ゲームが強い。つまり偉い。
「キョウ」
「……何だ」
「お前って、女子高生だよな?」
「……おう」
「三年生のはずだから、つまり十八歳だよな?」
「つまりも何も十八歳だ」
「ということは、俺よりも若い訳だ」
「何が言いてぇ。はっきり言ってみろ」
俺は、言った。
「ざっこ(笑)」
「よし、表出ろ。アンタをぶん殴る」
ゲームでコテンパンにされ、頬をピクピクさせるキョウである。
「いやいや、最下位の分際でそんなイキがられても、ねぇ?」
「うっせ! しょうがねぇだろ、あたし、こういうピコピコほとんどやったことねぇんだよ! 家にも無ぇし!」
キョウもピコピコ族か。
なんか可愛いなお前。
「キョウ」
「何だ、ウタ!」
ウタは、言った。
「よっわ(笑)」
「アンタらホント似た者夫婦だな!?」
愕然とするキョウである。
「つか、ウタは別に、人を煽れる成績じゃねぇだろ!?」
「下を見付けたら煽る! それが儂らの流儀じゃ!」
「まあ俺は違うが。ウタさんに煽れって言われました。ウタさん、よくないねぇ、そうやって人をバカにするのは」
「おっと? その裏切りは流石に無理があるぞ? そもそも儂にげーむとげーむの作法を教えたのはお主故」
「……むぅ。初心者の子には、優しくしてあげないと、メッ」
「いいや、それは違うな、リン。一度勝負を始めた以上、全力で相手を叩き潰さないと、むしろ失礼ってものさ!」
「と言ってもお主、リンとカゲツ相手じゃとわかりやすく手を抜くがな」
「……さて、何を言ってるのかわからんな! よし、それじゃあ次の勝負と行こう。華月、代わるか? ……見てる方がいい? わかった、けどやりたくなったら言えよ? 緋月はー……やらんか」
窓際で丸くなっている緋月だが、尻尾をくりんと反応させたのを見る限り、別に眠っている訳ではないらしいものの、今日はやる気が無いようだ。
こんな感じで、緋月と華月のコンビは、あんまりゲームには興味が無い。
緋月はともかく、華月があんまり興味無さげなのは少し意外だったが、どうやらこの子は俺達がわいわいとやっているのを横から見る方が好きなようで、近くをふよふよと漂っているものの、代わるかと聞いても「大丈夫ー」と答えてくることの方が多い。
遠慮している訳でもなさそうなので、どちらかと言うと人のプレイとかを見ている方が好きなタイプなのだろう。俺も、ゲームの実況動画とかを見るのは普通に好きなので、そんな感じなのかもしれない。
時々ポフ、と頭に乗ってきたりするのだが、撫でてやると喜ぶのがすごい可愛い。リンもそうだが、この子の喜んでいる姿を見ると、本当に嬉しくなる。
毎日、笑顔で過ごせるようにしてやりたいもんだ。
あと、華月は緋月が好きというか、猫が好きなようで、ふよふよとよく追いかけている様子を見掛ける。
で、緋月は緋月で微妙に華月に甘いところがあり、気の無い時に俺とかが触ろうとするとキレて猫パンチを繰り出してくることがあるのだが、華月には「……まあ、華月ならいいか」といった感じで、好きにさせているのだ。
関係性としては、アレだ。緋月が長女、リンが次女、華月が末っ子って感じだな。何にせよ、仲良くやっているようで嬉しい限りだ。
「ちなみにキョウ、我が家は、ゲームが強い=偉いなんで、お前も我が家で過ごすのならば、精進するように」
「初めて聞いた掟じゃが、確かにの! つまりユウゴより儂の方が偉いということじゃ!」
「おっと、何か戯れ言が聞こえたな? お前の負けの歴史を今ここで高らかに語ってやろうか」
「何を言う、儂にあるのは輝かしい勝利の歴史のみよ! 少々の負けなど考慮に値せぬわ!」
お前それ絶対魔王時代のもの言ってるだろ。
いやそりゃ、あの頃のお前は、それこそ百戦百勝だったろうけどさ。
「絶対にアンタらのドヤ顔を歪ませてやるわ。絶対に」
「……うむむ。ゲーム、弱い凛、偉くない?」
「いいや、そんな訳ないだろ! 凛はどんな時でもとっても偉いぞ」
「……んふふ、良かった」
「こんな感じで、ユウゴはリンとカゲツには甘々じゃ。故に本気で勝ちに行く時は、この二人を味方にしておくと良いぞ。とりあえずユウゴには勝てるようになるでな」
「なるほど。わかりやすいな」
「……も、問題無い! 何人でも掛かって来いよ! どんな逆境でも、何が敵に回っても、勇者は負けん!」
「ということなので、リン、キョウ、ここで共闘じゃ! げーむが強いは偉い。言ったのは此奴自身! 故にここで、此奴を一番偉くない存在にしてやろうではないか!」
ウタの言葉に、しかしキョウは頷かなかった。
「……いいや、ダメだ! あたしにとって、優護もウタも打倒すべき対象。つまり……凛、あたしと組もう」
「……ん。杏お姉ちゃんと一緒」
「うぬ!? は、謀ったな、キョウ!」
「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは、こういう時絶対組んだりしないから、これで凛達の勝ちは固い」
「いや組むも何も、ウタはお荷物だし」
「ユウゴ、やはり儂の敵はお主じゃ。ここで必ず成敗してくれるわ」
「……ね? これで、二人は二人でやり合って、勝手に自滅する」
「お、おう。……この家で一番強いのって、やっぱこの子なんだな」
正解。
――そんなやり取りを延々に繰り返しながら、共に遊んでいる内に時間は過ぎて行き、やがて夕方が近付いてくる。
「ん、そろそろ晩飯の準備をせねばならんか」
「ホントだな。んじゃ、ここらで切り上げるか。ウタ、何か手伝うか?」
「白米任せた」
「了解」
「あたしも何か手伝うか?」
「心意気は嬉しいが、お主学校の課題があるとか言うておらんかったか?」
「……そうだった。忘れてた」
学校の課題。懐かしい響きだ。
「まあ、そう難しい課題でも無ぇし、後にしても――って、あー……しまった」
「? どうした、キョウ」
「いや、課題に必要なモンを、家に忘れてきちまった。ちょっと取りに行ってくるわ、あたし」
「あー、付いて行くべきか?」
こういう時に車があれば送ってやれるんだがな……やっぱ一台買おう。で、練習しよう。
「いいよ、そこまでやってもらうんだったら、学校の送り迎えもやってもらうべきだろうし」
「してやろうか?」
「アンタがアレな目で見られんのが、別に構わないんだったら、いいんだぜ? 通報されても今度は助けないが」
「そん時は校舎の中にまで聞こえる大声で、お前の名前を呼び続けるから問題無いな」
「やっぱ絶対付いてくんな」
「ユウゴー、牛乳が無い! 白米やったら、買って来てくりゃれ」
キッチンの方から聞こえてくる、そんな声。
「……なら、ご飯炊くの、凛やる!」
「お、ありがとうの、リン。では任せた!」
「悪い、頼むわ、リン。んじゃ、キョウ、途中までは一緒に行こうか」
「ん、わかった」
そうして駅付近まで共に行くと、キョウと別れて俺はスーパーに向かい――それから、帰宅するのとほぼ同時だった。
彼女の住むマンションが、燃えているという緊急連絡が入ったのは。




