第126話 組み手指導開始!
始業時間丁度には、全員が整列していた。
150人が並んでる前に立つの、こわぁ……。
そう考えると、チャンネル登録者数の数十万って数字、本当にヤバいよね……。
週末のハロウィンフェスティバル――俺、大丈夫かな?
人の視線が集中して、首の血管を血が逆流するような気持ち悪さを感じる。
こ、これは早く始めないとダメになるぅううう!
「ええ~っと。臨時講師役の大神向琉です! ええ~、その……今日からよろしくお願いします! あ~、そ、それでは! 早速始めましょう! お、俺との指導組み手に選抜された方……10名は、前にどうぞ!」
俺がそう言うと、教諭たちは生徒に指示を出して移動を始める。
選抜された者は戦闘スペースへ。
他の生徒たちは、戦闘が見えやすい場所へ。
ねぇ……。
移動中に無駄口とか、叩かないの?
もうちょい俺の通ってた高校みたいに、緩くても……いや、武術に緩さは死を招くな。
これぐらいの緊張感で良いわ。
でも、なぁ……。
テキパキして堅苦しいと、俺の人見知りが増すのよ……。
そうして1人の男子生徒が刃引きされた大剣を手に、俺の前へと立った。
「あ、俺との戦闘は刃引きしないでください」
「え、で、ですが……」
「いざという時、人に刃物を振り下ろす。その覚悟を養うのも訓練です」
「……はい」
刃が付いてない大剣とか、もはや凶悪な鉄の塊よな。
どちらにせよ、魔力や神通力で身体を覆ってなければ一撃であぼ~んよ。
「それでは、私が審判を務めさせていただきます」
教頭も手伝ってくれるらしい。
俺と生徒の間に立ち、声を張り上げている。
ああ――やっぱり戦闘が丁度良い。
間違っても黒板の前で教鞭を執る仕事とかじゃなくて良かった~……。
「指導時間も含め1人の持ち時間は3分。勝敗条件は戦闘続行不能か、相手から決定的な一本を取ること。或いは敗北を認める事とする。……それでは両者、礼!」
教頭の合図に、俺と生徒は礼をする。
そして生徒は大剣を構え――。
「――始め!」
「うぉおおおッ!」
教頭の合図と同時、真っ直ぐに踏み込み――上段から大剣を振り下ろして来た。
うん、素直な定石通り。
良い踏み込みだ。
でも、だ……。
これでどうにかなるのは――知能の低いモンスターぐらいかなぁ?
「太刀筋が素直過ぎます」
スッと、前に出ながら身体を傾ける。
まるで肌を滑るように大剣が錬成館の床へと突き刺さる。
「なっ!?」
驚愕に目を見開いている男子生徒の喉へ手刀をそっと、当てる。
「1本です」
「ま、参りました……」
俺がその気になれば、首を落とせるのは彼も分かっていたのだろう。
すんなりと敗北を認めてくれた。
「大剣は重さが武器であり、弱点っすよ。振り下ろしや薙ぎ払い。途中で軌道を変える事が難しい武器であり、強力な攻撃の後に隙が出来やすいと理解してください。自身が振り回されることの無いよう、手ではなく身体で振り、生じた隙をカバー出来る次の攻撃策や回避も考えておくと良いでしょう」
「な、成る程……」
「或いは、重さや遠心力に身を任せて次の行動へ移るのも手っすね。身幅が広く厚い大剣は、そのまま盾にも出来ますから! 重さや遠心力を使いアクロバティックな一手を考えるために、重装甲の鎧は避けた方が戦闘の幅が広まるかもしれません。ダンジョン内は狭い場所が多い。大剣をシールド付きの武器としながら、別の攻撃手段も用意すると良いですよ!」
「は、はい! ご指導、ありがとうございました!」
「こちらこそ、あちがとうございました」
1人目の生徒が礼をして、生徒たちの中へと戻って行く。
生徒たちは、驚愕と動揺が混じったような顔をしている。
俺も同じ気持ちですよ。
「……床が、修復されていく? ダンジョンより遙かに早く……。なに、この謎技術」
見れば、純度の高い魔素が急速に充填されている。
多分、何処かに高ランクの魔石がエネルギー源として置かれて、それで修復しているんだと思う。
でも……。
マルチバース社の技術力、ヤバババぁ……。
「なんだよ、今の動き……。今回の臨時講師――大神先生の技術力、ヤバぁ……」
生徒たちの誰かが、そう呟いたのが聞こえた。
よしよし、良い感じだ。
自分より弱いと思われたら、指導に支障を来すからね。
一発目は成功だな!
かましてやったぜ!
「つ、次の選抜生徒は前へ!」
そうして教頭先生は、次の生徒を前に呼び出す。
それからの8人も最初の1人と同じようにササッと、指導も含め組み手を終えた。
うん。
身体能力は――開拓者だけあって高い。
でもやっぱり、技術がメチャクチャ荒いね~。
未熟な俺から見ても、大雑把かつ隙だらけ。洗練されてない。
指摘したい所だらけだわ。
そうして指導組み手を行う最後の1人――。
「――旭深紅さん……」
「大神先生、よろしくお願いします!」
片手剣にシールドを持ち、旭深紅さんが戦闘用のコートへと入って来た。
その目は、ルビーのように爛々《らんらん》と燃える赤に染まっていた――。
本作をお読みいただきありがとうございます┏○ペコッ
この物語に少しでもご興味を持って頂けたら……どうか!
広告の下にある☆☆☆☆☆でご評価や感想を頂けると、著者が元気になります。
また、ブックマークなどもしていただけますと読んで下さる方がいるんだと創作意欲にも繋がります。
どうか、応援とご協力お願いします┏○ペコッ




