第43話 相談枠編(3)姉御の想い
俺は野放しにして良い存在じゃない。
そんなコメントを見つめ、改めて考えるけど――本当にその通りだと思う。
あくまで姉御から聞いた話と自分の体感だけど……。
思想も分からないで一般社会に放り込むには、俺は危険すぎる。
そう客観的に判断されても仕方ないでしょうね……。
「俺がさっき言った事態は、個人的に有り得たと思います。……だって高ランクの開拓者って、国の戦力に数えられる危険な存在なんでしょ? Sランクダンジョンにず~っと暮らしてた実力未知数で危険な存在と捉えられて当然です。誰かが排除を試みるなり、研究モルモットにするなり……。戦力を欲する国家とか団体が取り込もうとしてくる可能性なんて、メチャックチャ考えられると思いませんか?」
〈Sランクとかいう人類未踏破ダンジョンで生き抜いたとかいう異常な地底人か。確かにこえぇわ。味方で良かった〉
〈今のあたおかを見てると危険とは思わないけど、全く知らなかったらメッチャ怖い経歴よな。いきなり自由に社会生活してますとか聞いたら、怖くて街歩けないし寝れなかっただろうな〉
〈地上に出たってニュースが報道されてからあたおかが配信会見するまで物騒な憶測が乱立してたけど、あながち考えすぎでもないよな〉
〈結局、大宮愛に取り込まれてるけどねw〉
まぁ姉御に取り込まれたという見方もあるけど……。
逆に考えれば、姉御が囲い込む事で他の人が迂闊に手を出せなくなったとも捉えられる。
だいたい、人間サイズの斧を持ったミノタウロスを瞬殺出来る奴を『はいどうぞ。これからは自由に生きて下さい』なんて、一般人が暮らす社会にいきなり解き放つのは――客観的に見ると正気の沙汰じゃないと思う。
開拓者じゃない一般の人は、自分の身をどう守れば良いのかと不安で仕方ないでしょ。
もし仮に、仮の話だけど――。
「――仮に自由にして良いぞって放り出されても……俺は途方に暮れてました。行く宛もなければ、現代知識もない。直ぐにお金を稼ぐ術も無ければ、一般的なお金の使い方だって分からない。ダンボールの中で雨に振られる捨て犬みたいに、俺は震えるしか出来なかったと思うんですよ。……もしシャインプロで普通の契約をしていたら、俺はたった数時間ダンジョンに潜っただけの初日で――4万円を手に入れてました。世の中、案外お金を稼ぐのなんかチョロいんだなって、勘違い甚だしい学習をしてたんじゃないかな~と……」
〈それは確かに〉
〈金銭感覚ぶっ壊れて人生も壊れるか。金の使い方を知らないと、身を壊すっていうもんんな。ワイはそれでも金欲しいがw〉
「被災した高校1年生の頃から、俺の社会生活力は何1つとして成長していないんです。……多分コメントでも仰っているように、金銭感覚が麻痺して自分を破滅させていたと思いますね~」
〈高校1年生で1日4万の短時間バイトを得たみたいなもんか。確かに自分の子供がそんだけ稼いだら、せめて金銭管理は共同で金の使い方を教え込むわ〉
〈おっきな子供。あたおかはワイと同じランクだな!〉
〈無双開拓者の地底人とニートが同じランクに居るとか思い上がるなよ。上げるのは年齢だけで勘弁しろ〉
〈www〉
「俺、こう見えて結構強いみたいですからねぇ。開拓者として稼げてるし、今後ランクが上がればもっと稼げると思うんですよ。たとえ配信の方が上手くいかなくても……余裕で生きていけちゃうぐらい」
〈まぁそれはそうだろうな。どう考えてもDランクの動きじゃないしw〉
〈っつかDランクのダンジョンで当たり前のように過ごしてるけど本当はFランク開拓者だからな?w〉
〈安心感が凄すぎてFランク開拓者とか忘れてたw ワイまで『あたおか』になってたわw〉
「62億円を返済ってのも――俺が姉御の手元から離れて、現代社会を生き抜ける自立した大人になるのに、それぐらいの額を稼ぐ時間があれば成長するだろう……とか考えてるんじゃないかな? 配信やらせる時にも『人の世に認められろ』と命令してましたから。……あの言葉には、姉御の想いが詰まってると思うんですよね」
半ば確信している。
想えば姉御が借金について強く言及する場は、常に配信の時だった。
2人っきりの時には、軽く脅すぐらいにしか言及していないし……。どう考えても、姉御の戦略じゃないかと思う。
〈えぇ……本当に?w〉
〈トップ開拓者でもやっと稼げる金額だぞ? 希望的観測過ぎね?〉
〈つまり姉御は厳しい愛で、自分が護りながら1人前に育てられるよう今の状況を作ったと言いたいんか? いくらなんでも強引過ぎだろw〉
〈でも確かになぁ。最初は地底人への恐怖とか批判的な声がネットでも多かったけど、すぐに大神向琉は不憫。大宮愛が最悪って流れに変わったよな〉
〈これがもし姉御の戦略なら自分にヘイト集めすぎ。有り得ん。そうだったらいいなぁって都合良く解釈したいんだろ〉
「姉御は恨まれようが憎まれようが……成すべき事を貫いちゃう人なんですよ。人に厳しい分、自分には苛烈な迄に厳しくて……。でも根本にあるのは、自分の大切な人たちへの優しさです。姉御は厳しい愛の塊なんですよ。仰るように、あくまで俺の憶測でしかないんですけど……姉御が悪く言われるのは、自分の借金よりも辛いです。同門の内弟子、一緒に育った家族みたいな人だから」
うん……姉御が悪く言われるのは、辛い。
改めて思うけど――俺はやっぱり、寂しかったんだ。
10年間、白星が居たとは言えダンジョンに1人は心細くて――愛情に飢えていたんだ。
家族で普通に笑って過ごせる日々に、長年焦がれていたんだ。
俺が地上で戻り取り戻したいのは、美尊との日々。
そして――姉御だ。
「――姉御は性格キツいし口の悪さも折り紙付きです。それでも俺にとって姉御は――美尊と同じ、生き残ってくれた家族同然なんですよ」
口がどんなに悪くても――決して見捨てない優しい姉御。
目的の為に手段を選ばない姉御は、正直まだ怖い。昔からずっと、優しいけど怖い姉御。
憎まれ役を買って出て、大切な誰かの為に陰から尽くす――損な役回りを進んでやる姉御。
ジジイの遺言じゃないけど……。俺や姉御は『人の世に生き、人に愛され、愛する存在』にならなければいけない。
俺を人の世で生きられるように守る為に、姉御は憎まれ役を買って出たから――愛されなくなってしまった。
今、世間が俺へ同情的で姉御を悪く言うのは、姉御の思惑通りなんだと思う。
災害から安定し始めた社会に現れた俺と言う不穏分子が、姉御に理不尽な扱いを受けても飼い慣らされてる哀れな被害者だと分かりやすく見せつけて……。火元を姉御にした炎上商法で、俺へ憐憫と言う注目を集める。
姉御がそうやって自己犠牲を厭わずに俺を守ってくれるのは嬉しいけどさ……。
同時に、凄く悲しいんだ。
姉御が俺を大切に思うのと同じでさ……俺だって、姉御が大切なんだから。
うん、やっぱり悲しいよ。
俺が社会的に弱くて、異常だと見られてるから……姉御は憎まれ役を演じなければいけないんだ。
俺はもっと強くなって――人に愛されるアイドルとして、売れなければいけない。
俺が慕う姉御が、俺の為に損な役回りをしなくて済むぐらいに。
美尊や姉御と社会で笑って過ごせる日々を――人の世で生きている皆に認めてもらいたい。
どちらも今は叶えられてない望みだけど……きっと、手にして見せる。
俺が真に欲した日常を――10年振りに掴んでやろう。
〈あたおか、良い奴すぎない?〉
〈う~ん。確かに地底人→被災者&詐欺の被害者でかなり話題にもなったよな。同情的な声で脅威論も薄まったし、配信も興味持って来るヤツ多いはず。広報としても社会的な安心を与える方法としても、人の世に認められて生きるのに優秀な戦略じゃね?〉
〈地底人を世間へ受け入れさせる為に、姉御がカメラの前で分かりやすく金の亡者の悪役を演じてるって事? それなら、あたおかの取り分は1割になってねぇだろ。アイツはちゃんと金の亡者で権力者の役目を放棄してんだよ〉
〈俺はまだ姉御の事は信じられない。あたおかが良いなら別に良いけど〉
〈元々、本人の問題だからな。俺たちが勝手に姉御にキレてただけでw〉
〈姉御の掌の上で転がされてたと考えたら……興奮してきた///〉
〈あ、ガチの変態はNGですw〉
まだ懐疑的だけど、ちょっとは姉御への批判もマシになったかな?
正直、個人的には有るのかも分からない膨大な借金より――血反吐を吐きながら修行に食らい付いてたのに、白星を鞘から抜けなかっただけで修行を打ち切る宣言をされた瞬間が1番のショックだった。
衣食住に良い交遊が確保された中で、姉御にされる理不尽な天引きなんて……その時と比べれば、大したショックと感じないんだよなぁ。
大切な人たちと会話出来る環境があるだけでも、暗闇のダンジョンに暮らしていた時より幸せだし。
天引きされても十分なぐらい、俺が稼げるようになれば良いだけだしね。
打開する方法がある分、良心的だよ。
養子入りして頑張ってたのに、破門同然扱いに落とされる方がよっぽど地獄!
あの時、白星を神棚から取たなければ普通に修練してもらえてたのかなぁ……。
〈そう言えば忘れてたけど、今日はあの抜けない剣は?〉
白星の事を考えていた時に、丁度そんなコメントが流れてきた――。
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