第116話 姉御への報酬。……これが恐怖か
姉御……すいませんけどね?
これ以上、姉御に罪を被せるつもりはないんですよ。
俺が美尊と一緒に居られるようにする為、姉御はもう十分に泥を被ったでしょう?
俺は――姉御が本当は良い人なんだよって、皆にも伝えたいんです。
それが……ダンジョン庁長官である姉弟子へ、弟として与えられる――俺からの、全力の報酬ですから。
「向琉、やってくれたな……」
「姉御が隙だらけなのが悪いですよ?」
「くっ……」
姉御の視線が俺の左腕へ向かう。
おっと?
そんな見え見えの動きでは、俺の腕は取れませんよ?
「姉御の本音は、もう世界中に発信されちゃいました! 悪人が善人ぶっても、いつか化けの皮が剥がれてボロが出るように、ですね?――善人が偽悪的に生きようとしても、いつか本当の姿がバレちゃうもんなんすよ?」
〈マジかマジかマジか。ええ、ちょっと理解が追いつかないんだけど……〉
〈示し合わせてやった? それにしては、大宮愛の表情がガチ過ぎるかw〉
〈大神向琉は阿漕な商売の道具として被災者なのに大宮愛の職権乱用で利用された胸クソじゃなかったの? 政府や他の権力者から守ったとか、えぇ……〉
〈姉御、さっきメッチャ優しい顔してたなw〉
〈あれは乙女の顔だぜぇえええwww〉
〈ちょw 可愛すぎ、胸キュンキュン締め付けられるぅううう! これがAランク開拓者か。俺の心も開拓されちゃった///〉
〈↑途中まで同意だったのに、途中から吐き気催すキモ構文で逆に尊敬したw〉
〈本当はあんな優しそうな顔するんだなwww〉
〈つまり今までは弟弟子の為に悪役を演じてたんでしょ? ヤバい、惚れた〉
〈お姉様ぁあああ! お姉様も愛してますぅううう!〉
〈姉御にも報われて欲しいぃいいい〉
〈姉御。今までごめんなさい〉
「な、な……」
姉御がたじろいでいる。
ふっふっふ……。
こんな姉御、2度と見ることはないかな?
激戦からの解放、それに高身長の俺の髪に隠されたカメラだったから一本取れたようなものだ。
こんな不意打ちは、もう利かないだろう。
「姉御。これが世間の声、ですよ? もう世間に叩かれるストレスで痩せこける事は無く済みそうですね?」
〈姉御、すいませんでした〉
〈まだ事態を受け入れられないんだけど。え、大宮愛は詐欺師じゃないん? いや、でも被災者に酷い扱いしてたのは事実だろ?〉
〈↑それも訳あっての配信用ブラフだったとさっきバレた訳だが〉
〈どうしても姉御を認めたくない勢が極一部いるけど、俺は認めるぜぇえええ!〉
〈¥10,000
大宮愛さん。戦いを見ていました。血塗れのボロボロになっても必至に戦って下さり、誠にありがとうございます。あのダンジョン災害の二の舞にならないで済んだのを、日光市民として感謝申しあげます〉
〈姉御、Aランク2つのスタンピードを収めるなんて離れ業を有り難う!〉
〈¥2,000
ダンジョン庁の長官としてはどうなんと思う所はあるけど……。そもそも地底人に普通の境遇を用意しろやとか、スタンピードで人手不足にならないよう、事前に教育しとけとか。でも間に合わないと冷静に判断して、トップ自ら身を張って守ってくれたのは感謝する〉
〈¥10,000
正直、姉御への胸くそ悪さで観てられなかった人たちは沢山いると思う。そんなことも分からねぇプロデュース頭わりぃなぁって蔑んでたけど……。あたおかが言うような背景があると知りませんでした。ごめんなさい。あたおかと俺たち国民を助けてくれてありがとうございました〉
物言いは色々とあるけど、コメント欄はかつてのように姉御を魔女狩りの如く叩く事はもうない。
概ね姉御へ感謝を伝える言葉ばかりだ。
驚愕に見開かれていた姉御の瞳が、少し潤みを帯びたのか――ドローンのライトの照り返し方が変わった。
美しく煌めく、黒い宝石のような双眸がそこにはあった。
「……ど、どうも」
言葉少なめに軽く頭を下げる姉御は――明らかに戸惑っていた。
それは、まるで初めて子供たちへの武術教室へと参加させられた時のように。
ジジイに無理やり押し付けられた役目で、どう対応したものかと惑っていた姿を想起させる。
目線を右往左往させ、頬を朱色に染めている。
それは非常にレアリティの高い表情だ。
普段の凛々しさと激しいギャップがあり――美しくさに混じる可愛さを引き立てていた。
〈姉御、可愛い……〉
〈え、何この照れた乙女みたいな対応〉
〈年齢考えれば可愛いは失礼なのかもだけどw でも、このギャップは可愛過ぎるぅううう///〉
〈¥50,000
旭深紅:オーナー尊い。流石はオーナー。最強で神格者。ああ、本当に尊くて堪らない〉
〈お姉様……/// どうしよ、お兄様と推し増しするぅううう〉
〈¥50,000
那須涼風:尊い。捗ります〉
コメントが流れる度、乙女のように耳まで朱く染めていく姉御を見ていると……ニヤニヤが止まらない。
そんな俺の表情を、姉御はキッと睨んで見返してくる。
「……向琉。隠し撮りは、それなりの犯罪行為だ。……私がして来た事を鑑み、手加減はしてやろう。だが――覚悟は当然、出来ているだろうな?」
指をバキバキと鳴らしながら、姉御は威嚇してくる。
ああ……。
はい、出来ています。
スタンピードより恐ろしい危機を感じる。
美尊……。
俺が生きて帰れたら、また会おうね?
〈こ、これはまさか……覇気!?w〉
〈南無三www〉
〈あああお兄様とお姉様がイチャイチャしてるぅううう! でも幸せならOKです!〉
情けないよな?
俺……この威嚇で、震えが止まらないんだ。
シルバーバックの威嚇のドラミングなんて――まるで爽やかにチリンチリンと鳴る風鈴のように聞こえるわ。
それぐらい、姉御が指の関節をポキポキ鳴らす音は、魂を震わせるんだよ……。
「――優しく教え込んでやって下さいね?」
その後、姉御とめちゃくちゃヤった。
以前言っていた指導とは、別口らしい。
次はもっと厳しく、キチンと指導をしてやると帰り道で言われた。
もう、怖くて震えちゃうよね……。
事後処理の為、神通足で空を跳んで東京へ帰る姉御の背を見送る。
俺は暫く、ギルドの仮眠室で朽ち果てるように眠った――。
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