第148話 年下雇われ社長、報われて欲しいなぁ
そうして予定の12時30分を若干オーバーして――俺の握手会は、無事に最後まで終わった。
「大神さん、お疲れ様でした」
「川鶴さん。ありがとうございます! 1500人と握手してると、手の感覚が鈍くなって来ますね」
「ふふっ。それは皆さんが仰いますね。スタッフの集計によると、1人足りなかったようですが……」
「ありゃりゃ……。直前になって、やっぱり握手なんか要らないと思ったんすかね?」
それは少し残念だけど……。
きっと、何かしらの事情があったんだろう。
「かもしれませんね。後日使える握手券でも無いですから」
急な写真集発売決定なのに、事前予約までして……。
朝早くから現地で並び、写真集を購入。
そうしてレアな握手券を手に入れたのなら――その人も、余程の事情があって握手会へ来なかったに違いない。
「この後、俺はどうすれば良いですか? 美尊たちの触れあいイベント――握手券付きCDが当たった人たちでしたっけ? その時は、会場で変装して警備をするよう姉御に言われてるんすけど……」
「あ、はい! オーナーから覗っています! 正直、助かりますよ……。万が一、旭プロ――の名前を出すのは決めつけが過ぎますけど……。開拓者が犯罪を画策していたら、私たち一般人のスタッフでは止められませんので……」
「旭プロ――と言うより、旭柊馬が深紅さんを取り戻そうとするなり、害そうとするなりの可能性が僅かでもあるんでしたっけ?」
姉御の説明では、そんな感じだった気がする。
スタンピードの件、そして親権を主張出来る間に――強引な手口に出るかもしれない、と。
もしかしたら普段は寮で手が出せないから――強引に連れ帰る可能性だってあるかもなぁ……。
ご家庭の事情を詳しく知らないから、なんとも言えないけどさ。
「それもなんとも言えませんけどね……。旭柊馬社長が、どう考えてるのかは分かりません。でも――実際に動くであろう開拓者は、余程のメリットが無いと動かないはずですよ?」
「……と、言いますと?」
「開拓者の犯罪は――一般人が同じ罪を犯した時より、遙かに罪が重くなるのはご存知ですよね?」
「あ、はい。姉御が言ってましたね」
成る程、それなら確かに。
余程、追いこまれて居ない限りは……犯罪に手を染めるデメリットの方が大きいか。
でも俺は――スタンピードの時、追いこまれて仲間の命を捨てようとするような、あの姿を見ているからなぁ……。
油断は禁物か。
「一先ず、お弁当を用意してあります。そちらで休憩を取られてから――うちの子たちのライブでも観ます?」
「え!? 良いんですか!?」
「はい。……実の所、私も直ぐにスタジアムへ行かないとなんですよね。これでも一応、社長ですから」
「姉御は来ていないんですか?」
「いえ、来てくれているようなのですが……。オーナーはあくまで、オーナーですから。雇われとは言え、社長は私なもので……」
それはそうか。
現場の事に全て口を出すなら――姉御が社長で良いもんな。
「と言う訳で、オーナーはお偉いさんの接待とか、応対をしてくれています。私は現場の指揮を執らねば、と言う訳でして……。色々と現場で問題が起きては通話で対応してましたけど、そろそろ限界ですね」
開演時間は――13時。
間もなく開演と言う時間を前に、現場では最後の最後まで揉めているんだろう。
川鶴さん……。
クーポン券やらポイントカードでパンパンな財布なんて使わず、苦労に見合う贅沢をして欲しいなぁ……。俺より年下なのに……。
姉御に聞いたけど、給与はかな~り良い。
使い道は……忙しさであまり無さそうなんだけどね。
貯蓄が趣味って人も居るらしいからなぁ……。
こう言う人こそ……一旦、息抜きとか言って試しにホスト行ったらメチャ嵌まりそうよね。
ストレス溜まらないように、俺たちも協力しないと!
「それじゃ、俺は先にお弁当をいただいてから変装して、川鶴さんの元に向かいますね! ライブ見学、楽しみです!」
「はい。お待ちしてます。……次回は大神さんも出演する可能性がありますから」
「あ、はい。……レッスン、頑張ります」
うん……。
次回は――来年の夏ぐらいにしてください。
こんな大きい会場を借りてのイベントなんて、ポンポンとやらないだろうけどさ。
そうして俺は握手会の余韻に浸りつつ、食事を済ませた。
ああ……。
美尊の――トワイライトの面々のライブ、楽しみだなぁ~。
学園で観たのとはまた違う姿を楽しめるに違いない。
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