第34話 誰のせいだと……。え?
お金に関わる事は、なんだかんだで重要だ。
ダンジョンの中で生きていくのにはお金が必要なかったけど、地上の人間社会で暮らしていくなら金銭はどうしても避けて通れない問題。
それに収益化も含めてだけど……配信を楽しんでもらう方法に関しても悩んでいる。
今回の企画がスベったのに、真新しいネタが思いつかないのは問題だと思う。
八百長をして盛り上げる様なやり方は心苦しいし、唯モンスターを狩るのではマンネリ化してしまうと思うから。
1人で悩み続けるより、誰かの知恵を借りる。
折角、地上に帰ってこれたんだし、仲良くなれた人なんだから……人との交流や意見交換で、より良いエンタメを視聴者へ提供出来るようにしたい。
「――成る程。私も途中から視ていましたが、確かにアイテムドロップ数が0は異常ですね」
「はい。5周もしたのに……。モンスターも150体は倒したのに……」
「計らずとも、オーナーが指示した状況と近くなっていますね」
「そうなんですよ。姉御はコレを知っていたのかなぁ……。そう言えば、配信の収益化はどうなりました? 昨日は姉御が権力を使って申請するとか言ってましたけど」
「配信の収益化は……間もなくだろうとしか言えず、すみません。オーナーが言うには、やはり運営元のD.connectサイドが合成や不正を疑っているそうで……」
「え」
俺、運営さんに疑われてるの?
なんで、不正なんて全くしてないのに……。
昔から同級生にも、「お前ズルしてんだろ!?」と疑われるケースが多かった。主に運動絡みで。ジジイや姉御、兄弟子たちに鍛えられた成果をズル扱いされていた。
そういう過去もあって常日頃から人に疑われないよう清廉潔白、仁義礼智信を重んじて生きて来たのに……。
ショックだ……。
「い、いえ! 間違いなく不正じゃない事を私たちは知っていますよ!?」
慌てて川鶴さんがフォローしてくれた。
凹んでるのが表情に出てたかな?
気を遣わせちゃったのは申し訳ないけど、己の心に嘘が吐けない素直な顔面なんです。どうか許してください。
「ただFランク開拓者の動きとしては、有り得ないと言いますか……。オーナーは地底人としての経験から当然の動きだと真っ向から対立する主張をしているんですが、その証明が難しく滞っているそうで……。マルチバース日本支部ではなく、米国本社と掛け合っているそうです。本社が納得すれば直ぐに申請は通ると思いますから。どうか今暫し、お待ちください」
あ、有り得ないって……。
そんな事を言われましても、ここに有り得て実在してますがな。
それより、米国で超大企業のお偉いさんが俺の事を協議してるの?
なんか……大事になってない? 不安になるんですが……。
「……昨日の通話でオーナーに思う所もあるかもしれませんが……。オーナーは大神さんを本当に想っていますよ。全ての事に矢面に立ち、憎まれ役を買って出ております。美尊さんとの仲を快く思わない声も、徐々に流れが変わりつつあります。オーナーに多額の借金を背負わされ、た不遇な兄と配信で敢えてアピールする事で、ヘイトはオーナーへ向かい、大神さんへ好意的な声が増えてますから」
そう言われると、そうなのかも。
姉御の優しさは不器用で伝わりにくいし、やり方も手荒で自己犠牲を厭わない質だからなぁ……。
昔っから、姉御にはそうやって助けられて来た。……うん、あまり強く文句も言えないか。
「じ、事情は分かりました……。やっぱり俺の配信っておかしいんですかね?」
「おかしいですね。異常です」
キッパリ断言されてしまった。
俺の純心な心にザックリと刺さるけど、白黒ハッキリ言う性格は嫌いじゃないです。
「うぅ……。す、少しは俺も勉強したんですけど……。他の所属メンバーって、どういう配信をしているんですか?」
「う~ん。それでは、シャインプロの看板ユニット『トワイライト』の配信を参考に視てみましょうか」
川鶴さんはスマホを取り出すと、トワイライトのチャンネル画面を開いてテーブルへ置いた。
「おお! 美尊の所属するユニットですね! どれどれ……」
スマホのディスプレイに流れ出したのは、今日――俺が始める直前に配信したアーカイブ動画のようだ。
時間の都合から再生速度を早め、何も起きていないシーンは飛ばしながら視て行くが――。
「――成る程。スリル満点なピンチ、乗り越える安堵の繰り返しって感じですね」
「そうですね。ダンジョン開拓配信はそれと、未知を発見し開拓するワクワクを売りにしているのが主流です」
確かに、ラミアとの戦闘シーンを中心にハラハラドキドキと安堵の連続だ。
鉱石を掘っている間は何が掘り出されるのか。
モンスターのドロップアイテムはなんなのか、アイテムを拾うのもワクワクだ。
誰も知らない素材なら、ギルドで鑑定結果を聞く迄ずっとワクワク出来る。
これは確かに楽しいし、王道の配信スタイルになるのも理解が出来る。
「それは分かるんですけど……。アイテムは何故かドロップしないし……。前回はピンチを演出しようとして失敗してますからね、俺」
「そこなんですよねぇ……。私もマネージャーとして、どうしたものかと悩んでいます」
苦笑する川鶴さんから視線を切り、俺は再びスマホのディスプレイへと視線を落とす。
そこには片手剣とシールドを見事に操る、赤髪赤目をした小柄な女の子が映っている。武具に振り回されず、身体の使い方も上手いし、指示も的確。
勉強で視聴した動画以外、開拓者パーティの連携は見ていなかった。
この赤髪赤目の子が指揮して戦う姿は基本、素晴らしい動きをしているとは思うんだけど……。
「……なんか『トワイライト』の面々、偶にギスギスしてません? いや、この1番良い動きをしている子――旭深紅さんでしたか? この子を中心に、何処か集中を欠いていると言うか、目の前の事以外に気を取られていると表現するべきか……」
「……誰のせいだと」
「え?」
メガネの奥からジトッと睨まれた。
声は小さかったけど……もしかして、この子の動きが偶に雑になるのは、俺の責任なの?
俺、この子と会った事もないのに?
なんでよぉ……。
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