第27話 side トワイライト(3)
「あそこっ!」
ドローンの光が天井の岩で作った影に――そのハーピーは身を隠していた。
即座に深紅は気が付き、小剣を投じる。
だがハーピーは翼をはためかせ回避した。
この素早さは、広い所でハーピーと対峙する時には厄介だ。
でも深紅は――単独Bランク開拓者。
常に相手の一手先を読んでいる。
ハーピーが避けた先には、壁を駆けてジャンプした深紅が――既にいる。
「やぁあああッ!」
間一髪で致命傷を回避したようだけど、ハーピーは片翼を大きく傷つけられ飛行能力を低下させていた。
その隙を逃す私じゃない。
「――ふっ!」
力一杯に槍を投擲し――ハーピーはその身を槍に貫かれ、空中から落ちてくる。
ドッとダンジョンの床を転がるハーピー。
そして間もなく身体が魔石に変わり霧散し――カランッと槍が床を転がった。
すかさず私は槍を再び握る。
〈うおおおおおおお〉
〈かっけぇええええええええ〉
〈ナイス連携!〉
〈立て続け3匹いいいいいいいいいい!〉
3人で索敵をしたが、どうやら、もうモンスターはいないようだ。
「美尊!」
「美尊ちゃん! すぐに治療するからね!」
安全を確認してから、背中に傷を負った私の元へ深紅と涼風が駆け寄って来る。
ボウッと涼風が傷口に当ててくれた手が温かくなる。
ジクジクと痛んでいた背中が、まるで湯船に浸かっているような心地よさに包まれて行く。
そうして数十秒もすると、背中の痛みはなくなった。
「うん、傷も残さずに治癒が出来たよ。良かった……」
「ありがと。涼風はやっぱり、治癒系の魔法も上手い」
「この瞳と髪色の通り、1番は風魔法だけどね……。治癒の腕も、だいぶ上がってきたよ。サポーターとしてマルチに出来ないとだからね」
自分の薄緑色の瞳と後ろ髪を指差し、涼風は柔らかな笑みを向けた。
のほほんとしていて、癒やされる。ずるいぐらいに可愛いなぁ。
私以外のトワイライトは皆、愛くるしい。薄緑色の髪もインナーカラーみたいで綺麗……。
私は愛くるしさが足りない。
戦闘能力を高めるのは勿論、開拓者を人外の危険な生き物じゃなくて親しみのある存在として広める。頑張らないと……。
お兄ちゃんが人外の行動をした分――私が責任を持って補えるように可愛くならないと!
〈やっぱダンジョン開拓ってこういうスリルだよな〉
〈広い所でハーピーと出くわすのは不運〉
〈仕方ない。当初はラミアがいたんだし〉
〈どの配信観てもハーピーって身を隠すの上手いし頭良いよなぁ〉
〈さすがはBランクダンジョン、手強い〉
〈美尊ちゃん傷を負っても頑張ってたの健気可愛い〉
配信を視聴してくれている人たちも、戦闘が終わり安堵しているみたいだ。
戦闘の分析だったり、各々《おのおの》の感想を書いてくれてる。
私たちを良く見てくれるのは、嬉しい。楽しんでもらえると、もっと嬉しい。
「……ごめん、美尊。ウチが油断してたから」
深紅が悔しそうに表情を歪めつつ、謝ってくる。
さっきラミアを倒した後、無警戒で魔石を拾おうとした時の事だよね。
うん、あれは確かに油断だった。
「気にしないで。……ううん、やっぱり気にして。でも自分の責任だとは思わなくて良いよ。……深紅が集中出来ない原因は、分かってる」
「…………」
私がそう返事をすると、深紅はギリッと拳を握った。
やっぱりだ。……そうだろうなとは思ってたけど、面倒な事になりそう。
その後は気を引き締めて進み、無事に今日の目標であった第2階層を少し探索して戻って来た。
ダンジョン付属ギルドへの階段の前で戦果確認を行い、軽く雑談。そしてミュートにしてから換金。いくらになったかをサプライズ的に報告して終了。
後はそれだけだったんだけど……。
でも雑談をしている時、視聴者さんが――今の深紅に触れては行けない話題へ触れてしまった。
〈ラミア戦はハラハラした。地底人の無双配信とは違ったドキドキだなw〉
〈こういう開拓配信もやっぱり良いな。あっちも面白いけどw〉
そう、お兄ちゃんの名前。
実質的には人名ではないのだけれどね。
もう地底人=お兄ちゃん、大神向琉。
決して視聴者さんは悪意を持ってコメントをした訳ではないと思う。
でもサービス精神の旺盛な深紅は、そのコメントを見て歯を食いしばった。
ライバル意識、抱いちゃってるね……。
ダンライバーとしての人気。――それに多分、未知を戦闘力で切り開く開拓者としても。
でも配信中だからと感情を表に出さないようにする深紅は偉い。後で頭を撫でてあげよう。
その後、換金をして無事に配信を切り終えた後……少し気まずい空気が流れる。
深紅はギルド待合室のソファーに腰掛け、両手の指を握り合わせながら俯いている。横目に映る深紅の赤い瞳は、怒気をはらんで見えた。
多分、お兄ちゃんの異常な強さを目にした事への焦り。そして気を取られて集中を欠いた自分への怒りだろうなぁ。
深紅は責任感が強くて、自分に厳しいから。
そういう負けず嫌いで頑張り屋なのに、周りを気にする所も可愛いと思う。
涼風も深紅の異変には気が付いているみたいだけど、声をかけられずにいるらしい。
私たちの送迎をしてくれる為、待合室で待機していた川鶴さんも、弱った表情で視線を右往左往させている。
ここは直接的な原因であるお兄ちゃんの、最愛の妹である私が声をかけないとかなぁ……。
私は深紅の隣に腰掛け、深紅の頭を撫でながら声をかける。
「深紅……。お兄ちゃんの事を気にしてるよね?」
「……してない」
「嘘吐きはダメ」
私は深紅が口にした嘘をバッサリと切り捨てる。
昔、お兄ちゃんが『絶対にいなくならない』という約束を破って失踪してから、私は嘘が大嫌いになった。
深紅もその事情を知っているからか、顔を振り上げつつも抗議の声を飲み込んでくれたみたい。
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