第170話 襲来、エリン・テーラー
何者かが自分を害する事が可能な距離に居る。
それは寝ている俺にとって――バシッと目が醒める事態だ。
それこそ目覚ましなんかとは比べ物にならない覚醒度の高さへ即座に至る。
その対象から敵意を感じなくとも、だ。
視界が暗い……サングラスのレンズ越しだからか?
上を向いて横たわっているであろう俺のサングラスへ金髪の外国人女性は、そっと手を伸ばし――ゆっくりサングラスを持ち合げた。
当然、一挙手一投足をバッチリ観察している俺と目が合い――スッと、サングラスを元の位置へと戻した。
うん、相手が目を瞑っていると思ったのに、サングラスを持ちあげたらガン開きの目と見つめ合うとか……メッチャ驚くよね。
そして彼女は、まるで長時間狭い部屋へ押し込められていた窮屈さから解放されたかのように手足をグッと伸ばし――。
「――|You're awake, Ataru《起きたんだね、向琉!》! It's a real |pleasure to meet you《君に会えて嬉しいよ1》! I've| never been so happy《こんなに幸せな事はない!》!」
英語で話し始めた。
バッサバッサと白衣を舞わせて、もう何!?
メッチャ興奮しているのは伝わってくるけどさ!?
えっと、えっと……。
の、脳内で翻訳だ!
諦めるな!
英語はメッチャ頑張って勉強した分野だろう!?
狭い島国の日本に居たら、こうして英語の実戦経験を積める機会なんて殆どないんだ!
俺だって折角の機会を逃さず、負けじと英語で受け答えをしないと!
「It's |nice to meet you too《俺もあなたに会えて光栄です》. |By the way,《ところで》 may I ask your |name and what you do《あなたの名前と仕事をお伺いしてもよろしくて?》?」
「Oh……, while you were sleeping I was| shaken with emotion《君が寝ている間にも私は感動で震えたよ!》! I can't believe there is such a wonderful t|est subject in Japan《こんなにも素晴らしい被検体が日本にいるなんて!》! Ai is wonde|rful, and so are you《愛くんも素晴らしいし、君もだ!》! It's trul|y a land of miracles《正に奇跡の国と呼ぶに相応しい!》! |My brain is on fire《私の脳は最高に興奮しているよ!》!」
やっべぇ!
なんかマジで怖い!
額を片手で押さえたかと思ったら、目をガン開きで興奮し始めたんですけど!?
その瞳孔、開いてないっすか!?
と言うか――貴女が腕に抱いてるそのタブレットは何!?
液晶ディスプレイに映る俺のデータっぽい写真がチラッと見えちゃったんですけど!?
「Oh my god ........ Can so|meone please help me《誰か助けてくださいませんか》!? This woman can't talk |to me and I'm scared《この女性話が通じなくて怖いんですけど!?》!?」
「慣れない英語を使わんで良いぞ、向琉。そいつは日本語も話せる。……とは言え、真面目に英会話へ取り組む姿勢を持っているのは非常に嬉しく思うがな」
慣れ親しんだ日本語ぉおおお!
愛してるよ、我が母国語ぉおおお!
そして、ぶっきらぼうで人から誤解されそうな――このキッツイ声!
「|あ、姉御《Ah! The boss of the Japanese mafia!》! |居たんですね《you were there!》!?」
「向琉、貴様……心の中の声が漏れているぞ? 良い覚悟ではないか?」
「あうち!」
姉御にアイアンクローをされ、ブラブラと持ちあげられる。
まぁ……こんなのは大して痛くもない。
姉弟弟子同士だと、こんなもんはスキンシップみたいなもんだ。
高い視界で周りを見れば、ここは姉御の執務室。
そっか……。
俺、疲れから落ちるように眠っちゃったのか。
それを姉御がソファへ横たえてくれたんだろう。
周りに転がっている良く分からない謎の機器は……今は見なかった事にしたい。
「あ、姉御……。あの、そちらのマッドサイエンティスト感が半端ない金髪外国人女性は、どちら様ですか?」
「ああ、そうだな。先ずはそれを紹介せねば」
姉御はストンッと、俺を降ろす。
うん。
天心無影流道場時代を思い出すよね。
懐かしいなぁ~。
姉御の左手で掴み上げられる俺、右手側には悠兄の定位置。
良く兄弟弟子同士、隣で姉御に高い高~いをしてもらいながら、世の不条理と絶対的な力の差について語ったもんだ。
すると――ハッとした表情で、小柄な女性は俺へ向き直る。
そして彼女は短い背筋を伸ばすと、バッと音を立てて両腕を伸ばし――白衣の袖口から自分の両手を出した。
何、その動き。
ちょっと格好良いんですけど?
「初めましてだよ! 神通力使い2号の、あたる……ええっと、なんだっけ?」
「大神向琉でっす!」
特徴的な被検体ナンバーみたいに呼ばないで欲しい。
頼む!
望み薄なのは分かってる!
でも――俺はユニコーンの一本角を加工してもらうお礼に、マルチバース社の技術開発局長の研究へ付き合うと約束を既にしてしまったんだ!
この女性はマルチバース社と無関係であれぇえええ!
「私はマルチバース本社の技術開発局長、エリン・テーラーさ!」
いやぁあああ!
無理だったぁあああ!
本作をお読みいただきありがとうございます┏○ペコッ
この物語に少しでもご興味を持って頂けたら……どうか!
広告の下にある☆☆☆☆☆でご評価や感想を頂けると、著者が元気になります。
また、ブックマークなどもしていただけますと読んで下さる方がいるんだと創作意欲にも繋がります。
どうか、応援とご協力お願いします┏○ペコッ




