第137話 姉御のマッドなスポンサー?
「姉御、あの車は――ビック○ックいくつ分のお値段なんですか!?」
「……なんだその価格の聞き方は?」
「だって物価の指標を良くビック○ック指数とか呼ぶじゃないですか」
「それは物価だけじゃなく、経済全体の指標だ。世界中で同じ材料、同じ作り方をしているからな。製造工程で必要な人件費や光熱費などなど……。国家全体の経済規模に価格が転嫁され、購買力平価を出すんだ」
あがが……。
自分で言いだしたんだけど、頭がパンクしそう!
徹夜でこれはキツイ!
それを察したのか、姉御はハンバーガーを囓り、飲み込んでから――。
「――あの車は無料だ。つまり、ビックマック1個より安いな」
俺の聴きたかった質問に答えてくれ……。
え?
無料!?
プライスレスってどういう事!?
ダンボールで作ったダンボルギーニなの!?
「……正確には、かつて1年だけスポンサー契約を結んでいたマルチバース本社からの贈り物。特別仕様車だな」
「あ、姉御のスポンサーに付いてたんですか!? マルチバース本社が!?」
「ああ。私が開拓配信をしていたのは、ダンジョン庁長官に就任する前の2年にも満たない期間。その間にスポンサーに、な」
マジッすか!?
うわぁ……。
俺のスポンサーにねじ込む交渉をして来たり、その繋がりは長官の権力だと思ってたんだけど……。
思ってもみない繋がりがあったのか……。
「な、なんでたった1年でスポンサー契約を打ち切りに? 待遇は……高級車を送られるぐらいだし、良かったんですよね?」
「目的を果たす為のスポンサー契約だったが、国際情勢から難しいと結論付けられたからだ」
「も、目的?」
「私がマルチバース社とスポンサー契約を結んだ狙い……。冥府行きのダンジョン攻略の人的、物資的支援を得たかったんだがな。アメリカ国籍のAランク……今ではSランクの開拓者にも、開拓協力をして欲しかったからだ」
「お、おぉ……。それって、もしかして――俺や道場の為に?」
「他に何がある。あの頃、私の開拓者としての行動原理など、向琉や道場の為でしかない」
や、やばぁ……。
もう、姉御が格好良くて……。
姉御――俺と性別、変わってくれないかな?
俺が女なら、間違いなく恋する乙女になってたわ……。
「しかし、高ランク開拓者は国家戦力扱い。出入国や他国での開拓者活動も簡単ではない。特に当時は、国家間で戦争になる気運も高まっていたから尚更だ」
「……そうっすね。最近、スタンピードで自衛隊の装備と他の開拓者を見ていても、そうだろうな~と思いますわ」
「そうだろう。……無理を通す為、私も協力を惜しまなかったんだがな。自慢じゃないが、私からもマルチバース本社に多大な貢献をしたんだぞ? 特に技術躍進など、な」
「技術躍進、ですか?」
「ああ、とある天才科学者が来日してな。……私は被験体だったと呼んでも、差し支えないな」
「な、なんかマッドサイエンティストとか、居そうですね」
「変人なのは間違いないな。一定の魔力ダメージを肩代わりしてくれる装備品なぞ、初期は私の神通力の纏いが無ければ実験中に死人が出ていただろう。安全と倫理に配慮した実験をしていれば、まだ実用化される段階には至ってなかっただろうな」
え!?
学園で使ってた、あの道具――姉御の協力で完成したの!?
スゲぇ……。
あれが無ければ、生徒同士で戦闘練習なんか危険過ぎて出来ない。
そう考えると、開拓者全体の成長に貢献してるんだなぁ……。
「俺もその道具に助けられましたよ! 凄いっすよね。一定の魔力を予め充填しておけば、相手の魔素が元になるダメージを打ち消してくれるなんて!」
「ああ。今では様々《さまざま》な高級装備に必須の機能だな。……初期は酷かったぞ?」
「ひ、酷かったとは?」
「今は装備品に蓄えた魔力で、襲い来る魔力を相殺という形だが……。試作1号機は、相手の魔力を吸収する能力だったんだ」
え、そっちの方が凄そう!
魔力を溜める必要も無いし……とはいえ、試作1号機と言う事は――。
「――失敗だったんですか?」
「ああ。相手の魔力攻撃を瞬時に吸収する機能が、どうにもならんかった。……神通力による纏が無ければ、何度か身体が吹き飛んでいただろうな」
「えぇ……。研究の安全性と倫理ぃ……」
「ふっ……。それもあって、あの車の提供など……。マルチバース本社は私を蔑ろに出来ぬのだ。……今も、あの変態――天才科学者は、私を諦めていないようだがな」
変態って……。
でも、そうなんだろうな。
神通力と言う魔力外の力を持つ存在は、研究者からすれば垂涎の研究対象だろう。
ん?
その理論だと……俺も狙われてない?
な、なんか……背筋がゾッとした。
か、考えるのは止めよう!
「そう言えば……今更だが、学校はどうだった? 仕事ぶりは一晩見させてもらったが、な」
「あ、はい! 青春プレイバックしましたよ! 美尊と学校生活を謳歌出来るなんて……。この仕事を持って来てくれた姉御には、頭が上がらないですよ!」
俺が喜色満面でそう答えると、姉御はストローでレモンティーを飲んで顔を逸らした。
朝焼けかな?
頬を朱く染めながら、ちょこっと細めた口でストローを咥え、ズズッと飲み物を飲んでいるのが――妙に可愛いギャップがある。
「……それなら、良かった。大変な仕事だとは思うが……。よろしく頼む。特に、深紅は……な」
姉御から名前が出て――思い出してしまう。
自分から肩を外したり、自らの血で相手の衣服を汚す狙いと言う――ある意味で変態。
躊躇わずにそれを成す、妄信とも偏執的とも言える程の――姉御への崇敬を抱く赤毛の少女。
「深紅さんは……危ういっすね。姉御から聞いていた以上に、頑張り屋で可愛くて……崖っぷちに自分のメンタルを追いやっている。そう思いました」
「うむ……。ままならぬ物だ」
姉御は悔しそうに眉をひそめ、力ない声を発する。
姉御は、かつて深紅さんを救った経緯があるらしい。
崇敬されているのも自覚はあるだろうし……。
そんな存在の言葉は――強すぎる。
色々と歯痒い思いをしているんだろうな。
「私が深紅に何か直接、強く言う訳にはいかないが……。何かあれば、いつでも相談してくれ。最優先で対処する」
「あ、はい! ありがとうごいます!」
姉御が立ち上がるのに合わせ、俺もベンチから立ち上がる。
なんか……最近、姉御とのビジネスライクじゃない時間も確保出来て、嬉しいな。
その後、ハンバーガーより安く手に入れたという姉御の高級愛車で寮まで送ってもらった。
美尊と食べる朝食は少しだけ冷めていて……メッチャ、ジャンクな朝食になりました。
世の中で遅くまで働きながら、料理みたいな家事までする人たち。
皆、本当に凄いと思う――。
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