第135話 俗すぎる御神刀に選ばれて恥ずかしいです
その後、慌てて神棚に祀られていた白星を手に取った俺は、驚くスタッフの方々へと頭を下げて回った。
最後に「次からは余裕のある常識的なスケジューリングでお願いします」と釘を刺され、スタジオをあとにした。
何時ものように白星を左腰に佩いた俺は、姉御や川鶴さんとスタジオにある駐車上脇へとやって来た。
『全く! 妾を忘れそうになる等とは……。向琉が地上の者と縁を結ぶ時期だとは言った。確かに言ったが、それは妾を粗雑に扱って良いと言う事ではない。分かるか?』
「分かったってばぁ……。ごめん、ごめんよぉ……」
俺の左腰で、白星はガシャガシャと暴れている。
だって仕方ないじゃん。
余りにも自然に道場へ溶け込んでるんだもんさぁ……。
実際に天心無影流の道場でも、ず~っと神棚の一部、背景や壁紙ぐらい自然な存在だったし……。
色々と感動とか、この後やりたい事とか……。
一杯一杯で、うっかりミスをしただけなんだよ。
「……白星様。この度の失敗は向琉にキャパシティオーバーな仕事量を割り振った私の責任です。どうすれば、お怒りを鎮めていただけますか?」
姉御が白星にメッチャ丁寧に接する。
う~ん。
白星の言動を色々と知っているだろうに……。
姉御は天心無影流の師範代としてなのか、随分と下手に出るよなぁ……。
『リンゴのカードじゃな! 謝罪の気持ちは金額で示してもらおうか!』
「本当、白星はなんなの? 悪質なクレーマーみたいじゃん。もうさ、伝来の御神刀としての威厳とかさ……。無いの?」
『おや? またいつかのように、妾に触れようとした者がケガをするのを止めた功労者に対して、随分な物言いじゃのう?』
「……すいませんした」
クソっ!
今回は全面的に俺が悪いから、口喧嘩では勝てない!
天狐とか言う狐の大妖を封じた刀に、人の言葉を使った勝負で負けるなんて……。
「狐につままれた気分とは、この事なのか!?」
「向琉、それは違う。……分かりました、白星様。川鶴、悪いが向琉を寮へと送る迄の何処かでコンビニへ車を停め、買い渡してくれるか? これだけあれば、足りるだろう」
そう言って姉御は財布から1万円札を数枚、川鶴さんに手渡した。
なんか……。
うん、たかりみたいですいません。
「は、はい……。分かりました」
うわぁ……。
川鶴さんが財布を出し、姉御から受け取った万札を仕舞ったけど……。
前よりもクーポンカードや割引券、増えてない?
長財布が川鶴さんの前腕ぐらいパンパンに膨らんでるよ。
お店のポイントカードと割引券をクリップで一緒に挟んで整理してるのが、涙を誘う……。
『やったのじゃ! ガチャは無課金勢には渋いからのう……。これで天井に届く! やっと快適にプレイが出来るというものじゃ!』
もう、白星……止めてぇえええ!
この財布が目に入らぬのか!?
『ふん! 財布など関係ないわ! 妾への愛が足らぬのなら――アイ○ューンズカードで足らぬ愛を補ってみせよ!』
俺、なんかさ……。
ぶっちゃけ――1千年以上振り、開祖様以来の御神刀に選ばれた人間って称号をね?
少しだけ――誇らしく思ってたんだよ?
でも、今は少しだけ――恥ずかしい。
「そ、それでは大神さん。本当にお疲れ様でした。寮まで送るので、車へ乗って下さい」
何時もの黒いワゴン車のキーロックを外しながら、川鶴さんが言うが――。
「――あ、待って下さい」
俺はまだ、寮に戻るつもりはない。
姉御に1つ確認を取ってもらいたい事があり、ストップをかけた。
「あの、今から開拓学園高等部へ戻れますか? もうカギとか、かかっちゃってますかね?」
「ん? 何故だ? もう今日の指導は終わっただろう?」
「大神さん。忘れ物を思い出したとかなら、私が行きますよ?」
「いえ、まぁ……。忘れ物と言えば、忘れ物なんですかね? 実は――」
俺は学校でやり残して来た事。
そしてこれからやりたい事を2人に相談した。
川鶴さんも姉御も――そこまでは俺に頼めない。
自分の身体を大切にしろと忠告はしてくれたけど……個人的に、どうしても譲れない事だ。
やがて、仕方がないなと2人が笑った。
「向琉。お前の願いは分かった。……それではシャインプロの公式SNSアカウントに、向琉のアカウント。私のアカウントからも、今週は向琉は別件の仕事で開拓配信が出来ないと報告をしておこう」
「え!? 今週一杯!? す、少しぐらいはダンジョンに潜れ――」
「――大神さんがこれからやろうとしている仕事ですが……。単純計算で、どれだけ時間がかかるか。計算してみてください? 今はもう、20時ですよ? 普段、学校の授業が終わるのも16時ぐらいですから……」
えっと……。
最短で、450分。
1時間が60分だから――7時間以上。
うわぁ……。
舐めてたかも。
超最短でそれだから、普通にやったら――うん、確かに。
ダンジョン配信をしている時間はない、か。
「……すいません。開拓配信者として、それで良いのかって気持ちもあるんですが……」
「……それでも、これからやろうとしている事を貫きたいのか?」
「――は、はい! そこだけは……この仕事を引き受けたからには譲りたくないっす!」
ニカッと笑いながら、頬を掻いて伝える。
軽く微笑んだ姉御は、俺の頭を撫でてからスマホを取り出し、少し離れた。
そして何処かへ――恐らく、開拓学園高等部へと電話をかけている。
数分、会話をしてから通話を切り――。
「――学園に連絡したが、まだ残っている教師がいるらしい。今ならセキュリティ方法の引き継ぎもしてくれるそうだ」
「あ、ありがとうございます!」
「気にするな。それでは、私の車で送って行くか?」
「あ、姉御とドライブっすか!?」
「なんだ、私の運転は不安か?」
「い、いやぁ……。そう言う事じゃないんすけど……」
事務所の巨大なワゴン車の隣に――見るからに高級そうな車が停まっている。
明らかに艶が違う上品なオレンジ色の車体に、運転席は左。シートは2つだけ。
メチャクチャ低い車高。一番高い天井でも、俺の腰ほどの高さ。
姉御が運転席のドアを開けば、翼が羽ばたくように上にドアが開く。
これ、ガルウィングとか言うんだっけ?
「ん? 私の愛車に文句があるか?」
も、文句というか……。
怖いから近付きたくない、遠くから見ていたい――そんな美しさ!
そう、車の放つ魅力も――姉御と同じなんすよ!
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