第105話 結構な金を手に入れて怖い
「姉御! ご配慮、感謝します!」
マジで良かった!
考えただけで、背筋がゾッと凍ったよ!
結果的に、同列で扱わず不遇を受けた詐欺被害者とアピールしたのは、俺の身を守ることに繋がっていたのか!
「今の様子なら、もう取り分を1割にする必要もないとは思うがな。……近々、確実にシャインプロのファン全員から認めてもらう試練の場も用意するつもりだ。それを乗り越えたら、契約も再度見直そう」
なんか、スタンピードだけじゃなく……姉御は色々と考えてて大変だなぁ。
俺は鼻をほじりながら筋肉を見せて『なんとかなるっしょ』という感じだから……。
姉御みたいな頭脳を持っている人がいると、マジで助かる。
「契約、今のままでも良いっすよ? ぶっちゃけ、借金が有るのか無いのかは知らないですけど……。どうせ教えてくれないんですよね?」
「ああ。私はケチだからな。だが、契約を見直さなくても良いとは、一体どういうつもりだ?」
「いやぁ……。最初はダンジョンに潜っても赤字か、1千円の利益しかないってエグいな~とか思ってたんですけど……。1回目でその日のリース料金さえ返せば――2回目からは、3万円の利益が出るんすよ。俺、まだDランク開拓者なのに」
よくよく考えても、金銭感覚がぶっ壊れる。
これからそれに加えて、動画の広告収入やらスパチャ額が入るんでしょ?
あくまで川鶴さんが試算してくれた結果だけど……。
月に動画の広告収入が1千万円。
俺の取り分だけでも、百万円は見込めるらしい。
広告単価が高いらしいし、再生数もうなぎ登りだから、と。
それに加えてスパチャに、日々の魔石換金でしょ?
もうね……。
姉御が送ってくれた洋服代金と言い、美尊が10万円以上を軽々《かるがる》スパチャするぐらい金銭感覚がバグる理由が、なんとなく分かったよ。
「ふむ……。普通は低ランクだと稼いでも、高価な武装へと消えて行くのだがな……。そこをサポートするのが、低ランクにおける事務所の主たる役割なのだが」
「俺の場合、私服が戦闘服ですからね。素手で戦いますし、武具も天然の物を使うんでなんも要らんですよ」
「御神刀の副作用か……」
姉御は悩ましげに眉を潜めた。
それはそうだろう。
いくら神通力で鎧のようなものを纏えると言っても、だ。
Sランクダンジョンでの経験上、モンスターの攻撃が当たれば普通に出血する。
今は低ランクだから余裕だし、田舎へ遊びに行くようなラフな服装でも問題ないけどさ……。
他の配信者は皆、ドラゴンとかモンスターをハントして作るゲームに出るような装備で、その身を固めてるんだ。
俺の服装、装備や素手は――頭がおかしいと言われても、当然だと思う。
白星を抜ければ、使いたいけどね。
まだまだ、修行が足りないらしい。
「まぁ……。その副作用に関する問題に関しても、脳味噌だけは信用出来る科学者に報告と相談をしておく。金はいくらあっても困るものでは無い。一先ず取っておけ」
「いやぁ……。とは言っても、毎日実働5時間ぐらいで3万円ですよ? 時給にして6千円以上。趣味のダンジョン飯を含めてこれは、もらいすぎですよ。最低時給の6倍近く、それに習い事や実務経験まで斡旋してくれてるのに……」
改めて、待遇が良すぎない?
バイト料金が端金に思えてくる。
正直、もう個人が多少の贅沢で使い切れる額を超えそうです。
姉御が最初、金に苦労させて有り難みと大金の使い道を叩き込んでくれた理由が良く分かるよ。
生活余剰金がありすぎて、危うい投資詐欺とか涙ホロリするような作り話の詐欺に引っかかりそうだもん。
「せめて返済額を加速させてくれません?」
「必要ない。向琉から事務所に入った分は、しっかりと記録してある。再契約も事務所側の取り分は4割程度で良いだろう。1番の恩恵である動画編集や装備品の貸与もしていないのだ。2割を芸能関係の対処も含めたマネジメント料や寮費。残り2割を返済代金にすれば良い」
「いやいや! 俺の取り分が6割って事ですよね!? 他の子より高いじゃないですか!」
「仕方がないだろう。そもそも、向琉には企業勢として与えられるメリットが少ないのだ。個人勢に移行されないだけでも、お礼を言うべきだな」
個人か……。
それって税務にしろ何にしろ、困った時は誰にも相談出来ないんでしょ?
絶対、無理! 何より、俺が寂しい!
「ああ、因みに美尊には新しく装備を与えておいた。私のお下がりだがな。だから美尊への弁済金も気にするな」
「マジッすか」
姉御の開拓者時代のお下がりとは……。
姉御と美尊は体型が近いし、姉御はどんな武器でも使いこなす天心無影流の達人だ。
中には槍だってあるだろうし、モンスターの素材を保管してあれば新たにオーダーメイドだって出来るだろう。
いや……。
もしかしたら、だけど。
開拓者ランクが上がると――防具は分不相応なものを姉御が支給してくれると、美尊が言っていた。
シャインプロに所属している開拓配信者の殆どが、姉御のお下がりか……。
開拓者時代に集めた素材でオーダーメイド防具を作ってもらっているのかもしれない。
或いは……姉御なら、自分で夜な夜なダンジョンへ潜り、所属の娘の防具作成に必要な素材を狩っている可能性すらある。
「いやぁ……。俺も一応、人の世に愛されて生きる天心無影流の宗家の者ですからねぇ……。姉御ほどじゃなくても、事務所の子に還元してあげてください」
「こちらの心配は必要ない。向琉が稼いだ分は、今日のように美尊と楽しむ資金に使え」
「それにしても、毎月数百万円単位……契約によってはそれ以上になるのは、エグいっす!」
「収入が増えて文句を言うな。……大金を稼ぐ開拓者が金をどう使うか、教えただろうが」
「それは……そうなんですけど」
「暫く貯めて、兄妹の住むマンションでも買ったらどうだ? 専業開拓者は賃貸もローンも、保険やクレジットカード審査すらも通らんからな」
「え!? 全てその場にある現金でなんとかしろって事ですか!? キャッシュレス化が進んだこの時代に!?」
「うむ。怪我をすれば、なんの保障もないのが開拓者だからな」
そうなのか……。
確かに、な。
常に死と隣合わせ。
モンスターに襲われて大怪我を負えば――もう稼ぐ術は無い職業だから、当然とも言えるか。
「向琉に関しては、一時的に私に移していた大神家の所有不動産などを戻す手続きを進めているので問題はないかもしれんが……一応な。万が一のケース、やりたい事や、やるべき事が出来た時の為に貯蓄はしておけ。いざという時の弾薬になる」
俺を守る為に、恐らく途方も無い大金を使っただろう姉御が言うと説得力が違う。
それにしても、貯蓄かぁ~……。
確かに――1つ大きなお金の使い道を企んでいるしな……。
目標まで貯めるのは有りだ。
万が一、開拓者を続けられなくなった時の為の保険は――姉御が用意してくれている気もする。
「治癒魔法でどうにもならない大怪我をした時に備えて、姉御は俺に事務仕事や言語の勉強をさせてくれてるんですか?」
「……さぁな。世間が言うように、嫌がらせをしてイビりたいだけかもしれんぞ?」
またまたぁ~……。
本当、素直じゃないよな。
「まぁ……白星を鞘から抜いたら、ダンジョン産の魔石や鉱物を使った最先端機器の殆どがダメになるんですけどね! マルチバース社の最新ドローンが特別丈夫で、助かりましたよ!」
配信ドローンだって、魔石エネルギーを使っている。
外部からの侵襲に特別強いマルチバース社最新ドローンでなければ、あの場で魔素を奪われ配信が途切れていただろう。
「そう言えば今日、白星様は喋らないのか?」
姉御は、俺の左腰で黙っている御神刀に目をやりながら尋ねてきた――。
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