第25話 side トワイライト（１）
お兄ちゃんの配信が終了した後、私は小さく息を吐いてからリーダである深紅に指でOKとサインを出す。
ダンジョン出入り口の階段下で配信を見ていたけど、お兄ちゃんは埒外と言うか……前代未聞で自由過ぎる開拓者だと思う。
ダンライバーの常識を破壊し過ぎ。
パーティ兼アイドルユニット、トワイライトの面々《めんめん》も皆が表情を引きつらせていたしね。
少し前まで一緒にスマホでお兄ちゃんの配信を視て、ドンドンと不機嫌になっていた深紅は――私たちに目配せして大きく頷くと、左腕の配信リンク腕時計を操作する。
センターに深紅、カメラから向かって右側に私。左側に涼風。
これが女子校生３人のダンライバーアイドルユニット、トワイライトの立ち位置だ。
「皆さん、おはようございます！ トワイライトの旭深紅です」
「同じく伊縫美尊です」
「那須涼風です」
配信が始まると、お決まりの挨拶をする。
プロ意識の高い深紅は先ほどまでの不機嫌さが嘘のように愛想笑いを浮かべている。
炎のように赤い髪、ルビーのように真紅に輝く瞳で視聴者さんとコミュニケーションを取る姿……まさにプロだ。切り替えの意識が私とは違う。
私と違って１４０センチメートル後半の身長で可愛いし、アイドルとしての能力も本当に高い。何ごとにも妥協しない、いつも全力投球の深紅は凄い。
単独でＢランク開拓者に上り詰めただけはある。
学園中等部１年の実習で開拓者活動をスタートして３年。私と涼風はＣランクに壁を感じて燻っているのに……。
深紅のが１年先輩と言っても、たった１年後同じように出来る自信が私にはない。
Ｃランクダンジョンからは、１つランクが上がる毎にモンスターの強さ、知能は――文字通り段違いに高まると言われている。
深紅も含めたパーティじゃなければ、私はＢランクダンジョンで直ぐにモンスターやトラップの餌食になると思う。
開拓者としての戦闘能力だけじゃない。
表情変化に乏しく若干だけど人への警戒心が高い私には、アイドルとしての意識が高い深紅の真似はできない。
やっぱり、うちのリーダに相応しいのは深紅しかいないと再確認させられるよ。
〈おはようございます！〉
〈おはよう～〉
〈待ってたよ！〉
〈おはおは！〉
時刻は既に２０時近いのに、視聴者の皆さんは『おはよう』と挨拶をしてくれる。
これはトワイライトというユニット名から来ている。配信者にはお決まりの挨拶やF.Nなどが設定される場合が多い。
トワイライトの場合だと、『トワイライト＝黄昏時』は、夜前と明け方の両方を意味するらしい。
そこで視聴者の皆さんと考えたのが、配信開始時は『おはよう』。
そして配信終了時の挨拶は『お休みなさい』だ。
F.Nは『鳥っ子』。事務所名のシャインプロモーションと、黄昏時という名前から取ったらしい。なんでも、日が出ている間に口やかましく活動するからだそうだ。
口やかましいのは、主に深紅がだと思うけど。私はトーク力が乏しいから。
「今日はトワイライトのパーティ攻略配信ですから、Ｂランクダンジョンに来ています！ 前は１層までしか攻略出来なかったので、今回は２層を少し攻略するのを目指しますね！」
〈堅実で良き〉
〈単独Ｂランクは深紅ちゃんだけだからね〉
〈いつかボス部屋に辿り着くの楽しみ、追い続けるよおおお〉
〈やっぱシャインプロは堅実だよな。安心して視ていられる〉
〈さっきまでのあたおか配信者とは違うんだよ〉
その時――深紅の顔が一瞬だけ強ばり、涼風は不安げな表情をした。
あたおか配信者。
お兄ちゃんの配信を視ていて、しきりにコメント欄を流れていた言葉だ。
同じ事務所の後輩。
それにも関わらず、理解不能な強さに話題性を見せているおにいちゃんに、２人は焦りや恐怖心を抱いているらしい。
私は呆れた気持ちで視ていただけだったけど、どうやら２人の抱いた感情は違うようだ。
あんなの、まともな神経でやる開拓じゃない。
視聴者さんの言うように、この１０年でお兄ちゃんは頭がおかしい人になっちゃった。
頭がおかしくても私は好きだけど。
「それじゃあ早速、攻略へ行きましょう！ 油断せずにね！」
「うん」
「が、頑張る！」
ダンジョン内での立ち位置は前衛の深紅を先頭に、中衛の私、後衛の涼風と進んで行く。
そうして１０分ぐらい珍しい鉱石を見つけては採掘しつつ開拓をしていると――本日初となるモンスターに遭遇した。
〈ラミアだ！〉
〈動き速くて力がヤババなんよな〉
〈高ランクだと、スリルやばい緊張する〉
本作をお読みいただきありがとうございます┏○ペコッ
この物語に少しでもご興味を持って頂けたら……どうか！
広告の下にある☆☆☆☆☆でご評価や感想を頂けると、著者が元気になります。
また、ブックマークなどもしていただけますと読んで下さる方がいるんだと創作意欲にも繋がります。
どうか、応援とご協力お願いします┏○ペコッ
