引っ越し祝い《3》
レンカさんと共に買い物から家に戻ると、何故かリビングの空気が少しおかしかった。
別に、険悪って訳ではないのだが……。
「……ウタ? 何かあったのか?」
「いや、別に。少し話をしただけじゃ」
何でもない風を装ってそう言うウタであるが……様子がいつもと違うのは明白である。
それがわからないような、浅い付き合いじゃない。
思い出すのは……向こうの世界でのウタ。
そんな雰囲気を、ほんの少しだけだが身に纏っている。
珍しい。こっちの世界でその姿は、全くと言って良い程見せていなかったのに。
「くふふ、海凪 優護。凄まじい奥方であるな。ここまでの存在を見るのは、数百年ぶりであろうか」
「少し、怒られちゃいました。しっかりした奥さんをお持ちですね、海凪 優護」
怒られた?
ウタが、二人を怒る?
いったい何があったらそんな状況になるんだ……?
「……キョウ、何かわかるか?」
こそっとキョウに聞くも、彼女は首を横に振る。
「わかんねぇ。少し、席を外すよう言われてさ。……まあでも、あの感じだと、悪いことじゃねぇんだろ、多分」
「そ、そうか?」
「あぁ。多分だけどな。女の勘だ」
「女の勘か」
三人の方を見ながら、そう言うキョウ。
……まあ、キョウがそう言うなら、信じるとしようか。
そして、そんな空気を知ってか知らずか、レンカさんが買った食材をキッチンに出しながら言った。
「まあまあ、みんなお腹空いたからちょっとピリピリしちゃっただけでしょ。――うん、良いキッチンだ。お洒落なだけじゃなくて、しっかり機能性があって、ちゃんと使う人のことを考えてる。よーし、それじゃあ、私の本領発揮だね。任せて、飲食店店長として、お祝いに相応しい料理を作ってあげよー!」
「手伝うぞ、レンカ。儂の今の料理の腕、お主にしかと見せてやろう!」
「ふふふ、うん、わかった。楽しみだね」
「シロ、ツクモ、お主らも手伝え。働かざる者食うべからず、じゃ!」
「料理ですか。いいですね、任せてください。これでも腕には自信があります」
「……わ、妾もか?」
「いや? 別にやらんでも構わんぞ? てろりすと様は料理が出来ないのならば、そこでのんびりしておるがよい」
「で、出来んとは言うておらん! 普段やらんだけで!」
「あー、あたしも手伝いたいんだが……レンカさん、何かやれることありますかね」
「……凛も!」
「あるよー。今日は人がいっぱいだからね、やること盛りだくさんさ! 二人にはこれを切るの、そっちのテーブルでお願いね。――おっと華月ちゃん、君も手伝いたい? 念力で手伝える感じかな? ……わかった、じゃあ君も、切る組でお願いね! 杏ちゃん、見てあげて!」
「わ、わかりました。えっとー、じゃあ凛と華月、一緒に切んぞ。手ぇ怪我しないように――っつっても、華月は怪我のしようがないだろうけど」
あれよあれよという間に、準備を進めて行く女性陣。
残されるのは、俺と、我関せずといった様子の緋月のみ。
緋月も念力が使えるので、手伝おうと思えば手伝えるだろうが、まあコイツはしっかりお猫様なのでやらんな。今もリビングのソファの、日当たりの良い場所で丸くなっている。
お客さんに飯の準備をさせるのは、とか、俺も手伝いを、とか言いかけた俺だったが……やめる。
ここで俺が手を出すのは、ちょっと無粋か。
ま、こういう形での歓迎も、アリっちゃアリか。
友人を招くなら、一緒に料理作った方が楽しいだろうしな。
「……よし、緋月。そう言えば買ったキャットタワーまだ組み立ててなかったから、それ組み立てるか。登り心地を確かめてくれ。カスタム可能な奴だから、意見も言ってくれな」
「にゃあ」
すると、自分の興味のあることだからだろう、即座に身体を起こしてこちらに近付いてくる緋月。
どことなく挑戦的な表情で、「しっかり登り心地を確かめるから。私の評価は厳しいよ?」と言いたげな様子である。
「……一応お前も、自分で組み立てられるとは思うんだが。念力使えるし」
「にゃあう」
俺の言葉に、「それは飼い主の仕事でしょ。猫はそんなことしない」と答える緋月。
いやお前……まあいいけどさ。
苦笑を溢しながら組み立てていき――やがて完成して、緋月から「なかなか悪くない」というお言葉を頂戴していると、華月がふよふよとこちらまで漂ってくる。
「お、華月。もしかしてそっち、もう飯の準備終わりそうか?」
俺の言葉に、我が家はこくりと頷く。
「わかった、すぐ行くよ。緋月、飯だっ――て」
俺が言い終わるより先にピョンと昇っていたキャットタワーから飛び降り、ダイニングの方へ向かう我が愛刀。
全く……自由な我が刀め。
思わず笑ってしまいながら、俺はふと隣を漂う華月へと問い掛ける。
「華月。楽しいか?」
華月は、先程よりも大きくこくりと頷き、そして両手両足を、空中で精一杯広げてみせる。
多分、いっぱい楽しいと、そう言いたいのだろう。
俺はその頭を撫でてやり、共にダイニングの方へと向かった。
ウチは、人が少なくても大体毎日こんな感じだ。
お前には、是非ともこの騒がしさに慣れてもらおうか。
明日は……多分更新無し!




