第152話 予想を超えて来た!?
握手イベントがスタートしてから早くも15分。
スタッフとして俺がやる事は――思いの外、少ない。
「はい、お時間です」
「美尊ちゃん、頑張ってね!」
「ありがとうございました」
流れ作業的に一言二言の会話、握手。
その流れを俺は遠巻きに見守っているだけだ。
とは言え3人――特に深紅さんへ危害を加えられる可能性があるとなれば、警戒も怠れない。
「……確か姉御が言うには、未然に防げるのがベストではあるけど……早すぎて証拠が無いと、それもまた困る微妙な塩梅なんだっけ?」
凄く難しい事を言うなぁ……。
これだけ人が居るし、唯でさえ皆が殺気立っている――と言うか、忙しない。
怪しい人なんて、急いで握手をして早口で捲し立てて居れば、全員がそう見えて来る。
分かりやすく開拓者の装備なんて着ていてくれるはずもなければ、武器を装備して入場出来る筈もない。
「う~ん。……俺がいなくても、最悪の事態は避けられると思うけど」
学園の授業、組み手で戦った限りだけど……。
そうそう命を取られるような不覚は取らない面々だと思う。
この3人の命を害せるレベルで魔力を練れば――気が付かれないはずはない。
それだけ強力な武具なんて、入場前の荷物検査で奪われる。
そもそも身分確認で旭プロ関係者や怪しい者が紛れれば、無線連絡が来る手筈になっている。
「このまま、何も起こらないと良いんだけどなぁ……」
そう思いながら、目を光らせる。
そうして、16時30分頃だった。
「――深紅さん、応援しています!」
「ありがろう!……あれ? おあいいなぁ……」
少しポッチャリとした体格の男と握手をした深紅さんの呂律が、回っていない。
目も明らかに――虚ろ。
その異変を感じた瞬間には――。
「――闇魔法、目くらまし!」
ブワッと、男を中心に暗いスモークのようなものが吹き出る。
これは……殺傷能力こそない一瞬で出せる魔法だ。
だけど――速攻で出せる魔法としては、かなり良い腕だ。
目くらましをしている最中に、更なる闇魔法を放ってきている。
自分が今、空間の何処にいるのか。
立っているのか、寝ているのか。
右に動いたのか、それとも振り返ったのか。
分からなくさせるぐらい、濃い影を起こして――五感を奪っている。
「深紅さん!」
「深紅ちゃん!? 大丈夫!?」
「深紅! 返事をして!」
川鶴さんや涼風さん、美尊の声が――暗闇に木霊する。
その中で深紅さんの返事は――ない。
「まぁ……そりゃそうなんだけどね。風魔法っと」
風を会場出口方面へ向かい流す。
室内へ充満していた暗闇は、そのまま屋外へ出してしまって……っと。
後始末、だね。
「み、深紅さん!? それに、大神さん!」
「おにいちゃん、深紅を助けてくれたんだね。……その足の下で藻掻いてる人は?」
川鶴さんと美尊が慌ててコチラへと寄って来る。
涼風さんは何処から持ってきたのか、長袖のスタッフ服を用意してくれた。
助かる。
この服があれば、犯人の手足を拘束出来るよ。
「練度の高い闇魔法を使ってたし……この犯人は、開拓者だろうね。相当、この場面を想定して練習してきたのかな?」
「く、くそ……。話が違うぞ! 嘘吐きが!」
深紅さんに治癒魔法をかけると、その身体は直ぐに自由を取り戻した。
何かモンスター由来の、強力な神経毒……かな?
即効性の神経毒でターゲットの自由を奪い、闇魔法で会場に居る人間の動きを阻害するコンボ。
単純だけど、短時間でターゲットを捕らえるには合理的だ。
俺も実力が上の者を捕らえようとするなら、不意打ちでこのような手段を用いると思う。
「俺は深紅ちゃんと一生を添い遂げるんだ! お前らが邪魔をするから、何時も何時もダメになる! 俺と深紅ちゃんの幸せの邪魔をするんじゃねぇえええ!」
何とも、まぁ……。
深紅さんの心を考えない、身勝手な言い分だなぁ。
「あなたは旭プロの人ですか?」
「大神向琉! 貴様のような嘘吐きに答える筋なんてない! み、深紅ちゃんをお姫様抱っこだなんて……許されないぞ!?」
誰に許されない――いや、それはマジで世間は許してくれないぞ!?
助けるのに夢中で、ついつい深紅さんをお姫様抱っこしてた!
「ご、ごめんなさい深紅さん!」
「い、いや……。その、ウチが不甲斐なくて危ない所だったから。……ありがとう、ございます」
心の中では仕方ないと理解していても、やっぱり距離が近すぎたのかな!?
深紅さんは頬を染め、目線を合わせてくれない。
ああ、完全に嫌われた……。
暗黒の学生時代がプレイバックだ……。
深紅さんは、グッと伸びをして――。
「――さ、さあ! 不審者は取り押さえたし……続きやろ!?」
「「……は?」」
川鶴さんと俺の声が重なった。
いやいや、続けるって深紅さん……。
これだけの事が起きたのに「はい、次の人~」なんて、握手会を続行が出来ると?
「犯人は警察が来たら引き渡せば良いっしょ? それでウチらは、最強のボディガードが監視している中で続行! 地上でここぐらい、ウチらに重傷を与えるのが難しい場所は他にないっしょ? ぶっちゃけ、警察署より安全だと思うよ?」
「それは、確かにそうですね……。大神さんが居てくだされば、誘拐も不可能。治癒魔法も最上級ですが……。とは言え、これだけの事が起きたので――」
「――わ、私からもお願いします川鶴さん。これで中止になったら深紅ちゃんは……来てくれているファンの皆さんに申し訳なくて、メンタル的に潰れちゃう」
「……うん。お兄ちゃん、大変かもだけど……警護、お願い出来る?」
大人としての立場から、中止を提案する川鶴さん。
でも――涼風さんの言う事も正論だ。
深紅さんにこれ以上、責任を感じさせるのは……精神的に暴発を招くリスクがある。
自分のせいでと思わせたら、どんな無茶をしてファンに償いをするか分からない。
そんな危うさがある。
美尊に頼まれては断れないと言うのもあるし、ここは――。
「――おっけ! 別に大変じゃないし、任せて!」
サムズアップして、笑顔を返す。
でも一応、深紅さんには伝えておかないとな。
「深紅さん。証拠不十分での逮捕は十分な処罰を与えられないかもなので……。その、またさっきみたいに、少し……」
少しダメージを負わされてから、俺は確保に動くしかない。
勿論、後遺症が残るレベルのダメージには絶対にさせないと確約が出来るけど。
「それでも、良いですか?」
拘束した男の肺を背中から膝で押し潰しながら――深紅さんの顔を覗き込んで尋ねる。
すると――。
「――ひゃ、ひゃい!」
「え?」
顔を真っ赤にした深紅さんが何度も頷くと――そのまま持ち場に戻り、深呼吸を始めた。
「……まだ毒の影響が? いや、治癒魔法の手応えはバッチしだったし……」
「む~……」
「み、美尊? どうしたの、むくれて?」
「毒牙にかかっちゃダメ」
「え、俺が?」
「そう」
毒にかかったのは深紅さんだろう?
結局、本人たちの強い希望と警備の強化を施し――握手会は18時になり、6千人全員終える事が出来た。
凶行に及んだ男も警察に連行され、事情聴取。
そしてトワイライトは――急遽、事務所に戻り会見を開くことになった。
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