第138話 愛する妹と組み手、だと?
美尊と寮から出て、深紅さんや涼風さんと合流。
深紅さんに深々とお礼を言われながら、登校。
「――おはようございます! 大神向琉です、皆さんよろしくお願いします!」
そうして――俺の関東開拓学園高等部の臨時講師生活、2日目が始まった。
基本的に流れは変わらない。
1日目と同様、1時間に150名のグループでやって来ては指導をして行く。
そうして4時間目――遂に、美尊と涼風さんを見つけた。
く、訓練に私情を挟んではダメだ!
思わず美尊を目で探しちゃうとか、そう言うのは隠さないと!
組み手希望の代表者の中には――2人の姿もあった。
まず先に出て来たのは、涼風さん。
手には弓を持っている。
「お兄さん先生。よろしくお願いします」
「はい、涼風さん! よろしくお願いします!」
互いに礼をして――涼風さんは、いきなり魔法を放ってきた。
魔力を練り上げる時間も無い一瞬で――選んだのは、水蒸気の魔法。
水属性と火属性を用いた、混合魔法だな。
「うん、良い選択だ」
視界が制限され、水蒸気で瞬きも多くなった隙を突いて――。
「――本命の弓矢、そこだね!」
水蒸気の中、突然現れた弓矢を掴み取り――ダッと駆ける。
駆けた先には、射た後の姿勢のまま固まる涼風さんが、驚愕に目を見開き固まっていた。
「な、なんで!? この視界が悪い中、飛来する矢が見えるなんて……」
「うん、素晴らしいコンビネーションでした! 水蒸気を放ち、自分は即座に移動。熱感知の魔法で自分は相手の熱源へと弓を放つ。――足りないのは、この弓矢が直線武器だという部分の考慮。もう一捻りですね! 矢の形状や風魔法で、軌道を変える工夫が欲しい所ですね~。あと、これだけ足場が良い戦場は有り得ない。相手に場所がバレる事、避けられるか外した場合も考慮して……二の矢、三の矢と手を用意して置きましょう」
「……はい。参りました」
喉元に鏃を突き付けられた涼風さんは、ゴクリと喉を鳴らしながら返事をした。
うん、素直で――瞳の奥に、凄い悔しさそうな感情を秘めている。
こういう冷静に自分の至らなさをスッと認められつつも、悔しさはちゃんと感じる。
そういう人は伸びやすいし、サポーター向きだ。
「次は、私。お兄ちゃん、お願いします」
涼風さんと入れ替わるように出て来たのは――我が最愛の妹、美尊。
何時もの通り、槍を手に構えている。
ああ、戦乙女のように美しい……。
「なんて気迫だ、俺の負け――」
「――にしたら私、数日はいじけるよ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……このまま時間切れを狙ってるなら、家で指導してもらうよ?」
逃げ道が無い!
いや、さぁ……。
うん、やるべきなのは分かってるよ。
でも――美尊に天心無影流の辛い修行を課したくないから、俺は頑張ってた訳じゃん!?
開拓者になった今、美尊が強くなる事が生存に繋がると……頭では理解してる!
でも――拳を振り上げろと!?
生き残れる強さを持って欲しいからって、自分の肉親に!?
最愛の人の為に自らの感情を殺して拳を振り上げられるのは――心を鬼にした人物だけだ!
それは――唯の愛情を超越した、真の愛とか呼称されるレベルの代物だ!
じゃあ……俺は真の愛を美尊に抱いていないというのか!?
この葛藤の答えは、1つ!
「――来い、美尊!」
「うん! はぁあああ!」
嬉しそうに口角を吊り上げ、美尊は鋭く槍を巻きながら突いて来る――。
「――よし、良いぞ!」
巻き突きは、相手のガードを吹き飛ばし深々と突き刺す基本の突き。
肩甲骨をしっかり使い、基本が出来ている。
これなら硬いモンスターが相手でも、武器の性能頼りにならず鋭く突けるだろう。
美尊は肩甲骨から槍に力を伝播させて操るのが上手い!
叩く、薙ぐといった動作でも――槍の前側を握る左腕を使って巻く事で、相手に距離を錯覚させている。
体捌きも槍に偏重気味ではあるが、頼りきってはいない。
ここで俺が槍を叩き折っても――即座に反応が出来る重心位置だ。
武器を身体の一部と化し、武器が壊れても――それは片手を失っただけ。
天然に落ちている別の武器を操れば、また片手が生えたようなもの。
1つ1つの得物を磨き上げた流派と、ルールありでまともに戦えば、敗れるだろうけどね。
体力が続く限り、持ち込んだ得物がダメになっても戦い続けられる。
そんな実戦の立ち回り。
「姉御の指導の痕跡、だなぁ……」
深紅さんや涼風にも感じたが――美尊は2人より、天心無影流の色が濃い。
ダンジョン災害の直後から、姉御が直々に指導していた結果だろう。
大事にならないよう、フェイントを交えて踏み込みつつ――。
「――ほいっ!」
他の生徒が持って来ていた木剣を素早く取り、投げつける。
「――くっ!」
ああ、残念……。
美尊は槍で木剣を弾き飛ばした。
俺はその隙に、美尊の眼前に踏み込み――。
「――美尊、お終いだよ」
「……お兄ちゃん、負けました」
美尊の頬に片手を当て、一本取ったと告げる。
うわぁ……。
すべすべのもっちもちだぁ……。
「私、どこがダメだった? キツイ言い方で良い。全部教えて」
「え、えっと……」
心を鬼にしろ、俺!
ダメな部分なんて、山ほどあっただろ!
このクリクリとサファイアすら霞む程の美しい瞳を持つ美少女に――ちゃんと生き残れる為の注意をするんだ!
「や、槍……」
「槍?」
「槍にまだ頼りすぎ、かな? 槍で突く、叩くのを意識するのは良いんだけど、相手の動きに対する理解がまるでなってない。相手に押し返される、武器で叩かれた時、自分の力で受け止めるのは最悪。1人の技量で戦っていて相手の力を利用したり兵法をまるで意識してない」
「…………」
「これならパンチングボールの方が強い。自分が叩いた分だけの力で返って来るんだから。相手の攻撃を自分の力で相殺するばかりじゃない。相手攻撃が身体に当たらないように捌けるなら、もっと体捌きで避けないとダメだな。それでいて相手の攻撃の反動で吹き飛ばされた槍を利用して攻撃に転じるとか、変化を付ける必要がある。そもそも折角の魔法という武器も全く――」
「――お兄さん先生、あの……時間だそうです。どうか、今はその辺で……」
「はっ!?」
いかん!
美尊が生き残る為だと思い、心を鬼にして火を付けたら――時間も加減も忘れてしまっていた!
涼風さんが、恐る恐ると言った様相で教えてくれた。
審判役をしてくれてた先生も、涼風さんに伝言を頼まず直接教えてくれれば良いのに!
「……ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました! みみみ、美尊!? 言い過ぎてゴメン!」
「ううん。これが真の優しさだと理解してる。……続き、後で聞かせてね?」
「う、うん!」
良かったぁ~!
言い過ぎて嫌われたかと思ったぁあああ!
顔はあからさまに落ち込んでたし、俺も他の生徒より言いすぎた自覚があったから!
美尊は生徒の中に戻り「ナイスファイト」、「さっきの惚気だよね? 近距離で美男が美女の頬を撫でるとか、絵になりすぎ」、「家でも指導受けられるとか良いな」なんて声をかけられている。
落ち込んでいるかなぁ~とか思ったけど、「家族特権」なんて言いながら美尊は微笑んでいるし……。
一番の難関――クリアしたな、これ。
俺、やったよ……。
その後は、代わる代わる生徒同士での対戦を観ながら指導をして行った。
昨日同様に美尊や深紅さん、涼風さんと戦闘について話ながらの昼食。
そうして美尊たち3人と下校をして――。
「――よっしゃ、やりますか!」
「大神先生、また残られるんですか? お先に失礼します」
「あ、は、はい! お疲れ様でした!」
再び職員室へと戻り、面談室を借りて作業をして行く。
こうして俺の臨時講師生活は、無事に過ぎて行った。
自分の本業が開拓配信者なのを忘れるように、過ぎて行ってしまった――。
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