第52話 過労解放!?
「えっと……おめでとうございます。難しい事は分からないですけど……。もう、夜遅い俺の配信には付き合わずに済むって話、ですよね?」
「はい?」
今まで夜遅くから朝早くまで働いているのが異常だったんだ。
唯でさえ俺は、午前2時過ぎまで配信するような提案をしてしまったばかりだ。
「折角、緊張せず話せるぐらい仲良くなったのに……別の担当さんがつくんですね。……残念ですけど、川鶴さんの労働環境が改善されるなら――俺も一緒に喜びますよ! おめでとうございます!」
そもそも昨夜姉御に川鶴さんの労働環境をなんとかしてくださいってメッセージしたのは俺だ。
返事は返ってきてないけど……既読マークはついてる。
つまり、全ては俺が原因の話だから……寂しいなんて言う資格は、俺にはないよなぁ。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 大神さんの担当マネージャーは私から変わりませんよ?」
「え? でも……就労環境が改善されたって。俺の配信は夜が遅いから、この時間から働いていたら必然的に残業確定じゃないんですか?」
「それが変わったんですよ! マネージャーを変えず社長業務と並行して、自由な余暇時間も確保出来る労働形態に!」
「そ、そんな労働形態があるんですか?」
「はい! フレックスタイム制と言いまして……。1日の中で8時間働けば、時間に囚われず出勤や退勤の時間を個人の判断で変えられるんです! これは適切な労働時間の判断を選べると、オーナーが私の能力を信じてくれた結果だと思います!」
フレックスタイム制……。
耳にした事あるけど、俺が地上に居た頃にはポピュラーじゃなかった気がする。
一般的なのは、朝出勤して定時まで働くのが普通だったと思う。俺の周りにいた人の家庭事情しか知らないけど。
正直、利点も良く分からないけど……。今日ずっとハイテンションの川鶴さんを見ると、川鶴さんには嬉しい契約に変わったんだろうな~と分かる。
「良かった……ですね?」
ちょっと様子を覗うように相づちを打つと――。
「――はい! 社長として必要な業務は朝に! そしてマネジメントをしている方々の送迎業務などは、夕方から夜に出来ます! 太陽が昇っている時間に余暇時間を確保出来るんですよ!? これで銀行や郵便局、役所に行く為に数ヶ月前から有給取得日を計画する必要がなくなる! 友達とだってランチに行けます! あぁ……最高です!」
ハイテンションの川鶴さんは、最終的には拝むような姿勢になり瞳を潤ませている。
なんだろうね……。
高額債務者で自由に使えるお金も未だ得られない俺に言われるのは、川鶴さん側も不本意かもしれないけど……。
川鶴さん――不憫過ぎない?
「あ、あの……。それで俺の家に来たのは、荷物を届ける為だけですか? 別に郵便でも良かったのに――」
「――あ。す、すいません。つい興奮してしまい、本題を忘れてました!」
川鶴さんはハッと表情を引き締め直すと、鞄からタブレット端末を取りだした。
「えっと……。良かった、まだリモート会議までは時間がありますね」
「リモート会議、ですか?」
聞いた事はある。
タブレットやスマホ、パソコンのビデオ通話機能を使って、遠く離れている場所でも顔を見ながら行う会議だったはずだ。
「はい。昨夜の配信で、大神さんの配信チャンネル登録者数が10万人を超えましたよね?」
「ありがたいことに、そのようですね」
全く実感はない。
数字だけが増えて行って、直に10万人の顔を見た訳でもないからかな?
「チャンネルを作ってからまだ1週間も経ってない快挙なんですが……。感動が薄そうですね? 凄い事なんですよ?……開拓者ランクEランク昇格だって、史上最短記録を大幅更新ですからね?」
「らしいですね~。でも俺、ダンライバー配信だとか開拓者について知ってから、本当に日が浅いですからね。基準が良く分からないんですよ」
「成る程……。それはそうですよね。お辛い時間をずっと過ごしていたのに、失礼しました」
深々と頭を下げてくる川鶴さんに恐縮してしまう。
被災してから10年間、ダンジョンという牢獄に閉じ込められていた人間に、不謹慎な発言をしたと川鶴さんは思ったのかもしれないけど……。
俺はそれ程――気にしていない。
結局、愛する妹にも再会できたし、過去に拘るつもりはない。
産んでくれた親が亡くなってたと知ったのも地上へ上がってからだし、育ての親であるジジイが亡くなったのなんて災害当日に知っていた。……ずっとダンジョンに設えたジジイの墓の傍で暮らしていたんだから。
当事者だからこそ言える事だけど……むしろ助かった今となっては、笑い話に変えて欲しい。
毎回、気を遣われ暗い顔をされる方が嫌だ。
「いえ、他の被災者の前ではアレですけど……。俺だけの時には、笑い話に昇華してくれた方が嬉しいですよ? 毎回暗い顔をされるより、明るい笑顔を見た方が嬉しいですから! 生き残ったから、この笑顔を視られたんだって、喜びになりますよ!」
笑みを浮かべながら、頭を下げる川鶴さんの肩を掴んで頭を上げてもらうと――。
「――その笑顔、ズルいです……」
目と目が合った瞬間、頬を赤らめながら顔を逸らされた。
もしかして――これか!?
鈍感系と言われるのは、これなのか!?
そうだよね。
相手が弱っている時に――微笑みながらのボディタッチ!
これは良くない、改めよう!
「そ、それで――俺のチャンネル登録者数が10万人を突破したのが、どうかしたんですか!?」
先ほどから逸れまくっている話を戻す。
川鶴さんも表情をビジネススマイルへと戻した。
「シャインプロではですね、キリが良い登録者数突破記念には――何かしらの感謝イベントや曲の発表が恒例なんです。大神さんの10万人突破記念感謝には、公式イメージソングのリリースをする事になっています」
サラッと、俺が戦慄するような事を言いだした――。
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