第172話 姉御からサングラスを賜った!
え、マジで……何の用事があって姉御の執務室へ残り続けたの?
まさか挨拶する為に俺が起きるのを待っていたとかじゃないだろうしな。
と言うか姉御も、エリンさんを連れてドライブへ行ってたよね?
このサングラスをかけて姉御が愛車を運転してたみたいだし――。
「――あ。姉御、このサングラス返しますよ」
「良い、それは向琉にやる」
「え、良いんですか?」
「ああ。向琉もアイドル開拓者として名前と顔が随分と売れてきた。もうすぐチャンネル登録者も100万人突破だったか? 変装用にでもサングラスはいくつか持っておけ」
「あ、ありがとうございます……」
そっか……。
俺、パパラッチ対策をする芸能人みたいな立場になるのかぁ……。
自覚が無かったけど、なんか姉御からの贈り物ってだけで嬉しいな。
「それで、何故エリンが未だ私の執務室に居るか、だったか? まぁ……簡単に言うと、ユニコーンの一本角を直接欲しがってな。向琉にも直に礼を言いたかったそうだ」
「あ、じゃあ……俺がアイテムを届けて、俺が起きる時をズッと待っていてくれたんですか?」
「うむ。それだけでなく、先につまみ食い――計測もしていたが、な。……どうやら過去にユニコーンの一本角を加工した者が『肉体蘇生』に等しい能力が付与された防具を作った事に、コイツは酷く興味を抱いたらしい」
「ほうほう?」
「……エリンにもアドバイスは欲したが、加工は日本の鍛冶士や魔装具技師に依頼する予定だったのだが、な。マルチバース日本支社に案件を持ち込んだら――何故か、本社からコイツが出張って来たのだ」
「それはそうだろうさぁあああ!? 肉体蘇生なんて簡単に口にしてはいるが、だね!? 脳が破壊された生物はその瞬間、死を意味するんだ! それがまるで時を戻したかのようになる現象が現実にあるのだろう!? こんな大それた謎を――『なんとなく凄い素材だから出来ました』なんかで終わらせるなんて……。ああ、もう! それは科学に対する冒涜ってものだよ! 研究者なら地球の反対側、宇宙からでも駆けつけたいに決まっているさ!」
「う、うむ……。すまん。私の認識が甘かった。3人分とびきり有能な回復を付与したアクセサリーを頼む。あと、残った部分で魔力伝導力の高い武具もな? 材料は事前にマルチバース社日本支部に送った物で足りるか? 極一般的なBランク開拓者用武具の素材だが……」
「さいっこうだよぉおおお! いやぁ、今日は実に最高だ! 弟くんと言う素晴らしい未知との遭遇、そして更に! 命を冒涜するかの如きドロップアイテムまでゲット出来るとは! いやぁ~アメリカでは愛くんにダンジョンへ稀少なアイテムを取って来てもらったり、いつも悪いねぇ! これからも頼むよ!」
「あ、あぁ……。お互い様だ」
姉御が……勢いに押されてる。
この人は一切の悪意がない一般人だから、武力で黙らせる訳にもいかないし……。
ある意味、姉御にとっては天敵なのかもしれない!
「これは私も何か、弟くんにお礼をしなければいけないと思ってねぇ!? そうそう、さっき軽くスキャニングして分かったけど――弟くんの筋肉や細胞の構成には、モンスターと類似している! 国のお偉いさんから討伐されたくなければ、理性的で人類側に立つスタンスを明確に示し続けると良いよ! そう言う意味では、人に愛され注目されるアイドルという戦略は大成功だね! 突然消しづらくなる!」
「は、へ!? 俺がモンスター!?」
「待て、エリン。それはどういう事だ!?」
「うん? 精密検査をしないと分からないけど、だがね? 開拓者全般の筋肉や骨、皮膚などは破壊と再生を繰り返す中で魔力と呼ばれる特殊な力が混じり、常人を超えた強さを身につける。開拓者は皆が似たような力を手にするんだが……。愛くんは魔力に加え神通力が混ざり、人智を超えた筋出力と頑強さを誇るようになった!――しかし弟くんは規模、レベルが違う! 血肉骨皮膚粘膜の構成……全ての部分で最早、魔力と神通力が構成の大半を占めている。普通の人間と同質な割合の部分なんて、見つける方が大変そうだよ!」
ちょっと待って!?
開拓者が経験を積むにつれて、魔力量を高め肉体も強くなる謎って――そう言うメカニズムだったの!?
え、それが俺は最早モンスターレベルッて……マジで!?
本当に隔離対象にされそう!
こわっ!
「あ……。もしかして俺が10年間、ダンジョン産の物を食べていたから? 食育的な?」
「うんむ! そこも含めて実に興味深いよ! 仮説段階の謎だからこそ無限に試す方法が浮かぶね! 第2の弟くんを生み出すには、どんな条件が必要なのか! ん~高まるぅううう! こんな興奮をくれた君に、私からお礼のプレゼントだ!」
白衣のポケットから、手首に巻く金属製のバングル――バンド?
なんかそんな物を投げ渡してくれた。
なんだろう、ピカピカと綺麗だけど……アクセサリーかな?
「それは一般人でも一流の開拓者並の力を手に入れる事が出来る――夢のアイテムさ! 完成すれば軍事に改革が起きるね!」
「え、ええ!? こここ、これ……ヤバいやつじゃないっすか!? そんな大それたものを、ガム1個あげるねみたいに――」
「――何か致命的な欠陥が有る試作品……と言った所か?」
「愛くん、その通りさぁあああ! それは絶大な力を与えられる代わりに、連続で3分も使えば死に至る試作品ドーピングバンドさ! 使用制限は1回から3回。運が悪ければ1回目から誤爆するから気を付けてくれよ!」
「自爆アイテム!? いやいや、絶対にダメでしょ!? 倫理的に!」
「その通りさ! 国からの依頼で仕方なく研究はして形にはしたが、それが限界だ! これ以上、私はそいつ関連の研究をするつもりもない!」
「ふん……。借り物の力など身に付く物ではない。砂上の楼閣の如きものだ」
姉御の主張は相変わらずだ。
着実に積み上げていく強さを、極めて重んじる。
「私はそれの権利も主張しないからね! お礼に弟くんへあげよう!……適当な所に持ち込めば、弟くんの借金を完済出来るかもよ?」
「え!? マジッすか!? 俺の借金……62億円以上の価値が!?」
これ1つで、そんな高いの!?
と言うか……ヤバい研究機関に流れたら、自爆テロとかに使われそうな代物じゃん!
メチャこわっ!
無くさないように、肌身離さず持ってないと!
「おい、エリン。その借金は荒唐無稽な私の吹っかけで――」
姉御が視線を泳がせながら、借金について弁明をしようとしたけど……。
エリンさんは、お構いなしとばかりに俺の身体をよじ登り、耳元へと口を寄せた。
そして声を潜めながら――。
「――借金と言う名目は適当かもしれないけどね? 弟くんの安全を確保する為に、裏で軽く62億円ぐらいの金が動いたのは……事実だよ。全て、愛くんの私財からね」
「……ぇ」
マジッすか……。
それなら62億って――適当な金額じゃなかったんだ。
流石に税金や罰金ではない――裏工作とかの資金かな。
姉御が言う所の――大切なものを守る為の、武器弾薬。
俺を守る為に、マジで超大金をつぎ込んでくれていたのか……。
「あぁ! これからの研究が楽しみだ! まずはユニコーンの一本角の分析加工! それが済めば弟くんの研究協力ぅううう! たっかまるぅううう!――マァアアアルチバァアアアスッ!」
奇声を上げて社名を叫んでる。
もう。
なんなの、この人は……。
マルチバースって多元宇宙――複数の、無限の可能性宇宙が存在するって意味だよね?
多分、これからの可能性の広さに胸が躍るなぁ~って意味なんだろうけど……。
なんか一周回って、超元気な愛玩動物に思えて、笑えて来た。
なんだかんだで姉御がこの変態さんを信用しているのも――この人の純粋な善性と直向きさに好意を抱いているからだろう。
なんとな~く、見ているだけで自然と微笑んでしまいそうになるのは――俺にも分かる。
人見知りの俺が、人見知りをする暇さえも与えられない不思議なノリとテンション……空気感。
とは言え――。
「――で、では俺は、これにてドロン……」
「うんむ! 土曜日が納期だったな!? 安心したまえ、それまでには研究解析を終わらせた上で加工処理もして渡そうとも!」
これ……萌え袖とか呼ぶんだっけ?
長い白衣で隠れた腕を組みながら、エリンさんは頼もしい返事をくれた。
「…………」
え、この変態と2人っきりにしちゃうの?
何処か心細そうな感情を放ってるように見える。
そんな、ちょっと可愛い姉御の瞳の誘惑にも――負けない!
俺は、そそくさと静かな自分の寮へ引き上げさせてもらいました――。
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