10「お迎え」
双方の息が上がりだし、部屋が震度八レベルに見舞われた体を醸し出した頃、届睦にとっての救世主が現れた。
戦士達にとっては、無粋な邪魔者であったが。
「《運び屋》、《護人》、やめなさぁい!」
よく通る甲高いソプラノ。
その声に反応して動きを止めたのは永仁のみで、美護の回し蹴りは遠慮なくがら空きになった脇腹を直撃した。
形容しがたい、重い音が響く。
「おふっ!」
「えっ! 嘘!? 何で止まらないのぉ!?」
「あらあら。永仁、大丈夫かしら。もう若くないのに無理するからよ」
《命令》が下されたことを悟った届睦が視線を向けた先には、大小二人の女性の姿があった。
眼鏡美人と、ロリ系女子高生。
もとい、《代筆屋》と《薬屋》だ。
美護が不用心にも鍵をかけ忘れたのだろう。平然と侵入を果たしている。
「何だ、揃ってぞろぞろと」
お楽しみを邪魔されて不機嫌な美護が、眼光で一喝する。
たんぽぽは怯えて筆華の背後へ避難したが、筆華自身はやんわりと上品な笑みを返す。
「いけませんよ、美護。仲間同士で争っては。我らが長も、大層怯えておいでのようですし、ねぇ?」
「はぁ、まぁ、その……」
同意を求められても困る。届睦は顔を赤くして、口ごもった。
「永仁、あなたもいけません。長のお迎えを頼んだのに、ちっとも帰ってこないじゃないですか。心配になって見に来てみれば……もう」
腰に手を当てて溜息を吐く仕種も、また優美であった。
おっとりと諭す姿は、幼いたんぽぽを背にして母のようであった。しかし、今諭している相手は、彼女の子供と言うには少々年齢が行き過ぎている。
「面目ない」
四〇年前は子供だったオッサンは、ばつが悪そうに頭を掻いた。
そこにたんぽぽが、無邪気に追い打ちをかける。
「永仁さんてば、普段から大人気なさげ過ぎなのに、こんな暴れるなんてホントに大人気ないんですね。有り得ない有り得ないですよッ♪」
「何だと、ぽんぽこ」
永仁は、度々「ぽんぽこ」と言って彼女をからかった。
「たんぽぽ」と響きが似ているからという理由だが、年頃の女の子が喜ぶはずもない。
「次ソレ言ったら、硫酸ぶっかけてドロドロシェイクにしちゃいますからね☆」
無邪気な笑顔を保ったままでも、彼女からは確かな殺気が滲んでいた。むしろ、笑顔が残忍さを引き立たせている。
「お迎え、って言いましたね。どういうことですか?」
《死近道》で唯一まともに話ができそうな相手――筆華に問いかけた。何とか、この混沌とした空気を抜け出したい意図もある。
届睦の心中を知ってか知らずか、彼女はにっこりと微笑んだ。
見ているだけで和む暖かさ。この荒廃した部屋の中では、尚更だった。
戦場に舞い降りた女神、といった所か。
「はい、お迎えに上がりました。我ら《死近道》の城、自殺者養護施設《紫菫堂》へご案内致します」
女神に見えたのも束の間、彼女が死神に見えた。
本日二話目です。
筆華とたんぽぽ登場(^^)/
筆華は、ひたすらおっとり美人さん。虫も殺さないような顔して、笑顔で殺しちゃうタイプです(笑) 《死近道》のお母さん的存在で、何気に最強。
たんぽぽは、ブラック少女。基本キャッキャした感じのテンションで、軽くウザいです(笑)語尾に記号付いちゃったりして。
作者オンナノコ好き(妙な性癖はありません)なので、割とお気に入りなキャラだったりします(*^^)v
次回、《紫菫堂》に舞台が移ります。
乞うご期待☆
「みてみん」に「シキンドウ」のイメージイラストをアップしました!
かなり拙い出来栄えですが、よろしければ覗いてみて下さい<(_ _)>