第74話 妹の為ならお兄ちゃんは――
風を切って進む中でも、美尊はみるみるボロボロになっていく。
致命傷こそ避けているようだが、美尊の動きは鈍い。
多分、俺と同じ――コメント欄の悪意に負け、精神が戦闘に集中しきれていない。
「――見えた!」
美尊が落ちたであろう崩落現場を目にして、ポケットへとスマホを仕舞う。
最後に見た光景は、片膝を突く美尊に向け、まさに止めの槍を突き出さんと構える――魔素で出来た美尊の姿だった。
「間に合えぇええええええッ!」
迷う事なく、俺はポッカリと空いた崩落現場に飛び込み――。
「――はぁッ!」
ギィンッと、神通力を纏い防御力を高めた俺の背に――槍の穂先が当たる感触がした。
パラパラと砂塵が舞い散る中、俺の腕に抱かれるように――。
「――お兄ちゃん? なんで……」
「良かった、間に合った……」
「なんで、なんで追いかけて来たの!? 私、お兄ちゃんを突き放す言葉を――」
「――妹がピンチなら、どれだけ嫌われようとも、悪意に晒されようとも助ける。それが兄貴だよ?」
瞳を潤ませる美尊の頭を撫でる。
美尊は瞬きする事もなく――一杯になった瞳から、幾筋もの雫が溢れ頬を伝り落ちていく。
今頃コメント欄はまた――美尊と俺が仲良くするのを良く思わないヤツらが、どうせ文句を言ってるんだろう。
〈お兄様待ってたああああああああ〉
〈美尊ちゃん助かってる!? 大神向琉が来たのか!?〉
〈1度離れた癖になんで今更……〉
〈兄妹の絆、燃えるううううう!〉
〈格好良いいいいいいい! 妹の為に身体張ってるの、ヤバい!〉
〈あたおか、頑張れぇえええええええええええ! クソみたいなアンチコメに負けるな!〉
〈あたおかは自分を貫け! ワイは応援してるぞぉおおおおおおおおおお!〉
〈美尊ちゃんを置いて逃げた癖に今更ヒーロー気取ってんのキンモ。美尊ちゃん早く逃げて!〉
〈¥50,000
向琉。そいつだけはマズい。我ら強者の天敵、お前とは最悪の相性だ。妹君の事は残念だが、お前だけでも今すぐ逃げてくれ〉
〈このタイミングで最高額スパチャ!? 誰だ、まさか大宮愛か?〉
〈最高額投げて美尊ちゃんの事を諦めろとかクソスパチャふざけんなボケ!〉
色々な人が入り混じる――それがネットだとは分かっている。
今は――コメント欄なんて見てやらない。
いや……どうでも良い。
俺と最悪の相性だから逃げろとか、アドバイスも飛んで来てたみたいだけど――そんな事は出来ない。
今、俺がするべき事は1つ。
美尊を――大切な妹を、何があろうとどんな事をしようと守る、それだけだ!
武術とは――大切な誰かを守る為に、何かを打ち壊す術だ!
血反吐を吐いて鍛えて来た俺の武術――天心無影流を、ここで発揮せずして何時発揮する!?
「お兄ちゃん、あぶ――」
――バシッと、横薙ぎに振るわれた槍を掴む。
これは美尊の槍を象った、唯の模倣品に過ぎない。
だったら――。
「――槍を素手で折った!? そんな、模倣でも……私の特注の槍と同じレベルで打ち合ってたのに!?」
俺は手に掴んでいた槍を握り潰し、ドッペルゲンガーの方へと向き直る。
魔素の靄を発する美尊は、折れた槍を手に戸惑っているようだ。
「……参ったなぁ。美尊の姿だと、殴れない」
このドッペルゲンガーは――俺の天敵なのかもしれない。
一足飛びに目の前に近付くと、ドッペルゲンガーは折れた槍で叩き付けてくる。
だが――俺の身体にダメージはない。
「そんな攻撃じゃあ、俺の纏う神通力は破れないな」
正直、この纏いをしていたからストレンジバットの攻撃もダメージは無かっただろう。
それが油断や慢心に繋がったのは否定しないけど……。
少なくとも、目の前の裏ボス――美尊を模倣したドッペルゲンガーなら、俺の纏いを破る方法はないだろう。
それは当然の話だ。
美尊が如何にCランク開拓者とは言っても……戦闘の年期が違う。
俺は10年間、ダンジョンに潜って戦い続けた――だけではない。
物心が付くと同時に、真の化け物共が集う道場の門戸を叩いた。
自ら進んで血と汗の毎日を望み、己を磨き続けた上での――Sランクダンジョン生活。
そんな積み重ねが、そうそう破られてたまるか。
「凄い……。お兄ちゃんはやっぱり、凄いね」
「うん、俺――結構強いみたいだ」
「結構なんてレベルじゃない。私にとっては、憧れのヒーロー。いつか私も、この大きな背中を守れるように――」
俺の背中へ向け、手を伸ばしている美尊を横目に見ていると――その目が大きく見開かれた。
見詰める先は俺ではなく、更に前。
俺も美尊の見ている方向へ視線を向けると――。
「――複数回変化とか、マジですか……」
美尊を象っていた靄は霧散し、壁一面に広がる鏡に映った1人の人物へと収束していく。
180センチメートルを超える身長。
プラチナ色の髪に、瞳。
ラフな私服に、左腰に佩いた刀。
それは、間違いなく――。
「――お兄ちゃん……」
俺の姿だった――。
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