第60話 陽の当たる道を征く!
「失敗ペナルティも発表して、益々盛り上がって来ましたね! それでは、俺のイメージソング披露をしながらの戦闘、始めますよ~!」
片耳にブルートゥース接続したイヤホンを挿し込み、準備を整える。
よし、しっかりと音声は聞こえる。
自動読み上げ機能もバッチリだ。
これで――オリジナルイメージソングも、俺の耳に聞こえるはずだ!
「多くの皆さんが俺の為に作り上げてくれた、俺の公式イメージソング『陽の当たる道を征く』まで……3、2、1――アクトッ!」
川鶴さんに習っていた配信リンク式腕時計で、ドローンに取り込んだ音楽を再生する操作をして――俺はモンスターの群れへと突っ込む。
同時に――戦国時代を自由奔放に生きた人がモチーフのパチンコが大当たりしたような、格好良い音楽がイヤホンから鼓膜を揺らす。
この曲はトランスミュージックとダンスポップ要素が色濃く入った曲。
それを幾重もの男性ボーカロイド音声を合唱のように重ねて――格好良く仕上げたと聞いた。
今頃は視聴者も同じように、この格好良い曲……そして俺が戦う漢を目指して、精一杯に魂を吹き込んだセリフを耳にしているのだろう。
俺はそれを――最大限に引き立たせる!
〈あぁああああああ始まっちゃったぁあああああ!〉
〈まだ生きている! まだ生きてる!〉
〈曲が臨場感を引き立ててるけど、普通にこえぇえええ!〉
〈うぉおおおおおお! パチンコが連チャンしてるような昂揚感がくるぅうううううう!〉
〈1曲多分、5分ないぐらいだろ? つまり300秒って事は、1体に付き2秒!?〉
〈ボスまでいるんだから単純計算は無理〉
〈ヤバい、怖いけど色んな意味で目が離せないィイイイイイイイイイイ!〉
モンスターの群れに飛び込み、舞踊るように俺はモンスターを駆逐して行く。
時代物を意識する格好良い音楽、精一杯格好付けたセリフを耳に戦いながら――俺は考える。
アイドルとは偶像だ。
人々を熱気の渦に巻き込む台風の目、天災のような引力、人知が及ばぬ魅力を放ち、感情を揺り動かす者。
光り輝くアイドルの王道は征けず、地下深きダンジョンの闇で、邪道を直走るしか生きる術がなかった俺だから成せる――全力の代替手段。
音楽に合わせた舞踊、或いはダンスに混ぜ込む事で生き延びた武術は山ほどある。
カポエイラやシラットなど、基礎の動きは学んでいる。
モンスターとのダンスは、死ぬ程に経験してきた。
これなら歌が下手な俺でも――人心を加熱させられる!
俺でも、人を興奮の渦に巻き込む引力を発揮できる!
エンタメはストレスを浄化するもの。
俺は、視てくれる人がストレスを忘れる発奮材料にならなければいけない!
全ての知識、経験を総動員して――戦闘時の音楽に、ダンスという華を添えるんだ。
目的地は――単なる暴力の披露じゃない。
人々を魅了し、高揚させるアイドルとしてのダンスにまで昇華してみせる!
音にハメ、音でリズムを取り、死と隣り合わせというスリルに、予想を超えるアクロバットな動きで視線を釘づけにするんだ。
武術という相手を破壊する術を――未だ見ぬ芸術にまで昇華し、視聴者に届けよう。
――最高にスリリングで、魅力的な躍動を!
踊れ、俺の身体、視聴者の鼓動。
昂れ、俺の血潮、視聴者の熱気。
さあ――共に盛り上がろう!
これが俺の考えた、俺流のアイドル活動だ!
〈お兄様の蝶のように舞、蜂のように刺す攻撃、ボイス、格好良い音楽全てが最高ぉおおお!〉
〈やっぱりお前は、あたおかだぁああああああああ!〉
〈こんなアイドルがあってたまるかぁああああああ!www〉
〈そぉれそれそれそぉれそおおおおおおおおおおおおおwww〉
〈開拓者アイドルってこんなヤバいの!?〉
〈この地底人が特別にあたおかなんだよぉおおおおおお〉
〈あたおか視点慣れたと思ってたけど、やべぇ。死霊の大軍が怖すぎてちびる〉
〈すげぇえええええええええええええええ〉
「――残り、半分! ヨッシャア、気合いを入れて征くぞッ!」
モンスターの群れは次々と霧散していく。
魔石へと変える為、必要以上のダメージは避けなければいけない。
それだけでなく、避ける動作にすら攻撃を入れなければいけない。
これは――最高の修行だ!
音楽の力もあって――最高にアガる!
〈残り50体切った!〉
〈曲は2番終わる! 後もうちょい!?〉
〈行けるか!? このあたおかチャレンジ行けちゃうのか!?〉
〈ボスが2体まだ居るうううううううう!〉
〈お兄様負けないでぇえええええええええええええ!〉
〈ヤバいヤバいタイムリミット近付いて来たぁああああああああ!〉
そう、タイムリミットが刻一刻と近付いている!
もう、後30秒もすればイメージソングは――終わる。
そんな中、ボスを残して残り20体。
ワイトキングの王笏を一撃で粉砕し損ねれば――更にモンスター追加だ。
「くっ……」
ダメなのか?
認めて欲しいと、自ら課した挑戦さえ……俺は達成出来ないのか?
姉御の事、美尊の事を――真摯に皆へ認めて欲しいと示すんだろ!?
こういうアイドルも最高だって、皆を歓喜させるんだろ!?
弱音を吐くな、俺……。
「残り、ボス2体!」
タイムリミットまでは後5秒!
時が遅く感じる空間の中で――その音は響いて来た。
〈伊縫美尊:諦めないで〉
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