第1話 プロローグ(1)
「――ぇ……」
ひ、光が見える?
しかも……俺が神通力や謎の力で出した光ではない。
これは――まさか、電気!?
い、一体何年振りに目にする電気の光だろう!?
こんな洞窟に、電気が……。まさか、やっと救助が来たのか!? ――10年越しに!?
――どうするのじゃ、向琉? 行って見るか?
脳内に響く声に、俺はどうしたものかと戸惑う。
左腰に佩いた太刀――白星が脳内に直接話しかけて来た『行って見るか?』という言葉にだ。
そこには多分、人が居る。
救助が来たのかもしれない。……でも、突然の事でどうしたら良いのか、頭が回らない!
白星、お、俺はどうしたら良いと思う?
――妾に聞くな! ま、まぁ……人工の灯りじゃろ? 人が居るのは間違いない。まずは観察するのも、1つの手ではないか?
そうだよな……。よし、姿を隠しながら近づいてみよう!
フッと気配を絶ち、俺は自宅――道場の敷地から外を目指す。
10年前、天心無影流の師範であり――俺の目の前で殺されたジジイが張った結界から出る。
ヤバい……。結界が張られた道場の敷地外へ出るのに心臓バクバクで緊張するの――10年振りだわ!
バクバクと拍動する心臓を右手で押さえつけ、俺は洞窟内の岩棚をピョンピョンと跳びながら光に近づく。
――まるで光に群がる蛾のようじゃな。
ねぇ、そういう傷つく事を言わないで?……というかさ、ずっと封印されてたのに、なんでそういう事を知ってるの?
――ふん。ネットじゃ! 妾はズッと、ネットで退屈を凌いでいたのじゃ!
うちの道場の神棚で封印されていた御神刀、封印されてた間にネット使ってたのか……。ネット料金払えよ。どんな端末で見てたんだよ?
光までもう数十メートルという距離へ近づいて来た。
やばい、人の気配がする! 間違いなく電気の光だ!
なんて眩い……。夜の道路を工事している時に使ってたみたいな、あんな光を放つ物体が宙を浮かんでいる。
え、これってUFO?
そのUFOに照らされながら、1人の少女がオドオドと怯えて洞穴の地べたにへたり込み――。
「――い、嫌! こ、こんな終わり方……。だ、誰か……」
槍をブンブンと振り回しながら、後ずさっている。
彼女の前には、俺のご近所に良く出現する野犬――の進化形みたいな、5メートルぐらいある野良犬……まぁモンスターがにじり寄っていた。
――ふむ。モンスターに襲われておるな。見た所、向琉を助けに来た救助隊じゃないようじゃ。
そうみたいだね。それぐらい、俺にも分かるよ。でもさ、なんでこんな所に武装した少女が居るの?
――向琉と一緒に洞窟へ飲み込まれた妾に聞かれても……。取り敢えず、助けて恩を売るか?
言い方ぁ……。でも、そうだなぁ……。弱肉強食って言葉があるし、自然界で捕食して捕食されてを邪魔するのはちょっと……。見た所、武装もしてるから狩る覚悟もあったんだろうしなぁ。
狩るなら、狩られる覚悟もしないと。
俺も10年間――命を狩って、狩り続けて……命の大切さを文字どおり噛み締めて来た訳だしな。
〈逃げて! こいつ、未確認のモンスターだ!〉
〈ヤバいヤバいヤバい! 誰か助け行けって!〉
〈無茶言うな! トラップで深層に飛ばされたのを助けに行けるかよ! 多分、危険度S級の深層だろ!? ここ!?〉
〈開拓者が死ぬとこ見たくないからシャインプロ所属の子を追ってたのにいいい〉
ひ、人の声が沢山、洞窟内に木霊するけど……。その姿は見え無い。なんか左手に巻いてる光る腕時計みたいな物から、機械音声が流れてる……?
ああ、同じ人間という種族の情からか、助けたくなる。でもなぁ、自然の摂理に反してるんだよなぁ……。
〈那須涼風:オーナーとマネージャー社長に聞いて来た! 逃げて、死なないで! まだ一緒に開拓者やりたいよ!〉
「す、涼風……」
機械音声から人の名前らしき言葉が流れると、少女がハッとした表情に変わる。
〈ああ、同じ『トワイライト』のメンバーが……〉
〈やべぇ……。アイドルグループ同士の絆が……〉
〈もう無理、俺は落ちる! こんなの見てられないって!〉
〈きついきついきついって〉
狼狽し、まともに槍を振れていなかった少女が――ゆっくり、立ち上がった。
おお、根性ある少女だなぁ……。頑張れ、そのモンスターはそんな強くないからな!
俺はグッと拳に力を込め見守る。
応援を決め込む事にして岩へ腰を降ろし――。
〈旭深紅:よく立った、美尊! 今からウチらも『冥府行きのダンジョン』に向かうから! 諦めないで!〉
「涼風、深紅……。分かった、私は諦めない」
ギュッと槍に力を込め、構える少女。
というか……え? 今、美尊って言った? 俺の妹――ジジイの養子になる前、一緒に暮らしてた妹と同じ名前だ。血の繋がってる可愛いマイシスターと。
最後に会ったのは10年前、6歳だったか。……似てる。美人だ。でも――瞳が碧い。髪も後ろの一部が淡い青色に染まっている。美尊は黒髪黒目だった。違う人……だと思う。
でも……美尊が成長してオシャレをしたら、きっとこんな美少女に――。
「――こんな所で死ねない……。行方不明のお兄ちゃんを見つけられるように、私は強くなるんだから!」
お兄ちゃん。
その言葉を聞いた瞬間――勝手に身体が動いていた。脊髄反射のように。
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