第44話 相談枠編(4)養子入り
「――あ、白星は今日、童貞剣やら処女剣って言われて拗ねてましてね? お休みです!」
暗い雰囲気が続いていたから、ちょっと笑いになるようおちゃらけて答えた。
「向琉、貴様ぁあああッ! 視聴者、妾の事を思い出さずとも良い!」
うおっ!?
今まで只管に気配を消してたのに、左腰でガタガタと暴れて怒り始めた!
自分の話題になったから、黙っていられなくなったのかな……。
〈おお、童貞剣! 忘れてた!w〉
〈バカ、この綺麗なお姉様系の声を聞けば分かるだろ? 処女剣だってのw〉
〈深夜枠だから安心して童貞だの処女だの言ってるお前等! どうせ切り抜きで有名になるぞw〉
〈抜けない剣は、唯の木刀だ〉
〈刃が抜けない刀、不殺の刀だよwww〉
〈草生え散らかすわw〉
「み、皆さん! 実際、この白星を鞘から完璧に抜けないのは、俺の天心無影流が未熟な所為ですから! どうか白星をイジメないであげて下さい!」
「なんで向琉は、妾の保護者みたいになっているのじゃ!?――もう黙る! 妾は今日、もう黙るからなぁあああッ! 絶対に話しかけて来るでないぞッ!?」
〈シリアスブレイカー剣w〉
〈ごめんって! 改めるよ童帝剣www〉
〈それは振り? 振りなの? 押すなよ押すなよ的な?w〉
「振りではない!――さらばじゃッ!」
読み上げ機能で聞こえた声に返事をして――白星は本当に気配を絶った。
まるで唯の剣のように、動く事もなければ声を発する事もない。
嵐のような剣だなぁ……。
白星と一緒にこうしてダンジョンで食事をしていると、思い出す。
つい数日前まで、ダンジョンの中に閉じ込められていても――白星という話し相手が居たから、俺は寂しくても正気を保てたんだよ?
だから、また機嫌が直ったらアホな会話をしような?
なんて心の中で話しかけても、今日はもう返事をする気はないらしい。……意地っ張りで面倒な刀だなぁ。
「皆さん、ごめんなさいね。でも俺の相方ですので……よろしければ、これからも仲良くしてやってくれると嬉しいです。皆さんのコメントのお陰で、俺も白星も配信活動を楽しめてますからね!……ダンジョンで孤独になるのは、悲しいものですから」
10年以上続いた状況と――目の前に浮かぶドローンで世界中の人と繋がってる今。
その2つの違いを思い浮かべ、孤独とは縁遠い事に感謝して頭を下げる。
すると――。
〈どうしてそんなに低姿勢なの? 礼儀正しいのは良いけどさ、卑屈過ぎだろって感じる時もあるんだけど〉
そんな質問が飛んで来た。
「卑屈、ですか……。そう、ですね。俺がこうして礼儀正しく低姿勢なのは……凄く臆病で、人を怖がってるからだと思います」
〈えぇえええ! あの強さで人が怖いの!?w〉
〈俺たちの方が『あたおか』の強さが怖いわwww〉
〈以外に臆病なの? いやいや、そんな人は食料庫のモンスターへ飛び込まないわなw〉
ダダダッと、『驚いた』とか『嘘だろ』と、否定するようなコメントが流れていく。
「嘘じゃないです。臆病なんですよ、俺は。……昨日の開拓配信ですけど、妹に嫌われたようなコメントが来ましてね……。仲直りが出来なかったらどうしようって、今も凄く怯えてます」
〈美尊ちゃんと名字違うし、地底人は養子入りしたんだったな。疎遠になりそう〉
〈大宮愛と同門の道場で、跡継ぎ候補だったんでしょ? その辺の経緯も聞きたい〉
俺が養子入りする経緯かぁ……。
正直――明るい話は殆どないから、エンタメとして微妙なんだけど……。
まぁ深夜のまったり雑談枠だし……深夜テンションで良いのかな?
これもメリハリってヤツか。昨日の配信ではハイテンションだったし、しんみりも有り……か。
「……元々、母の兄が事故で急逝した時点で、母の産む子――俺か美尊のどちらかが跡取りとして養子入りするのは決定的だったんですよ」
そうして俺は――思い出すように、ゆっくり噛み締めながら過去を語っていく。
もう、いなくなってしまった人。当時の記憶。当時の感情を――間違わないよう、1つ1つ大切に言葉を紡ぐ――。
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