
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