第51話 難しい話は止め……え、担当変更!?
「こんな都内1等地でセキュリティバッチリのマンションを、何年も住まずに借りっぱなしだったとか、マジですか? そんなの、合計で1千万円ぐらいは赤字を垂れ流し続けてたんじゃ……」
「そうですねぇ……。ハウスクリーニングや契約更新もあるので、それぐらいは行きますね。……オーナーは出資者なので、シャインプロから給与は受け取れません。オーナーが受け取るのは役員報酬という形なのですが、利益が減れば役員報酬も減ります。それにオーナーは、税理士に提案された妥当な役員報酬の――半分も受け取っていません。全額出資者なのに、自分が受け取る報酬を同規模会社の役員報酬平均の半額以下に設定しているんです」
「えぇ……。良く分からないですけど……あれじゃないですか? その、節税とか?」
んごご……。
難しい話は苦手なんだよなぁ……。
「法人税を節税する意図も、考えにくいですね……。黒字になりそうなら、所属のライバーや職員の利益になるよう投資しろ。それでも余る分を内部留保に回せという方針なんですよ。こんなのオーナーは、初期の出資額の回収も出来ない。ハッキリ言って慈善事業ですよ。長らくこんな経営方針を採る理由が分からなかったんですけど……。大神さんが現れた瞬間、一気に眠らせていた物が動き出して、私は納得しましたよ」
マジですか……。
確かに、地上に上がって1日目で所属に職場も決まって、快適な住居や食べ物まで用意されてるのは凄いなぁ~とは思ったけど……。
「大神さんが背負ったとされる借金に関しても、会社側の予算は1円も動いていません。配信機材のリース料金は肩代わりしていますけど。……当然ですが――62億円をパッと出す体力なんて、シャインプロにはないです。オーナーが開拓者として築いた莫大な資産を切り売りしたか……。或いは、本当に借金なんてなかったのか」
ん~どうなんでしょうねぇ……。
考えた所で仕方がない予測ですけど、イメージしやすいのは、これだな。
「姉御なら、前代未聞でどう扱ったものか分からない俺について、お偉いさん方がモメたり腹黒い思惑で皮算用をしている中――『こいつには、これだけの借金がある。誰がなんと言おうと、ある! 政治判断や裁判なんて必要ない。私が身元引き受け人として代わりに全額払って、全ての面倒と責任を背負う。だから貴様らは、一切の口出しをするな!』とか啖呵きりながら、半ギレで札束を放り投げそうですけど」
「ふふっ。……戦力や研究対象として、大神さんの処遇を会議してる老獪な狸たちに、もしもそんな啖呵を切ったなら――気持ち良いでしょうね? 唯でさえオーナーは、国に2人だけのAランク開拓者――日本の最高戦力の片翼ですから。誰にとっても、本気で怒らせたくはない相手でしょう。……は、話が逸れました。兎に角、会社側が負担してるのはリース料金だけです。大神さんが契約された――その、理不尽な利益分配に関しては、誠に申し訳なく思いますが……」
他の人は折半なのに、俺だけ1割しか受け取れない不平等契約ね。
視聴者さんのコメントにもあったけど、凄い単純に考えれば――お金の使い方を知らない子供に大金を持たせたくないって親心なんだろうけど……。
「あの、あれじゃないですか? 俺は全然詳しくないので分かりませんが、会社を大きくして売った利益を得る、みたいな? 俺が多く利益を取られれば、会社はその分利益が出るでしょうし!」
それならば――姉御が俺に出資していた理由も分かりやすい。
個人の善意の感情で片付けるには、なんかもう……金額と規模がデカ過ぎる!
難しい話と予想ばっかりで、頭が沸騰しそうだよぉ……。
「M &Aや上場の事ですか? 私も当初は、そう考えていましたけど……。キャピタルゲインを得ることは、つまり会社の経営権を売るという事です。所属ライバーの待遇に他者が口出し出来るようにするのと同義なのですが……。あのオーナーが、そんな事をするように見えます?」
アガガ……。また難しい話ぃいいい!
難しい話は置いといて、姉御から人に口出しされるのをヨシとするかぁ〜。
それは、絶対にそうは見えないなぁ〜……。
金だけ持ってるやつに、とやかく言われるのを嫌いそう。
そもそもウチの道場に居た人たちは――皆、我が強くて誰かと共同の作業は苦手そうだった。
姉御なんか、特に負けん気が強かったからなぁ~。
ジジイにボロクソにされる度、殺意の籠った瞳で立ち上がってたしなぁ……。
ウチの道場に居た門下生は全員――金より武力向上が第一!
衣食住?
服はフリーマーケットで10円で売られるような服を着られれば良い!
食材は大神家が所有してる山々とか自然から食えるもんを探せ!
屋根があるなんて贅沢! 洞窟でも十分過ぎるぐらい!
収入?
大神家が代々所有する月極駐車場とかアパートの不動産収入と、地域への武道指導を皆で分け合えば良いだろう!
銭闘力より戦闘力!
武術、筋肉ウマウマ!
そんな大雑把というか、文明が滅びても生き残りそうな人間ばっかりだったからなぁ……。
この10年でスーツをバシッと着こなして偉い地位を掴むに至った姉御の変化には、ちょっとついていけなくて、真意が何処にあるのか分かんないや。
分かんないから――考えるのをやめよう!
難しい事は知らんのよ!
カタカナ、横文字とか難しいから使わないでください!
とりあえず――俺は目の前の事を頑張ってれば良いでしょう!
俺は、ジジイの仇を討って……。
後は皆と、仲良く平和に笑える暮らしが出来るように頑張れれば、それで良いのです!
なんか――ジジイみたいに育ったなぁ、俺……。
まるで野生児やん……。
兎に角、話を変えよう!
分かりもしない姉御の腹の内と難しい話をしていても仕方がない!
「あ、そう言えば! 川鶴さん、浮かれてたと仰ってましたけど……何か良い事でもあったんですか!?」
俺は呪われそうな絵をソッと下に向け段ボール箱へと戻し、ゆったり座っている川鶴さんへと尋ねる。
「そうなんですよ! 今朝、お忙しい中でオーナーから――新規の労働契約書をいただいたんです! 見て下さい、これ! 就労環境が大きく改善されたんですよ!」
鞄からクリアファイルに入った書類を取り出し――川鶴さんは満面の笑みを浮かべた。
え、川鶴さん……。過労から解放されるの?
つまり――もう夜枠の俺に、付き合ってくれないの!?
俺の担当マネージャーが、変わるって事か!?
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