表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

サイレント・ダイアリー

作者: 吉川 マサ

序章:怪物


―7年前、何の予兆もなく日本の大都市の上空に亀裂が入った。


通行人達はそれに気付くやいなやカメラのレンズを空に向け、SNSに掲載する用の写真や動画を撮り始めている。


いつの間にかテレビ局が取材やライブ中継をしに、続々と集まってきた。


『こちら東京都朝垣区です!緊急事態です!空に亀裂が入るという摩訶不思議な現象が起こっています!』


…と、とあるテレビ局の女性レポーターが焦燥と恐怖に駆られている声でカメラに向かって訴えている。  


そしてしばらくすると、写真を撮っていた通行人の1人が亀裂の中の異変に気付く。


「何だあれ…足?」


そう、亀裂から出てきたのは人間の足だった。


否、足だけではない。腰、胴体、腕、肩、そして頭と順番に亀裂からゆっくりと出てくる。


女の子だった、制服に身を包み、スカート、ソックス、ローファーを身につけた普通の女子高生だった。


この異様な光景を見た通行人達は全員困惑の表情を浮かべている。


何故、亀裂から女子高生が…?


何故、ずっと空に浮いていられる…?


何故、表情がピクリとも動かない…?


そもそもあの子は人間なのか…?


…などと様々な疑問が通行人達の頭を駆け巡る中、亀裂から出てきた少女はゆっくりと下降し、1番近くにあった高層ビルに降り立つと、上からこちらを見下ろしている。


表情は全く変わらないし、瞬きもしない。


そんな彼女に通行人たちは再びカメラを向ける。


怖いもの見たさだったのだろうか、それとも亀裂から出てくる少女という稀有な出来事を動画にし、投稿することで有名になりたかったのだろうか、はたまた危険を知らせたかったのだろうか。


どちらにせよ後にこの行動は悪手だったと通行人達は思い知ることになる。


…10分後、通行人で賑わっていたそこはシンッと静まり返っていた。


地面に落ちていたテレビカメラのひび割れたレンズに映っていたのは、無惨に血だらけで倒れている人達と、その中心に立つ1人の少女の姿であった―


第一章:幼馴染


七年前のあの日から、この世界は変わってしまった。


毎日毎日怪物が出るかもしれないと恐れながら過ごす日々。


戦闘音、焦げた匂い、ボロボロの建物がそこら中にある日々。


そしてそれが「日常」となっていること。


少年―「神異(かみい)零飛(れいと)」はそんな街の中を走っていた。


それは彼にとって日課だった。


怪物がこの街を破壊したあの日以来続けているランニング,直接的には関係ないかもしれないが強くなるために継続してること。


そして彼はいつもと同じペースで同じ場所からスパートをかけグングンとスピードを上げていく。


到底、普通の人間では()()()()()()()そんなスピードで。


彼には一緒に暮らしている女の子が要る。いや、それを女の子と言って良いのか、ましては人間と言って良いのかは分からない。だが、茶髪ロングにスレンダーな体、ポーカーフェイスを崩さない彼女は見た目だけは女の子である。今日もランニングから家に帰ると玄関でタオルを持ち待っていてくれた。


「お帰りなさい。今日は昨日より1.32秒速かったね。」


いつものようにいやに正確な数字を提示してくる。


そしてそれを彼女は外したことが無い。実際スマホのタイマーを観るとしっかり合っていた。


「相変わらず凄ぇな」


「?…あぁそうだね。()()()()()()()難しいかもね…あの怪物(ひと)以外は」


「あいつは一応人間だよ・・・確かに化け物だけど」


ははっと失笑しながら席に着く。テーブルには完璧な朝食が置いてあった。


「ご飯作ってくれてサンキュな。さ、食べようぜ」


「手を洗ってきてください」


彼女の冷静な突っ込みにまた苦笑しつつ、いそいそと洗面台へと向かったのだった。




学校へ行き、廊下側一番後ろの席に座る。誰も話しかける人はいない。


何故なら、昨日転校してきたばかりで見事に皆の輪に入ることに失敗したからである。


どうしたものかと頭を悩ませていると隣の席の女の子が話しかけてきた。


「おはよう」


「おお...おはよ」


...昨日はこの席には誰もいなかった筈だ。


茶髪と黒髪の間?の髪を背中くらいまで垂らし、背丈は自分と同じくらいだろうか上はこの高校指定の制服(男女同じ)なのだがこの子は下もスカートではなくズボンだった。


いや・・・このくらいはまだ許容範囲だろう。そこからもう一度最初から確認しようと襟の部分まで目線を上げたそのとき、


「ねえ」


という声が聞こえジロジロ見ていたことがばれたかと思い硬直した・・・がここで彼女から思いもよらない言葉が投げかけられる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「・・・・・・・は?」


間抜けな声が朝の教室に響き渡った。




「・・・つまり俺たちは昔あったことがあると?」


昼休み屋上に呼び出され先ほどの隣の席の女子に話を聞いたところどうやら俺たちは昔あったことがあるらしい・・・全然覚えていないのだが


「そうよ。あんなことが起こったっていうのに覚えていないっていう方がおかしいと思うけど」


そんなこと言われても本当に覚えていないのでどうしたものかと考えていると、


「はぁ...まあいいわあんなことを覚えていないとなると、何か理由がありそうね。なんでもいいから私に話してみて頂戴」


・・・「話してみて頂戴」と言ってくれるのはうれしいが誰かも分からない人に素性を話しても良いものかと悩んでいるとまた「はぁ・・・」というため息が聞こえてくる。


「まあ、私を覚えていないってことは私にとっては知人でもあなたにとって私は赤の他人だものね...」


彼女は少し悲しそうな顔を浮かべるがすぐに優しい笑みをつくり、俺のことをまっすぐ見て


「ねえ、一緒に帰らない?あなたは覚えていないけれど私は久し振りにあなたに会えてとても嬉しいの。」


そこで彼女は少し下を向き、「だから・・・」と続け、ばっと顔を上げてこう言った。


「軽くおしゃべりでもしながら帰りましょう?私のことも・・・教えてあげるから」


この誘いを拒否することはー出来なかった。


綺麗な涙を流すその顔には嘘偽りなど一切ない。


間違いなくこの子は優しい人なんだ。


そうおもってしまったから。




その後教室まで荷物を取りに行き、彼女と一緒に学校を出た。


彼女の名前は「花乃 美香(はなの みか) 」というらしい


昔から俺のことを知っている所謂幼馴染というやつであまり人づきあいが得意ではなかった彼女が唯一心を開いていたのが俺だけだったと教えてくれた。


しかし―「あの日からあなたは私の前から消えた。サヨナラも何もなく急に」


あの日というのは7年前の「怪物が現れた日」のことであろう。


彼女はその後も昔から今についての話を続けていく。


俺がいなくなり心を許せる友達がいなくなったこと。


世界に絶望し、俺がいなくなった要因を作った怪物を恨みここまで来たこと。


やっと念願が叶って今日、俺に会えたこと。


なかなか口が回らず緊張と期待を込めて俺に話しかけたこと。


俺が何も覚えてなかったこと。


といった彼女の経歴に加えて、


これまでの日本のこともー


あの日現れた怪物にはただの人間では太刀打ちが出来ないことが分かったため、政府が人間を使い怪物を止める方法を検討したこと。


そして、それが成功してしまったこと。


「政府は大量の専門家、研究員を集めて人間の限界を超える力を人間自身の体で創ることのできるワクチンを作ることに成功したわ...でも」


「でも?」


「確かに成功はしたけど成功例、つまり人間の限界を超える能力を手に入れた人間はほんの一握り、成功はしたけどその裏にはとんでもない量の失敗があったってオチ」


「なるほど...失敗したってことは健康的に被害があったってことか?」


「いいえ、それに関しては全く問題はなかったのよ。普通の人間が普通の人間になったってだけ。だけど成功した人も怪物に勝る程度にはなっていない人がほとんどで、人と見るならば確かに凄い逸材にはなったんだけど人の範疇に収まってるといった感じね」


納得した。しかし同時に疑問も湧いた。


「美香はどっちなんだ」


この子はその一握りの中の一握り「()()()()()()」なのだろうか。と


もし、そうならばー


「私はー」


美亜はそう切り出すと制服の襟元、左胸辺りに付いているバッチを強調させて


「私はナンバー5。つまり、選ばれた者達(ナンバーズ)の一員なんだ。」


はにかみながらこう言った。つまりー




今日俺が、7年ぶりに再会したという幼馴染は世界最強のメンバーの1人だった。




第二章:選ばれた者達


選ばれた者達(ナンバーズ)


怪物が現れてからというもの、政府は犠牲を減らし、尚且つ怪物を食い止める。その為に研究を重ねて


人間を強化するためのワクチンを生き残った全国民に打つよう指示した。


結果、これが一応成功した。約半数が人間の限界をぎりぎり超えるレベルの力を持った。


だが約半数は失敗。普通の人間のスペックのままだった。


よって人間は人間のスペックギリギリまで能力を上げたAランクの人間と、


ワクチンを打っても何も変化が無かったBランクに分かれた。


―だが実際には違った。


Aランクのもう一段上Sランクの人間が現れたのである。


しかしそれは未だ確認されているだけでも20人。


この神から選ばれた20人は何人か欠けてしまってはいるが今ではこの国の中心だ。


「んで、7年ぶりに再会した幼馴染が()()になっててしかも‘’5番‘’だった・・・と」


「ああ」


美香とあの後分かれた俺はとあるモニタールームに来ていた。


俺の幼馴染が5番目に強い人間だったことにはすごく驚いた。


まさかこんなにも早く()()()()選ばれし者たちナンバーズに会えると思っていなかったから。


「いやいやもう会っちゃったのかこれは予想外だったな」


「あの子と会っちゃなんかまずいことでもあったのか?」


「うーん・・・まあそんなに気しなくてもいいよ。逆に気にされると面倒だ」


「はぁ」


めちゃくちゃ気になる言動を繰り返すこの人は一応、俺の上司であり恩人でもある。


「いい加減名前教えてくださいよ」


「嫌だね。私のことは’’ボス’’と呼べと何回いったらわかるんだい?」


名前を何故か教えてくれないこの人も選ばれた者達ナンバーズの一員であり、ナンバーは13である。


その証拠にこの人のスーツの襟元の左胸辺りにも選ばれた者達ナンバーズのバッチが光っていた。


身長は俺とそんなに変わらないくらいで、髪は黒髪ショートカット、シュッとした輪郭にいかついスポーツサングラスが特徴的な20代前半くらいの女の人でめちゃ威圧感あって怖い。


そして、おれと一緒に住んでいるあの子を創った張本人である。


見た目だけは女の子のあの子を。


そして、俺は隣にいるその子を一瞥すると彼女はおもむろに話し出した。


「ボス。私まで呼んで何の用ですか」


「ああ、カノンやっと来てくれたね。来てくれないかと思ったよ」


「...?」


名前を呼ばれた彼女は首をコテンと傾けると俺の方に目線を送る。


「マスター。私の名前はカノンというのですか?」


彼女は自分の名前を初めて聞いたらしい・・・確かに今までよんだことが無かった。というか俺も名前を初めて聞いた。


「俺も初めて知ったけどボスが言うならそうなんだろ」


「絶対今考えましたよね」


「だろうな」


俺たちが耳元でぼそぼそと言っているとそれが聞こえたんだか聞こえていないんだかボスが「んんっ」


と咳ばらいをし、話を続ける。


「喜べ諸君!私の働きのおかげで少年、君の選ばれた者達ナンバーズへの昇格試験の参加が認められた!」


「おめでとう!!」と言いながらパチパチと叩く手と共に唐突に発されたその言葉に驚いた俺はついテンション高く確認の言葉を返す


「本当ですか!?」


ボスはにっと笑い


「ああ、本当だ」と強く答えた。


するとすぐに


「ボス。どんな条件を出したんですか」


カノンが間髪入れずに聞いていく


...確かに()()()()()()()俺が何故最強のメンバーに入るための試験を受けられるのか、


()()()()()()()()()()


「ああ、もちろん()()()()()()


「...どんな条件を?」


カノンが再度聞くとボスは、ふうっと息を吐いてから答える


「1つは私が戦闘時に街の破壊個所を少なくするために開発した領域・・『マジックルーム』とでも言おうか、それの実験テストも兼ねること。そしてもう1つは・・・」


「もう1つは?」


ボスは少し下を向くがすぐに意を決した顔で真っすぐに俺たちに向かいあい、こう言った


「ーもし、少年、きみがこの昇格試験に失敗した場合は


()()()()()()()()()()


ナンバーズから始末されること。」


「は?」


ーそんな間抜けた声しか出なかった。


そんな危険な賭けをこの人は了承したのか。


「当たり前だろう?私はこの国でも最上級に危険であり、最上級に使()()()()そんな私が推薦するナンバーズに匹敵するかもしれない存在...私をノーリスクで消すのと同時にその手下まで消せるあちらの思惑としては一石二鳥以上の価値がある。」


「...っ!!だからって!」


確かに彼女の訓練は厳しく、Bランクにも関わらず俺は確実に普通の人間のレベルは超えているが、元は‘’欠陥品‘’なのだ。


が、


「了解しました。」


なにを考えているのか隣にいる少女は間髪入れずにそれを了承した。


「試験は一週間後、場所はナンバーズが所持している特設訓練施設だ。時間はPM4:00


 しっかりと準備しといてくれ」


それだけを言い残しモニターに向きなおったボスはこれ以上一言も発さなかった


かくして、俺にとって千載一遇のチャンスは、これ以上ないという程高い壁と共にやってきたのである。




「なんであんな賭けを了承したんだ」


あの後結局、試験のことに俺はなにも口出しできないままカノンと自宅へ戻っていた。


そして、晩御飯を食べながら聞いてみた。


何故、あんな危険な賭けに乗ったのかを


考えてみればおかしいのだ、彼女はいつも冷静であり色々な物事を常に的確に対処してくれる、ものすごく頼れる存在だ。


そんな彼女がこんな賭けに乗るなんて何度考えてもおかしいのだ。


カノンは茶碗に残った最後の一粒を食べ、ゴクンと飲み込んだのち口を開いた


「結論から言ってしまうと勝てると思ったからです」


―驚きの答えが返ってきた。


「きちんと説明しますと、もしあなたが負けてしまって私が殺されたとしても、私は造りなおせます。私は生き返れます。私は人間では無くどちらかというとアンドロイドに近いから・・・あとボスは多分賭けに負けても死ぬ気はサラサラありません。彼女のナンバーは13番ですがこれは実績がほとんどないからであって彼女の能力は最強です。つまり―


‘’あなたが負けても死ぬのはあなただけ。‘’


そう彼女は言う。


言葉を失っていると、カノンは「でも、」と話を続け、


「私はあなたが負けるとは思わない。」


はっきりとそう言った。


その一言は俺にとってとても大きい


彼女の言っていることは大抵当たる。


今まで彼女の言ったことはほとんど現実になってきていて、俺は何度もそれに救われてきた。


俺はいつも彼女に頼りっぱなしだ


「お前がそう言うんなら、そうなるんだろうな」


俺がボスに拾われた時からずっと彼女は傍にいた。傍にいてくれた。最も信頼できる彼女がそういうならそうなのだろう。


そう思い込むことにした。


第三章:全てが変わった日


―その日、日常の全てが変わった。


といってもその時は日常が変わった瞬間だったのでそんなことはまだ頭をよぎっていなかった。


いや、そもそもそんなことが頭をよぎる余地さえ無かった。とも言えるだろう。


未曽有の大災害、「怪物」の出現。そんなことが起こるなんて誰も想像していなかった。


対策のしようがないこの出来事は人々を混乱させ、ただ怪物の発生源から一歩でも遠い場所へ逃げる。


そんな誰でも思いつくような判断でしか人は動けなかった。


しかしこれが逆に功を奏し怪物の周りから人の影はいなくなり、戦闘機などでの総攻撃が実施された。


結果は―失敗。


倒したかに思えた怪物は反撃を開始し戦闘機をことごとく返り討ちにする。


その結果を踏まえ政府は何とかこの怪物を止める事の出来得るものはないか模索した。


しかしそんなものは無かった。()()()()()()()()だが。


つまり裏のルートには止めることのできるものがあった。


それが禁断の研究、人間自身を武器にする―といったものだった。


もうなりふり構ってはいられなかった。


政府はその団体に協力を仰ぎ、団体がそれに合意するとあの手この手を使い急ピッチでこの研究を進めた。


かくして二週間ほどでワクチンができ、破格の報奨金と共にこのワクチンを試すことの出来る者を集め、健康被害が無いことを確認すると、一か月もした頃には一般市民への投与が開始された。


―奇跡という他無かった。


今のところたった三例だが、明らかに人智の超えた人物が現れたのだ。


今、この瞬間も怪物がこの世界に存在している。こんな状況なのに自分の国にこの怪物が来られてはたまらない諸外国は日本への渡航を禁止したりとこの国は明らかに世界から捨てられつつある―


そんなことは許されない。


この中で唯一怪物を絶対的に倒せる確信がある能力者を現地に政府は送り込んだ。


かくしてそのたった一人の()()()()()は怪物と相対し、見事に勝利を収めることとなる。


そして彼女はこの国の英雄になり、人を遥かに超える能力を持った彼女に逆らえる筈もなく政府は彼女の只の駒へと成り下がることになった瞬間だった―


第四章:4月19日


「...なんでここにいる?」


今日は昨日ボスに言われた編入試験のことについて人が来ない場所で昼食でも食べながら考えようかと思っていたのだが、そこにまさかの先客がいた。


「ここの学校のセキュリティーは緩いですねマスター」


「なんでここにいるってきいてるんだよ」


「試験のことについてもう少し聞きたいのではないのですか?」


「..っ」


その通りだった。今回の試験について場所と時間は言われていたがどのようなことが行われるのか一つも知らない。秘匿事項だと思っていたのだが―


「時間と場所以外の事の対策を考えたかったのでは?」


「ぐう...」


「ぐうの音はでるのですね」


「うるせい」


こいつはどこまで俺の思考を読めるんだ。と驚愕しているとカノンは持ってきていたタブレットを俺に渡してきた。


「...どうやら街の一角を貸し切りそこに潜ませているロボットを全員シャットアウトすれば良いというものです。」


「ロボットは何体いるんだ?」


「分かりません。そしてどのくらいの強さなのかも分かりません。・・・が手強いことは確かかと。」


苦戦を強いられることは重々承知していたが、タブレットに載っていた「選ばれた者達(ナンバーズ)昇格試験過去合格者人数」の欄を見て絶句する。


「0人」


「まあ、当たり前と言っても良いかもしれませんね。今まで昇格試験に挑んだのはAランクの10名のみ、


しかもAランクと言っても人間の限界の枠からは出ていないわけでロボットを一体も倒せず終わった人もいるようです。」


「...不合格、ロボットを倒せないとどうなるんだ?」


「その場で殺されます」


さも当たり前のようにカノンは言い放つ


「...よく問題視されなかったな」


「まぁ今この国の中心は選ばれた者達(ナンバーズ)なので」


それにしても酷いが、それくらいしないとこの国を守れないのだろう


「今回の試験を合格すれば上の指示を仰がずとも戦闘が可能となります...私達の理想や目的にも一歩近づくことになるでしょう」


Aランク以下はSランクつまり選ばれた者達(ナンバーズ)の指示を仰がないと戦闘が許可されない。


無駄な犠牲を少なくすることが最大の理由とされているが本当の所はどうか分からない


「とりあえず私が得られた情報は以上です。その先は厳重にデータが保護されてるか、もしくは...」


カノンが急に黙り込む


「どうした?」


「...いえ、なんでも。それより今からここに例の幼馴染(仮)が通ります。彼女は選ばれた者達(ナンバーズ)ですが、この試験には一切関わってないようですのでくれぐれも口外せずにお願いします」


では、とだけ残してカノンはその場を去った。


その後、数十秒後本当に彼女ナンバー5は来た。


俺が「ども」と一応挨拶すると


「「ども」じゃないわよなんであんたはお昼休みになるといつの間にかどっかに消えてこんなところで

ぼっちめししてんのよ」


と返ってきたので、カノンの事を伏せるために


「一人の時間が少しは欲しいんだよ」


と適当な返答で返すと


「そんなの教室でもそうじゃない」


...ごもっともなカウンターが返ってきた


美香はため息をつきながら


「まあ、いいけど」と言った後、おもむろに「今日の放課後空いてる?」と聞いてきた


唐突だなと思いつつも「空いてるよ」と返す


「なら、今日私と、放課後デートをしましょう」




「おやおや、これは面白いことになったなーw」


電話の先でボスが笑いながらそう言い放つ


「笑い事じゃないですよ」


「いやいや、君が女の子とデートとか笑うしかないだろう?それもあんな美人なうえにナンバー5の娘だぞ?どうなるか楽しみで仕方ないね」


電話の先でまたも笑い始める。どうやら本当に俺が女の子とデートするのが可笑しいようだ


一定時間笑い続けた後、ひーひーと息を切らしながら電話の先の上司は「・・・で?」と問う


「私にデートをする報告をしたのは何か理由があるんだろう?ただ自慢したかっただけならそれでもかまわないがそんな事をしたら今の様に爆笑されるだけで終わってしまうしねぇ」


「ええ」


確かにその通りでこんなお調子者の上司にこんないかにもネタになるような話題を進んで提供しようとは誰だって思わない。


ただこれは普通の女の子にデートに誘われただけならばの話だ


だが今回はー


「分かっている。監視が欲しいのだろう?君は確かに選ばれた者達(ナンバーズ)を目指しているが、まだなってはいない。それなのに選ばれた者達(ナンバーズ)の彼女にましてやナンバー5とタイマンはいろんな意味で危険と判断するのは別におかしいことではないからね。とりあえず位置情報はONにしといてくれカノンにも私にも分かるようにな。まあ、今回はそれくらいの対策さえしとけば滅多なことは起こらないだろう」


少々心もとないがこの人が言うなんだからそうなのだろう。と考え了承しようとするが一つの疑問点に気づく


「カノンにも位置情報が分かるようにしなければいけませんか?」


「それはそうだろう」


「なぜ?」


「君ならなんとなくわかるだろう」


それを聞いて、はと気づく。この人はこの世界でもかなり恐れられている能力がありながらナンバーは13番。このナンバーというのは能力の危険度+それがもたらした貢献度で大体は決まっているらしい。つまりボスは貢献度の所でマイナスされている部分があるのだろう。


理由は分からないがある日突然外に出なくなったらしいもしくは()()()()()()()・のかもしれないが。


ともかく


「ボスが直接何かあったときには手を貸すことが不可能だからカノンに近くで監視してもらうってことですか」


「...いやまあそうなんだけど、そうじゃないというか」


「え?どういうことです?」


電話の向こうでため息が聞こえてくる


「まあ、もういいやそれで。ともかく位置情報はしっかりね」


少しボスの言葉が引っ掛かったがもうすぐ昼休みの時間も終わってしまうため、ここは素直に「了解」とだけ返すことにしておいた。




それから数時間後俺は''ナンバー5''{花乃美香}と共に学校を出て、街を歩いていた。


先ほどから美香は何もしゃべらない


ただただ俺の隣を突かず離れず歩いている。


「...それでどこに俺を連れて行くんだ?」


俺がそう質問を投げかけても、


「内緒」


とだけ返ってくる。


そして二人してただ無言で歩くこと数十分・・・着いたのはとあるマンションの前だった。


「着いてきて」


美香は慣れたようにマンションの中に入る。俺もそれに続く


そして美香が立ち止まったのは5階の1番左側の部屋、501号室の前だった。


「ここは私の家。この中にあんたと写った写真とか思い出の詰まった物がいろいろある。まだ私が幼馴染なのかどうか疑ってそうだから連れてきたのよ。」


...図星だった。


とはいえ記憶がない俺にとってこの子が本当に俺の幼馴染かどうか確かめる良い機会でもあった。


受け答えが無いことを俺が不満に思ったと捉えたのか「なに?おうちデートは不満?」といってきた美香をなだめ彼女の家の扉を開けてもらう。


中に入ると女の子の部屋...という感じはなく生活感がしっかりあるまさに一人暮らしという部屋だった。全てがきっちりしている訳ではないが、最低限のシンプルな色の家具がきれいに置かれつつも、その家具はしっかりと使われている痕跡があり、普段から丁寧にこの部屋を使っているんだなという印象だった。


「こっちよ」


美香が奥の部屋から手招きをしてくる。


その部屋に行くと目に飛び込んできたのは、


()()()()()だった。


そう、普通の部屋...


(キモチワルイ)


最初に思った事はそういう感情だった。


初めて見ることになる部屋なのになんだか馴染みがあるような、どこに何があるか分かるような...


...いや、それよりも


部屋の真ん中にある机の上にあるアルバム


「ここにあんたが私の幼馴染だという証拠があるわ」


美香が机にあるアルバムを指さす


これを見れば彼女が本当に自分の幼馴染なのかは解かる


...が


「見たくない」


気付いた時はその言葉を発していた。


なぜかは分からないがこれを見てしまうと全てが終わってしまう気がした。


「...そう」


美香はそう言うとアルバムを持ち上げ、開く。


暫くしてそれを閉じて本棚に戻す。


「それじゃあこっちはどう?」


そう言った美香は本棚から一冊のノートを取り出し、机の上に置く。


「これは?」


不思議とコレには嫌な感じは全くしない。


「当時の日記よ。これでも私が幼馴染かが分かると思うわ」


つまり、このノートは仮に俺と彼女が幼馴染の場合、当時のエピソードが書いてあるのだろう。


俺はそのノートに手をかけ、1ページ目を開く。


そこに書いてあったのはー


4月19日。()()()()()()()だったー




目覚めたら目の前に広がっていたのは知っている天井だった。


「おはようございます。マスター」


ただ、家ではない。ここは-


「やあ、やっと起きたかい」


「ここはどこですか」


「まだ寝ぼけているのかい?ここは私たちのアジトの一室じゃないか」


言われてみて見渡すと確かにアジトの一室、昨日来たモニタールームだった。


「やはり、監視させて正解だったね。」


「なにがあったんですか?」


正直、俺はなんでアジトで寝転んでいるのか覚えていない。


その状況を察したのかカノンが間髪入れずに返答する。


「ナンバー5 花乃美香の自宅を出た後、公園へ移動、おもむろにベンチに座り、そのまま動きませんでしたので、緊急事態と判断、ここに搬送してきました。」


「は?」


「もう一度説明いたしますか?」


「いや…」


覚えていない。覚えていなかったのだ。公園に行った事、ベンチに座った事、ましてや()()()()()()()()()()()()()


俺が必死に頭を巡らせていると


「どこからだい?」とボスに聞かれる。


「どこからとは?」と返すとひとつ溜息をつき、


「どの場面から覚えていないか聞いたのさ」と再度俺に聞いたきた。


どこから?どこからだ?分からない。今日の記憶全てが分からない。


困惑し、狼狽した俺の様子を見て何かを察したのだろう。何も言わずボスは別室へと移動した。


俺はその場に残ったカノンに唯一俺が昨日の記憶の中で覚えていることを話す。


「なあ」


「はい。どうされました?」


「おれが倒れた日って4月19日だよな」


そう4月19日。その日付だけは俺の頭の中にしっかりはっきり残っている。


これは確実だ。念のため、分かり切っていることを聞き、そんなの当たり前だろというような返答をされることで人は安心できる生き物だ。


しかし、彼女は疑問を持ったような目で俺を見る。


そして、


「いいえ、マスター。あなたが倒れた日時は4月20日です。4月19日ではありません。」


と思いもよらぬ答えを返した来たのだ。




第五章:記憶


翌日、つまり4月21日。


今日も今日とて俺は学校に行く。


その途中でー


「おはよう」と声をかけられたので顔を上げると


花乃美香がそこに立っていた


昨日ーいや、正確にはおとといだろうか。この子の家に行った後からおれは少しおかしかったらしい。


警戒しながら「…ども」とだけ答える


そこでふと気づく


(俺はあの出来事が4月19日にあったことだと認識していたが、この子はどうなんだろう)


そんな考えに至った俺は彼女に向かって問う。


「なぁ、おれが君の部屋に行ったのって4月19日だったっけ?」


これで何らかの反応が観れれば…と思ったのだが


「何言ってんの?来たのは昨日でしょ?4月20日でしょ?」


彼女は何を当然のことをといった様子で聞き返してきた。


「じゃあ、あの日どんな事を俺と喋ったんだ?」


「なに?昨日の事なのにもう忘れたの?呆れた。私たちが幼馴染なことを証明するためにいろいろ写真とか見せたのに」


美香は不機嫌そうな顔でこちらを見る


「忘れたのならもう一度私の家に来る?」


あぁ。と了承しかけたその時


「…それは無理そうね」


と美香が半眼をつくりながら言ってきた。


何故と問う前に美香は俺の後ろを指さす


「あの子、あんたのツレ?だとしたら早くなだめてきてくれない?」


美香が指さした先に居たのは、人間では無い少女、カノンだった。


すっごい形相で俺・・・ではなくその隣にいる美香を睨みつけていた。


俺は慌ててカノンに近づくと


「なんでこんなところにいるんだよ」


と半眼を造りながら耳元でささやく


すると、


「マスターにどうしても伝えなければならないといけないことがあって後をつけていたのですが、あなたを危険な目にあわせたと思われる幼馴染(仮)を見ていると怒りがふつふつと、ええふつふつと湧いてきて今すぐにもぶっ「よーし分かったそれ以上は言うな」


今のカノンが単体で美香に挑んだとしても勝てないのは火を見るよりも明らかである。俺は遮るようにその発言を止める。


「それで、どうしても伝えたい事っていうのは何だ」


カノンは美香を一瞥してからこちらの方を見て口を開く


「本日選ばれた者達(ナンバーズ)が何かしらの動きを見せると先ほどボスから連絡が入りました。」


「...っ!?」


選ばれた者達(ナンバーズ)が今日動く!?


「なんで今日なんだ?しかもそんないきなり」


「本日選ばれた者達(ナンバーズ)にとっての敵が現れるそうです。ボスから来た情報なのでまず間違いないかと」


「なんで敵が来るなんてわかるんだよ」


「...知りませんよ。ボスにでも聞いてみればいいじゃないですか」


兎に角...とカノンは続け、


「あなたのやるべきことはナンバー5、花乃美香の監視です。」


「美香の監視をすれば良いのか?」


「そうです。選ばれた者達(ナンバーズ)の誰が出撃するかまでかは分からないらしいので、あなたが一番近くにいる彼女を見張って欲しいとのことです。まぁ私は本当はあの危険人物の近くにあなたがいること自体反対なのですが...」


カノンは一通りぶつぶつと悪態をつくと、こう続けた。


「『花乃美香の近くに今日1日ずっと居続けろ。面白いものが観れるかもしれない。』...ボスからの伝言です。」




それからというものカノンは不満げにその場を後にし、俺は美香と一緒に登校した。


カノンの事をいろいろと聞かれたが何とかはぐらかし、今は昼休み。


いつも通り1人で食べようとした(大抵、美香がそれに後からついてくる)が、今日は俺から飯に誘う。


美香は初めて俺から飯に誘ったことに驚きもせず、まるでいつも俺から誘われているかのように

「うん。OKよ。いつもの所で良いの?」と返し持参しているお弁当を準備する。


(普通、いつも誘わないやつが誘ってきたら疑問に思い、聞き返すのではないのか?)


と内心思いつつも、ついてきてくれるのは今日の俺にとってはラッキーだ。俺はカノンが作ってくれた弁当を持参し、美香と一緒に誰も来ない校舎裏にあるベンチへと


向かおうとした その瞬間ー


美香

の携帯が、鳴った。






ー美香の携帯が鳴った。


クラスの連中がざわめく。


それはそうだ。これはただの女子生徒の携帯が鳴ったのではなく、「選ばれた者達(ナンバーズ)花乃美香」の携帯が鳴ったのである。


これは即ちBやAランクではなく、最高ランクに出動要請が来た。という事であり、それはこの国の危機であると捉えることも出来る。


加え、校内放送で避難指示が出た。ざわつく教室の中で冷静なのは直接出動要請が出た美亜と、今日何かしら起こることを分かっていた俺ぐらいのものだろう。


美香が3コール目で電話を切る。・・・合図なのだろう。電話を切った瞬間、美香はこちらに一瞥もくれず教室を飛び出した!!


「まずいっ!!」


美香の監視を命令されていた俺もその後に続く、教室の方から静止の声が聞こえてきたが、俺は迷わず美香の背中を追いかけた。


学校を出て、2~3kmくらい走っただろうか。美香が後ろをいきなり振り向いた。


瞬間、俺も隠れる。今日は美香の事を監視していることもあるが、なにより選ばれた者達(ナンバーズ)の戦いを目の前で見るチャンスだ。


監視と戦いの観察。どちらも行うためにはなるべく美香の近くでそして美香に気づかれないようにするしかない。そう思っていたのだが・・・


「いつまで着いてくるつもり?ストーカーさん」


どうやら気づかれていたようだ、観念して物陰から出る。


「ストーカーって,,,酷いな。ただ選ばれた者達(ナンバーズ)になったという幼馴染の闘いっぷりを観たくて来ただけなのに・・・。まあいいや、見つかっちったら仕方ねえ。おとなしく避難場所に戻るとするわ」


てきとうな言い訳をでっちあげ、その場を去るふりをしようとしたその時、


「待ちなさいよ」


冷たい声で引き留められた。


「どうせ誰かに私の監視でも頼まれているんでしょ?だったら思う存分そこで見てなさい。」


ただし、と付け加えて彼女は続ける


「そこから動かないで、なにもしないで、ただ、見ているだけで良い。」


「は?」


ー瞬間。彼女のが振り向いた先から人が現れ、こちらへ向かってくる。


30代くらいの男だった。眼鏡をかけ、前髪も目にかかるまである。細身で長身の。


「強い。」


俺がそう呟くが、彼女はその俺の言葉が聞こえていたかのように俺に向かって言った。


「強くないよ。私にとってはね」


彼女は敵がポケットに手を突っ込むのと同時に俺を軽く押す。


瞬間、俺のすぐそこを銃弾が通り抜けた


「うん。そこがベストポジション!動かないで。」


美香の言葉に黙って頷く。


「・・・チッ。アテソコナッタカ」


敵は舌打ちしながら再度、銃を構え、発砲。


「ッ・・・・・!!」


銃は命中した。


俺ではなく、


美香でもなく、


()()()()()()()()()()()()()()()


・・・理解が追い付かない


確かに銃弾は美香の元に向かって撃たれた


しかし結果的にその銃弾は敵の裏太腿に命中している


「クソ!コノママナンノセイカモアゲズニオワレルカァァァ!!!」


敵は銃弾をこっちに向けるとすぐさま発砲する


銃弾がすごい速さでこちらを襲う。


瞬間、脳裏によぎるー最悪の結末。


ー避けなければ。避けなければ。避けなければ。避けなければ。

    避けなければ。避けなければ。避けなければ。避けなければ。

        避けなければ。避けなければ。避けなければ。避けなければ。 

                               避けなければー死んでしまう。





               「「動かなくちゃ」」



               「「動かないで。」」


「っつ!!」


脚が、、、、足が動かなかった。


目の前にくる銃弾、嘲笑にも似た笑みでこちらを見る男。


そしてー


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なにかを唱える。


それでもなお、銃弾はこちらに向かっている。咄嗟に銃弾が俺の体を突き抜ける覚悟をし、目をつむる。


銃弾が俺の体を貫通し、激痛が体に響き渡る。






















・・・なんてことは、なかった。


目を開けると、自分に銃弾は当たらず、またしても敵に命中していた。


それも胸に、だ。


左胸に。


「よく動かなかったね」


美香はそういいながら目を細め、



「・・・私の闘い()()()()()()()()()()()()()()



かわいらしく、そういった。


無論、目を瞑ったため全てを観る事は出来なかった。


「だめだよ。目を閉じちゃ。」


「ちゃんと、私を、わたしの闘いを観てくれないと・・・だめだよ?」


・・・なぜだ?


なんで、この娘はここまで観てほしいんだ?なんでここまで俺に拘るんだ?


なんか、引っ掛かる。


答えは知っているはずなんだ。


あの彼女の部屋に行った際に見たはずだ。


全く思い出せないが。


「さてと、あとは()()を回収しないとなんだが」


「あれ」とはおそらく敵のー


と、ここで俺は異変に気付く。


「ー血が出ていない?」



「そうよ、今の相手は人間では無い。あれは、どちらかと言えばロボットよ。」


そしてー


「あなたが昇級試験とやらで戦う相手よ」





第六章:突然にそれはやってくる


『彼女は選ばれた者達(ナンバーズ)ですが、この試験には一切関わってないようですのでくれぐれも口外せずにお願いします』


・・・カノンはそう言っていた。言っていたはずだ。


なのに、いま、彼女は「あなたが昇級試験とやらで戦う相手よ」と言った。


なぜ?


何で知っている?


いや、それよりもまず、


「なんで、銃弾が打った本人に当たっているんだ?」


「ああ、それは私の能力ね。あんたに動かないように言ったのは私の近くにいないと発動しないから。」


美香はそう言うとポケットからケータイを取り出し少し話をした後、こちらを向き直り


「というわけで、ストーカー君。私の戦闘を観てしまったからにはただで返すわけにはいかないんで

 来てもらいますか。ナンバーズの本拠地へ」


マジですか…







「ああ、君がストーカー君かい?初めまして私がここのトップです。」


20分後、美香に手を強引に引かれやってきたビルの中でいきなり自己紹介をされた。


「トップとは?」


「ナンバーズのトップと言ったら一人しかいないわよ」


NO1。 つまりこの世界の”絶対”。 


灰色の髪。長身。優し気な目。そして、この落ち着いた雰囲気の20代後半の男の人だった。


「ああ、初めまして。ストーカー君はやめてほしいですけど」


「いやいや、駄目だよ。いくらNo5が美人だからって一般人がこの状況のセカイに出てきちゃ

 避難指示出てたでしょ?」


「すいませんでした」


ここだけは否定できない。確かにボスからは美香から目を離すなと言われていたが、下手に言い訳をしてなにか悟られるわけにはいかない。


No1はハアっと浅く溜息を吐くと


「まあ今日はペナルティは無くていいよ。今度から気を付けてね」


「はい。すいませんでした。では、失礼します。」


「私も彼を送っていくため、失礼します。」


あまりここにいてもいけない。そう判断した俺はすぐさま踵を返そうとして背を向けて部屋を出る。




「...まあ、ペナルティは試験のレベルを上げる事で手を打っとくからね。神異 零飛クン」


扉が閉まった後にナンバー1がぽつりとつぶやいたその言葉は俺と美香には届かなかった。


昇級試験の日時及び場所がおれに通達されたのは、次の日の朝だった。


場所はナンバーズ本部能力訓練場。


日時はー






4月22日。


ナンバー5 花乃美香はいつもの通り学校へ登校した。


しかし、ひとつだけ違和感を感じていた。


「…あいつがまだ来ていない?」


神異 零飛  ここ数日行動を共にしていた幼馴染。


登校時に会わなかったが、学校に来ればいつもの通り一人で机に座っているだろうと思っていた。


だが、学校につき、教室に入ってもその姿はなく、登校の期限を告げるチャイムが鳴り響いても、


その姿はついに現れなかった。


(体の調子でも悪いのだろうか?)


だったら今日授業が終わったらお見舞いでも行ってあげよう—


と、そこまで考えてふとある考えに至る。


「・・・っ!!」


何故…何故、その考えにこの時間まで至らなかったのか。


油断していたのか、気を抜いていたのか、はたまた平和ボケでもしていたのか


最愛の人が隣にいる。話せる。()()()()()


それが、どれほど尊く、どれほど非日常で、どれほど大切な事か


分かっていたはずだ。


分かっていたはずなのに—


人はそれを日常と感じてしまうと当たり前になってしまうと忘れてしまう。


それを、失うまで。


「クソっ・・・!!!」


美香は()()()()が頭に浮かぶと同時に教室を飛び出る。


静止を振り切り走る。


間に合え、間に合え、間に合え・・・!!!!!


愛しき幼馴染がいるであろう大抵の場所の検討はついている。


そこで何が行われるかも―。


このままでは、このままでは・・・()()()!!!


ナンバーズとして保有している能力を駆使し、今自分が出せる最高速度で向かう。


午前8時40分


美香は目的地へたどり着いた。


『ナンバーズ本部能力訓練場』に


急いで中に入る。


申請なしにこの施設に入ることは処罰の対象になることは分かっているが今はそんなことを言っている場合ではない。


彼が、愛しき幼馴染がここに来ているかもしれないのだ


彼が行う昇級試験は試験が行われる際、必ずナンバーズ全員に通達がある筈だ


だからこれは杞憂に終わるかもしれない。


ただ自分が無断で訓練場に入ったことによる処罰を受けるだけになるかもしれない。


それなら、それで良い


彼が活きてさえいてくれれば―。


とその時美香は足を止める。


理由は簡単。そこに人がいたから。


後ろ姿だけで分かる。


それは、神異 零飛の後ろ姿だ。





「良かった。間に合った。」


思わずそんな一言が口から洩れるがここは、ここで行わることは危険だ。


早くここから彼を脱出させないと・・・・


そう思い、彼の体を掴もうとしたー
















その瞬間—。


前方に倒れた。


グチャっという不快な音をたてて。


よく見ると彼の体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ああ・・・・」



そこで彼女は理解する。




「あああ・・・・・」




遅かったことを。




「ああああ・・・・」




もう、終わっていたことを



「あああああ・・・・・」




()()()()()()()()()()()()()()




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」






































期間開けながら書いてしまった初作品なため、至らぬ点が大いにあるとは思われますが、


最後まで観てくれた方がいらっしゃいましたらありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ