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第35話 溜まった泥は出さないとダムも機能しない

「い、いえ。たりをしてしまいましたね、すいません。……彼女たちは多感たかんな女子校生ですから。色々と思い悩む事も多いんですよ」


「そうなんですか。……でもそれは、川鶴さんもですよね?」


「わ、私も……ですか?」


「はい。今日、最初に川鶴さんの顔を見た時、疲れているのかなと推察すいさつしましたけど……。こうして話をしてると、思い悩んでいるって表現の方が近いかな~と感じます」


「い、いえ……。私は、その……」


「やっぱり、思い悩んでるんですね。もしかして……担当の問題、ですか? 俺も厄介やっかいな相談を持ちかけて、頭を悩ます原因になってる訳ですし……」


「あ、その……。私はマネージャーですから。当然の事をしているだけです!」


「そうですか……。大した事も出来ませんけど、俺にも川鶴さんの悩みを分けてくださいね? 姉御の愚痴ぐちでも、なんでも良いですから。川鶴さんの優しさに俺は救われているので……。頼りっきりじゃなくて、俺もお力になれるよう頑張りたいです」


「――お、大神さん……」


 川鶴さんはメガネの奥で瞳を潤ませ、俺に視線を向けてくる。


 あ……。いくら慣れて来たと言いましても、見つめ合うのはまだハードル高いです。

 面映おもはゆいと言うより、人見知ひとみしりが発動してしまう……。


 俺が目線を斜め下へ逸らすと、川鶴さんはソファから立ち上がった音がした。


「大神さん。ちょっと楽にして待っていてもらえますか?」


「え、はい」


 川鶴さんはカフェスペースからギルド受付へと行き、何ごとかを話している。


 直ぐに戻って来るかと思ったけど、脇にずれて何かを待つように立っている。……どうやら長くなりそうだ。


 時間が惜しい。自分のスマホで他の開拓者の配信アーカイブを視て勉強するか。


 10分程、動画を視ながら思索しさくめぐらせていると――。


「――お待たせしました」


 満面の笑みを浮かべた川鶴さんが、両手でおぼんを支えながら戻って来た。


 お盆の上は――カフェスペースで軽くお茶をする、なんてレベルじゃない。


 もうね、軽食けいしょくやお菓子の山に、アメリカのめちゃデカサイズのジュース入りコップなどが所狭ところせましと並んでますよ。

 これから友達とパーティでもするのかってレベルだ。


 川鶴さんはテーブルにお盆を置くと、向かいのソファーへと腰掛けた。


「あの、川鶴さん。このご飯にお菓子、ジュースの山は一体?」


「2人分の食事と飲み物です。ここは私がおごりますから、私の愚痴ぐちも聞いて下さい。……さっき大神さんが言ってくださった言葉、嬉しかったんですから」


 さっきの川鶴さんの力になりたいって言葉かな?

 だとしたら、是非ぜひとも愚痴ぐちを聞かせて欲しい。それでお力になれるな、喜んでだ。……奢ってもらってるのは格好付かないけどさ。


「は、はい、俺で良ければ喜んで! むしろ、ご馳走様ちそうさまです! 折角ですから、うたげの気分で話しましょう! ストレスバイバイです!」


「ふふっ。……本当、こんなパーティーみたいな時間は久しぶりで嬉しいです。それでは、乾杯」


 互いにソッとジュースの入ったコップを当て、乾杯する。


 うわぁ……。俺、こんなの初めてだ。

 災害にう前は修行ばっかりで、友達とパーティなんて無かった。家族パーティーも、物心ものごころが付いた時にはジジイの養子ようしに入っていたから……ちょっと記憶に無い。

 本当にささやかに誕生日祝いをもらったり、おめでとうと言われた覚えはあるけど。……あれ? なんだか目頭が熱くなって来た。

 か、過去にとらわれてても仕方がない! 

 兎に角、腹を割った相談を、楽しく充実した時間にしよう――。


「――若い子の気持ちなんて分かんないですよ!? ナイーブになってるから、何を言った所で結局正解なんて無いんですから!」


「は、はは……。成る程ぉ~」


 俺は――泥濘でいねいのように愚痴を腹の底へみながら働く社会人を舐めていた。


 相談を交わす? 

 いえいえ、今の時間はただ――愚痴を聞く時間ですね。


 ドロドロとした愚痴や苦言、弱音が濁流だくりゅうごとく川鶴さんの口から飛び出して来る。 もうね、話をさえぎもないぐらいに。


 俺は只管ひたすらに、相槌あいづちマシーンにてっしていた。


 奢ってもらっているし、これはこれで川鶴さんという人物を深く知るチャンスだから、良い時間だとは思うけどさ。


「まだ私も若いですけどね!? 若いんですけどね!?……でも女子校生は別の次元なんですよ!」


「べ、別の次元ですか」


 それにしても、おかしいなぁ……。

 アルコールなんて入ってない、唯のジュースのはずなんだけど……。昔、テレビとかで見た酔っ払いその者だ。

 雰囲気で酔っちゃうぐらいストレスが溜まってたんだろうなぁ。


 川鶴さんも開拓者登録をしてくれれば、俺のストレス発散モンスター狩りツアーに連れて行きたい。

 視聴者さん曰く、ジェットコースターや絶叫マシーンのような感じらしいから。きっと叫んでストレスを置き去りにするぐらい喜んでくれるだろう。……よし、いつか実現させよう!


「結局、こっちが何を言っても聞く耳を持たないんです! 言いたい事を言って、黙って聞いてるのが正解! よっぽど追いこまれるまで、マネジメントなんかしない方が良いんです! ときながれは偉大いだい、時間が1番悩みを解決してくれるんですから!」


「流石、沢山の人を支えてる敏腕びんわんマネージャー社長です」


「いえいえ! 私なんて……大神さんみたいにルックスも良くないし、華もない存在ですから。うぅ……。こういう風に、ご飯と飲み物を突きながら黙って愚痴を聞いてくれる大神さんは、率直そっちょくに言って最高です。……今まで所属もスタッフも女性ばかりの職場で、急に現れた男性……大神さんと、どう接して良いのか戸惑っていた自分がアホみたいです」


 その時、流しながら話を聞いていた俺の頭に何かが引っかかった。


 そして、ビシッと――。


「――これだ!」


 まるで電流が走ったように、名案めいあんひらめいた!


 そうだよ、スリルある配信が出来ないなら――無理に作らなくて良いんだよ!


本作をお読みいただきありがとうございます┏○ペコッ


この物語に少しでもご興味を持って頂けたら……どうか!


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また、ブックマークなどもしていただけますと読んで下さる方がいるんだと創作意欲にも繋がります。


どうか、応援とご協力お願いします┏○ペコッ

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